<やくそく>


 


「・・・・・・」
うとうとしていた刹那は、風の音に顔を上げる。
部屋の中は広くて冷たい。
カーテンを薄くあけていたから、月の光でうっすらとは明るいけれど。
この部屋は広くて、寒い。

刹那は家から離れた場所で映画の撮影をしていた。
この仕事は、まだ二つ目の仕事。
それでも、大きな役だったから泊り込みの仕事になる。
ロックオンは一緒じゃない仕事。

机の上に置いてあった携帯電話の時間を見る。
「・・・あ」
泣き声ともつかない、声をあげる。
表示は、「0:01」。
「・・・・・・」
睫を伏せて、携帯電話を元の場所に置く。
それから、冷たいシーツの中にもぐりこんだ。


今日はもう、4月8日。
24時間、待ち続けていたけれど。
「ロックオン・・・」
来てくれるって約束したのに。
祝ってやるって、いつでもどこにいても、ちゃんと祝うって約束してくれたのに。
「ロックオンっ・・・」
呟いて、顔を枕にくっつける。
そうすれば頬に流れる涙なんか、わからないから。


足音もしない。
まだ、まだ、今夜の間なら間に合ったことにする。
十数えたらロックオンの足音がして、「遅れてごめんな刹那」って言ってくれる。
きっと言ってくれる。
一、二、三・・・

「・・・・・・ロックオン」

こない。
ロックオンは、来ない。
昨日の0時ちょうどにメールがあった、きっと会いに行くって。
だから忘れてるわけじゃないはず、なのに。
「くおん」
鼻の奥がつんと痛い。
それよりずっと胸が痛い。
もう17になるのに。こんなことじゃいけないのに。
「くおん」
泣き声が部屋にこだまする。











「・・・あ」
うすらと目を開くと、朝日が差し込んでいた。
だからもう朝が来たのだと、そうわかって絶望が瞳を影らせる。
今日は4月8日。
もう、17になり終えてしまった。
「おはよう、刹那」
声がした。
「ろっく、おん・・・?」
「誕生日、おめでとう。遅れてごめ――うおっと!」
刹那に抱き疲れた勢いでロックオンはひっくり返った。
あいたたた、と撃ちつけたところをさすって、とっさに受け止めた刹那を見下ろすと、ぐりぐりと顔を胸にこすり付けてくる。
「ごめんな」
「待ってた」
「うん、ほんとごめん」
「ずっと待って、ロックオン来なくて」
「・・・うん」
弟の黒髪をそっと撫でると、がばっと顔を上げて、今度は顔を曇らせた。
「ロックオン、仕事」
「あー・・・まあ、うん、今から出れば間に合うかなと」
目を泳がせたロックオンに、刹那は詰め寄る。
「いつ来たの」
「3時ぐらい?」

刹那はすばやくロックオンの腕時計の時間をチェックする。
いまはもう朝の7時。
4時間も、待たせてしまった。
「ごめん・・・」
「謝るのは俺のほう。はい、プレゼント」
ぽんと手のひらにプレゼントを乗せられて、刹那は目を瞬かせる。
「じゃあな、仕事がんばれよ」
「ロックオン!」
背中を向けた兄に抱きついた。

「あり、がと」

きっと仕事が忙しかった。
午前3時に、ここに駆けつけて。
・・・椅子に座ったまま、寝ないで。

無言でロックオンは刹那の頭を叩いて、いつもの笑顔を残して、部屋を出て行った。




 

 

 


***
ハッピーバースデー刹那。
ただのロク刹。
いいんだこれで兄弟愛だから。