<撮影の合間 6>
撮影が終了すると同時に、パトリック=コーラサワーは背中を向けてダッシュする。
残念なことに、その道はがっちりと笑顔のマリナ嬢によりふさがっていた。
「ま、マリナさん・・・その、どいてくれ」
「嫌よ」
微笑みながらきっぱりとパトリックの意向を無視してくれたマリナを、どうやって回避すれば良いのかと迷っている間に、襟首を後ろからつかまれた。
「離せクソ兄貴!!」
「ははははは、俺から逃げれると思うなよ。今日は夕飯に付き合ってもらうぞ」
「嫌だつってんだろ! 昨日から二十件以上もメール送ってきやがって! 俺の受信暦が兄貴の名前で埋まってんじゃねーか!」
「サンキュなマリナ」
「お安い御用です」
ジタジタ暴れる弟を後ろから羽交い絞めにして、満足げなアリーにそう答えて、笑顔を残しマリナは去っていった。
去っていったマリナはいいが、よくないのはパトリックである。
「俺は! 兄貴のむさい面拝んで食事なんかしねー!!」
「ようしようし、そんなに俺と食事ができんのがうれしいか、うれしいなあ!」
「人の話聞きやがれ!!」
わめいたパトリックを引きずっていくアリーを見ながら、同様に帰り支度をしていた弟sは深く溜息をついて心底思った。
(ああ、あんな兄じゃなくて良かった)
・・・と。
助手席に頭から押し込まれたパトリックは、何とか逃げ出そうとした瞬間にロックをかけられる。
「おっと、逃げるな」
「っ!」
慌ててロックを解除して逃げ出そうとしたが、次の瞬間急発進され、前のめりになる。
この兄は弟を殺す気か。
「何しやがるっ」
「おとなしく座ってろ」
「シートベルトぐらいつけさせろよ!!」
じゃあおとなしく乗るってことか、そりゃよかった。
笑いをかみ殺すような口調で言われて、ぎりぎりと奥歯を噛む。
ぶすくれた顔で助手席に座ったパトリックを横目で見て、くっくと笑ってアリーは手を伸ばすとぐしゃぐしゃと弟の髪をかき乱す。
「な、なにすんっ」
「いや?」
「離せ、クソ兄貴っ」
「やーだねっと」
げらげらと笑う兄の手を振り払って、パトリックは信号を睨む。
青信号になった交差点を、容赦なくアクセル踏んでアリーは突っ走った。
「ドコ行くんだよ」
「お前が自腹じゃ食えないとこ」
「え」
どこ!? と目を輝かせた弟に笑って、アリーは右折する。
何も教えてくれないアリーの態度に、パトリックは再び機嫌を降下させていたが、静かな車内にわずかな音が聞こえてきて、隣を見る。
ハンドルを片手で握りながら車をぶっ飛ばす兄は、ハミングをしながら前を見ていた。
「・・・チッ」
舌打ちをして、パトリックは腕を組んで座席に深く腰掛けた。
ついたぞ、とシートベルトを外すや否や引っ張られて、パトリックは転びそうになりながら外へ出る。
ぐいぐいと腕を引っ張られ、本気で関節が抜けると抗議しようとしてはじめて、自分がいる場所に違和感を覚えた。
「兄貴・・・なんだここ」
「俺のマンション」
「Σ( ̄□ ̄|||) 離せ!!!!!!」
絶叫したパトリックはしかし、気がつくのが遅かった。
すでにアリーは玄関を開錠し、パトリックを押しこんでいた。
「離せクソ兄貴! 出せ!」
「良い子にしてろ子猫ちゃん」
「バッ・・・出せってつってんだろーが! 俺はかえ」
玄関へ飛びつこうとしたパトリックを眼力だけで下がらせて、アリーはにやと笑った。
「そう遠慮すんな。アリー=アル=サーシェス様の手料理が食べれるなんてお前ぐらいだぜ」
「・・・いらねえ・・・」
ぼそぼそと呟いたパトリックに、アリーはリモコンを投げてよこす。
「うわっ!」
「テレビでも見てろ。ヤッ○ーマンが放送中」
無言でソファーに座り、テレビに向かってリモコン操作を始めた弟を満足げに見て、アリーはキッチンへと入ると包丁を手にした。
***
アリーは調理師の資格持ってるぐらいに料理が上手いと良い。
なんだかんだで仲良しですが、ロックオン−刹那みたいな、スキンシップやほのぼのさはないかもしれません。