2月27日。
早朝。

朝の五時に目覚ましなしで目を覚ましたアレルヤは、隣で平和に寝ているハレルヤをみてくすりと笑い、自分の腰に腕を巻きつけているティエリアの腕をそっとほどいて、ゆっくりと立ち上がる。
先日引っ越したばかりのマンションは、3LKで、現在三人が雑魚寝しているのは和室だ。
本当ならアレルヤとハレルヤの部屋が別々にあるのだが、昨日はティエリアがアレルヤと寝ると駄々をこね、それなら俺も寝るとハレルヤがわがままを言い、三人仲良く川の字になって寝た。

真ん中からこっそりと抜け出して、忍び足でアレルヤは和室を出て行く。
自室で着替えてから、廊下をこっそりと忍び歩いて、キッチンへと向かった。



 



<今日は何の日>


 




まどろみながら、ぬくもりにしがみついてティエリアは小さく呻く。
雨戸が降りていない障子だけの窓から、朝日が差し込んで顔を直撃して、ティエリアは不満げに声を漏らして薄目を開けた。
「アレルヤ・・・まぶし」
「んー・・・」
隣のアレルヤが小さく動く。
その大きな体で隠してもらおうと、体の影に入り込もうと頭を摺り寄せて、ティエリアは違和感に気がつく。
・・・香りが違う。

「っ!?」
頭が一気に覚醒し、飛び起きた。
隣ですぴすぴと平和に寝ていたのは。

アレルヤではなく。


「・・・・・・!!!」

宿敵ハレルヤに、寝ぼけていたとはいえ同じ体格だとはいえ擦り寄ってしまったことに、言い表しようもない怒りを覚えて、ティエリアは立ち上がると思い切りハレルヤの腹にけりを入れた。



「ぎゃーーーっ!?」




「あ、起きたかな」
のんきなことを言いながら、アレルヤは皿を冷蔵庫に入れる。
フライパンの中のものを、最後の仕上げにお皿に盛り付けた。
「二人ともー、朝御飯だよー」
「このクソ野郎っ! なにしやがるんだ! 殺すぞ!」
「ふん、寝相が悪い男にはこの程度当然だ」
「どこがだよ!」

「二人とも、朝から仲良よしだね」
いやみではなく100%本心からのステキな言葉に、怒鳴りあっていた二人は口を閉じた。
このあと、アレルヤのあくまで本心からの二人の仲をたたえる言葉で、ずたずたに心が切り刻まれる。
「はい、ティエリアはフレンチトースト。これなら平気だよね」
「・・・ああ」
「ハレルヤはベーコンエッグにトーストね。今トースト焼いてるから」
「おう」
コップにオレンジジュースを注ぎながら、ハレルヤはどっかと自分の席に座る。
ティエリアは目の前に置かれたほかほかのフレンチトーストを、ナイフで丁寧に切って口に運んでいた。

「じゃあ、いただきます♪」
自身は玉子ご飯という三者三様の朝食をつつきながら、アレルヤは笑顔でトンデモナイことを言ってくれた。
「じゃあ、僕は午前はティエリアとショッピングモールに出かけてくるね」
「・・・え?」
目を丸くして、ハレルヤは食事の手を止めた。
「ハレルヤも五時までには家に戻ってること。いいね」
「・・・・・・・」
黙ってしまったハレルヤに首をかしげて、アレルヤは片付けのために立ち上がる。
うつむいて細かく手を震わせているハレルヤを横目で見て、ティエリアは黙々とフレンチトーストを飲み込んだ。











いってらっしゃ〜い、と明るい声で送り出してくれたアレルヤとは裏腹に、ハレルヤの表情はさえない。
(そか・・・そーだよなあ)
今年はティエリアという恋人がいる。
今まではハレルヤと二人で誕生日を祝っていたけど、今年からはティエリアと祝うのは普通かもしれない。
(俺はどーなんだよっ!)
何かを蹴り飛ばしたい衝動に駆られて、思い切り足を振り上げる。
手ごろな電柱があったので、蹴り飛ばそうと足をふりぬいた。

「ハレルヤ!」

鋭い声で名前を呼ばれて、思わずスカったハレルヤはそのままバランスを崩してしりもちをつく。
名前を呼んだ相手に怒鳴ってやろうと顔を上げて、止まった。
「・・・んだ、ソーマか」
長い髪をまとめて帽子の中に押し込み、もこもこしたコートを羽織っていたソーマが、困ったような目でハレルヤを見下ろしていた。
「何をしているんだ?」
「テメーのせいだよ・・・」
ぼやいて立ち上がり、コートの汚れを払う。
どうしてそうなる、と不満そうな顔をしたソーマの頭をべすべすと叩いた。

「で、ここで何してるんだ?」
「? お前が呼び出したのだろう?」
「はあ?」
「先日、ロックオンの携帯から私に電話があった。今日はボーリングに行こうと、お前が言っただろう?」
何を言っているんだ? と首を傾げられ、ハレルヤは思わず記憶をあさったが、当然、そんな覚えはない。
しかしメールではなく電話だったとソーマが言っているから、つまり。
「・・・・・・・アレルヤ」
ハレルヤのふりをして電話をかけるなど、アレルヤには朝飯前だろう。
最近ますます演技力に磨きのかかった双子を思い出して、ハレルヤは舌打ちをする。

てゆーかなんでソーマなんだ。
ロックオンも加担しているならロックオンが呼び出されろよ。
「どうしたハレルヤ、行かないのか?」
「・・・」
「早く行くぞ」
くるり背を向けたソーマを見て、ハレルヤは深々とため息をついた。

覚えとけアレルヤ。











五時まで。
そういわれたことは忘れていなかったので、ハレルヤは間に合うようにソーマとの遊びを切り上げた。
「そうか。もう時間か」
あっさりと納得したソーマにハレルヤは嫌な予感がしたので、イチオウ聞いておく。
「俺はお前に電話でなんか他に言ったか」
「ああ。五時から家にくるようにと」
・・・何がしたいんだ。

五時五分前に玄関を入ると、前から後ろから同時にパアンと軽い音がした。
目をぱちくりさせているハレルヤの頭から、紙のリボンなどがふってくる。
「「ハッピーバースデー!」」
声をそろえたアレルヤとソーマに反応が間に合わず、目をぱちくりさせて、絶句した。
「な・・・あ・・・あ」
「ほらほら、早くはいるぞ」
ドンとうしろからソーマに背中を押されて、よろめきながら玄関を上がる。
「ほらほら、外寒かったでしょ」
アレルヤにもぐいぐいと背中を押されて、ようやくリビングに入ると、そこには相変わらず仏頂面だったがパーティハット(紙製三角帽子)をかぶっているティエリアがいた。
部屋はモールなどで飾り付けられ、テーブルの中央にはデデンとケーキが乗っていた。


「・・・・・・・・・あの」
「ティエリア、グラスグラス」
ほらほら、と促されてティエリアはグラスをアレルヤに三つまとめて渡し、アレルヤはそれをハレルヤとソーマの手に押し込み、傍らのボトルを持ち上げる。
「これ、お酒なんだ・・・ちょっとドキドキするよね」
頬を染めてそう呟いて、栓を抜いた。
ぽん、と軽い音と共に取れた栓を横に置いて、アレルヤはとくとくとシャンパンをハレルヤのグラスに注いだ。
「ソーマは未成年だからジュースね」
「わかっています」
ドラマの中でつかっている敬礼を微笑みながらして、ソーマはテーブルの上のジュースをてにしてそれを自分のグラスに注いだ。


満たされたグラスをみながら、ハレルヤはいまだパニックだった。
「あ、あの・・・アレルヤ、俺は意味がわからな」
「飾りつけと料理すごいでしょ? ティエリアと二人で午後ずっとかかっちゃった」
あ、ケーキは朝焼いておいたんだけどね、と笑いながらいったアレルヤは、ちんっと軽い音を立ててハレルヤとグラスを合わせた。
「お誕生日おめでとう、ハレルヤ」
「・・・お、お前だって誕生日だろ!」
「あ・・・うん、そうなんだけど。僕にとって今日はハレルヤの誕生日、ってのが一番だから」
きょとんとした顔でそういって、ふわりとアレルヤは笑った。


つまり、アレルヤは今日早く起きてケーキを作り、午前は買出しにいき午後は飾りつけと料理を作っていたと。
・・・相変わらず、この双子は。


「お前さ、自分も誕生日とか忘れてんだろ」
「プレゼントもあるんだよハレルヤ」
ははは、と笑いながら持ち出したアレルヤの頭をぺしと叩いて、ハレルヤは溜息をついた。
「なんか俺、バカみてー」
「え? なんで!?」
「・・・いーって。俺からのもある、とってくる」

グラスを置く前にハレルヤはぐいっとシャンパンを飲み干した。
対してアレルヤはちびちびとそれを口に含んでいる。
今まで本当に飲んだことがなかったらしい、生真面目な弟に微笑んで、ハレルヤは自室へと向かった。





 

 

 



***
祝ってないかもしれませんがハレルヤメインでいきました。
アレルヤは自分が誕生日ってことを忘れ去って、ハレルヤを祝うことに一生懸命になっていそうです。