※アニメ第11話より
<Ein Erwachsene>
アレルヤが二十歳を迎えたという情報はいつの間にかクルー達の間にも流れていた。
マイスターの個人情報は最重要機密のひとつだ。
しかし誕生日くらいは別に秘密でもなんでもないだろうし、特に隠していたわけでもないので、スメラギあたりが話したのだろう。
その日一日アレルヤに会う人は決まって祝いの言葉を口にした。
トレーニング室で一緒になったロックオンに言えば、スメラギさんから聞いたのだと予想に違わない答えを返される。
「二十になったんなら今度飲もうぜ」
「スメラギさんに少しいただきましたけど・・・あんまり好きじゃないかも」
「あの人の飲む酒は強いからなぁ」
いきなりあれは厳しいだろとロックオンは笑い、今度もっと軽い酒を用意するからと半ば強引に飲む約束を取り付けられた。
「それはそうと、ティエリアには会ったか?」
「ティエリア・・・? 今日はまだ会ってないけど」
そういえば今日は一度も顔を合わせていない。
いつものように朝ティエリアの部屋に起こしに言ってもすでに部屋にはいなかったし、食事の時も姿を見ていなかった。
「アレルヤがくる前に顔見せて、お前さんがどこにいるか聞いてきたぜ?」
「そう・・・後で探してみる」
「ああ」
それじゃぁお先に、とトレーニング室を出て行くロックオンに手を振って、
アレルヤは今日のトレーニングは少し早めに切り上げようと思いつつ器械に座った。
自室で開いていた本を閉じて、アレルヤは机の上に置いてある時計を見た。
時刻はそろそろ二十三時を指そうとしている。
明日は朝イチで訓練が入っていたはずで、そろそろ寝たほうがいいのは分かっていた。
けれどどうにも気分が落ち着かなかった。
結局あれからティエリアを探したのだがどこにもいなかった。
食堂もティエリアの自室もミーティングルームもいない。
、ロックオンの証言以外、誰からもティエリアがどこにいるか情報を得ることはできなかった。
この狭い艦内で一日まったく顔を合わせないのは意図的でなければ不可能だ。
何か気に障ることをしてしまったのだろうか、しかしロックオンはティエリアがアレルヤを探していると言っていた。
アレルヤが機嫌を損ねるようなことをしたのなら、探すわけがない。
僅かに息を吐いて、アレルヤはベッドから腰を浮かせた。
この時間ならティエリアも部屋に戻ってきているはずだ。
失礼になるのは分かっていたから、悪態のひとつは覚悟の上だ。
ドアをノックすると、ほどなくしてドアは開いた。
「誰だこんな時間に・・・」
不機嫌そうなティエリアは、訪問者がアレルヤだと気づくと表情を強張らせて足を引いた。
ドアを閉められる前に無理矢理体を押し込んで閉まらないようにする。
「ティエリア、こんな時間にごめんね」
「・・・・・・・・」
柳眉を下げたアレルヤに、ティエリアは気まずそうに視線を逸らした。
「僕、何かしたかな」
「そんなことはない」
視線を逸らして答えるティエリアに、だったらどうして僕を避けていたのと重ねるように問う。
「・・・今日が誕生日だと、ヴェーダで見た」
「うん」
「会ったらおめでとうと言わなければならない。だから逃げた」
それはつまり、ティエリアはアレルヤの誕生日を祝いたくなかったということか。
どんよりと肩を落として落ち込むアレルヤに、ティエリアは歯切れ悪く言葉を続けた。
「君はあまりその言葉を望んではいないようだったから」
会う人誰もが祝ってくれた。
誕生日はその人がこの世に生まれた日、祝福する日だ。
あの日。
引き金を引けともう一人の自分が言った。
できないとあの日の少年は叫んだ。
その手を同胞の血に染めて、同胞の命と引き換えに、子どもは大人になった。
だから誰かに「おめでとう」と言われる度に、心の底がじくじくと疼いた。
皆の好意が全く嬉しくないわけではなかったから誰に言うこともなかったけれど。
その事にティエリアが気づいてくれていたのは驚きと同時に嬉しくもあった。
「ねぇティエリア、おめでとうって言ってくれないかな」
「嫌じゃないのか」
「・・・・・・・うん、そうだね」
たぶん誰よりもティエリアに言ってほしくて、言ってほしくなかったのだ。
誰よりもアレルヤはティエリアにここにいることを、生きていることを許してほしくて。
そうしてのうのうと許されようとするのが後ろめたくて逃げようとしていた。
それすらもアレルヤの独り善がりでしかないというのに。
「おめでとう」
ふわりと髪に触れる手。
頭を引き寄せられてティエリアの匂が濃くなる。
日頃アレルヤがティエリアにやるように優しく髪を梳きながら、ティエリアが重ねた。
「祝福する、アレルヤ・ハプティズム」
君が俺の側にいることを。
付け足された言葉にアレルヤは目を見開いて、次いで何かを堪えるように目蓋を閉じた。
腰を折った多少窮屈な姿勢のまま肩口に顔を埋めておずおずと背に手を回す。
「ティエリア、今夜は一緒にいてくれないかい」
「なぜ?」
「・・・一人では寝られそうにない」
「子どもだな」
二十は成人の年ではなかったのか。
すぐ近くで小さく笑う気配がする。
そうかもしれないねと返すアレルヤの頬を、堪え切れなかったものが伝い落ちた。
***
おめでとうアレルヤ&ハレルヤ!