<ソランの思い 刹那の思い>





『ロックオン ロックオン』

壊れたように繰り返す合成音声を聞きながら、ロックオンは来る時に備えて両手で耳をふさぐ。
響いたのは刹那の叫び。
それは撮影の時に一度聞いて、すぐに駆け寄って抱きしめたくなるほど悲痛な叫びだったから、放送時はぜったいに聞かないと決めていた。

画面が切り替わり、EDへと移る。
そういえばこのシーンを撮りに無人島にいた時が唯一な休暇らしい休暇だったなあと思いながら、さて立ち上がろうとした瞬間、横からのすさまじい衝撃に床に押し倒された。

「くおんっ! くおんくおんっ!」
「ちょ、お、落ち着け刹那! ど、どうした」
「し・・・死んだら嫌だ!」
「死んだのはドラマの中だけだろ」

苦笑して言うものの、刹那はえぐえぐとロックオンにしがみついたまま泣き続ける。
たしかに会心の演技だったけれども、そんなに泣き出すほど鬼気迫ってたのか。

「二期で、戻るよな? くおんは、戻ってくる・・・信じてる」
「いや・・・まあ、それは脚本をいただいてもいなければ予定の細部がないのでなんとも」
そろそろスケジュール的には、来てもおかしくないんだが。
というかそろそろ打診がこないと、スケジュールが空かないのだが。
まあガンダム00の依頼なら他の何をぶん投げてもやるけどさ。
「信じている・・・ロックオンは戻ってくる。俺といっしょにいてくれるって信じてる」

いくら刹那がそう願っても、彼の望みが叶う可能性は薄い。
いつぞや二役やるハメになったシーンでのもう一人のロックオンが出てこない限り、ロックオンがあのドラマに参加することはないだろう。
そうでなくとも、あのマイスターとしてのロックオンがドラマの中での刹那たちと再会する可能性は低い。
「共演しなくても、俺はお前の傍にいるさ」
「・・・だってそれじゃ、ソランがかわいそうだ」
ソラン、は刹那のドラマ内での本名設定になっている。
以前から刹那はドラマの中の自分と、現実の自分をやや重ねつつ区別して話している節があり、そのドラマ内での自身を表すときは「ソラン」と呼ぶ。
「俺は、俺にはロックオンがいても、ソランにはいないなんて、かわいそうだっ・・・」
泣きじゃくりながらそういった刹那の頭を、ロックオンはゆっくりと撫でる。

「も、もう二度とソランがロックオンに頭を撫でてもらえなくて、話も出来なくて、そうしたら・・・俺がそうなったら・・・俺は・・・」
「・・・刹那。大丈夫だ、お前もソランも強い。きっと、大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!!」
鼓膜がぴりぴりするほどの大声に、ロックオンは思わず片目を瞑る。
しがみついたままの刹那は、さらにぎゅうと顔を押し付けた。
「くおん・・・は、わかって、ない。俺がどれだけくおんを思ってるかなんて、わかってない」
「刹那・・・」
「くおんは、兄で、家族で、仲間で、目標で、尊敬してて、大好きで、大事で」
「・・・ああ」
「ソランだって、マイスターで、仲間で、大事で、大好きで」
「・・・うん」
「平気なわけ、ない・・・きっと、泣いてる・・・ひとりで、へやで、ないてる」

机の上のティッシュをとって、ロックオンは刹那の顔を上げさせる。
ぐしゃぐしゃになった顔をぬぐってやると、少し落ち着いたのか、目を瞬かせた。
「刹那」
「くおん・・・」
「ドラマじゃないが、俺もお前もいつかは死ぬさ」
「・・・いやだ」
ぶすくれたように言うその様子に愛しそうに微笑んで、ロックオンは姿勢を変えて刹那を抱え込む。
「いーか刹那。死ぬのは悲しいことだ、会えないし話もできない。だが死は悲しいことだけじゃない。死は開放でもある。ドラマのロックオンは、死で開放された。やり遂げた」
「・・・けど」
「俺はまだ死なない。ソランはともかく、お前はまだ置いてけない」
いやだ、と刹那は呟いて、ロックオンの肩に顔を埋めた。
「俺より先に死んじゃいやだ」
「刹那が死ぬのを見るのは、嫌だな」
「・・・・・・じゃあ、一緒に死ぬ」
「うーん、年齢的になぁ」

おにーちゃんがんばらないとなあ、と笑ったロックオンに頭を摺り寄せて、刹那は呟いた。
「くおん、生きて」
「まだまだ死なねーよ」
人生これからだぜ、と笑ったロックオンに、小さく頷いた。
 



 

 




***
刹那が甘えたです。