<撮影の合間5>

 



「大丈夫か、痛くねーか、いや、痛いだろ、痛いだろアレルヤ」
「大丈夫だよ、そんなに心配しないで」
「いや、絶対痛い。今日はもう帰るだろ、病院行くぞ」
包帯の巻かれた手に自分の手を重ねて、ハレルヤは珍しく気弱な表情を浮かべていた。
撮影中に諸事情でアレルヤが手首を軽く捻挫してしまったのだ。
「本当に平気だよ。ちゃんと動くし・・・たたた」
「ほら、痛いだろーが。無理するな」

アレルヤの荷物をもって立ち上がる。
それから先ほどから少し離れた場所でこちらをちらちら見ていたティエリアをにらんだ。
元はといえばこいつのせいだ。
不安定な足場でもないくせに、よろけるから。
その彼を受け止めようとしてアレルヤが手首をひねったのだ。

大体いつの間にかアレルヤと仲良くなったのも気に入らないし(どうせ人のいいアレルヤをパシろうとでも思ったに違いない)、アレルヤがティエリアをなにかと気にかけるのも気に入らないし、なんか自分と扱いが違うのも気に入らないし、何よりこいつがそばにいるときのアレルヤの笑顔が気に食わない。
そんな顔兄弟の自分にだってしないくせに!

「アレルヤ」
「あ、ティエリア。終わったの?」
「帰る」
そこで無根拠に、ティエリアがアレルヤにくっついて家に来ると確信できた。








二人暮らしをしているマンションはやや手狭だが、きれいに片付いている。
それもこれもアレルヤがこまめに掃除をするせいであり、けしてハレルヤが貢献しているわけでは、ない。
むしろ彼は一方的に散らかしている側である。
アレルヤに苦情を言われたことはないけれど。

「あがって。お茶を淹れるね」
「無理すんじゃねーよ! 手ぇひねったんだろうが!」
どかどかとキッチンへ歩いていったハレルヤは怒りを隠せない。
隠すつもりもない。
ティエリアがこればアレルヤは気を使うのがわかっているのになんだってくるんだ、元凶の癖に。
「アレルヤ、無理をするな」
「大丈夫だよ・・・二人とも心配性だな」
笑ってリビングに入ったアレルヤは無理やりソファーに座らされた。

「あ、ハレルヤ。昨日プリンを買ったよね。出してあげて」
「わーったよ」
ばん、ばしん、という音の後にハレルヤがマグカップに入ったコーヒーと、プリンを持ってやってきた。
「ほら」
受け取ったアレルヤは一口コーヒーを飲んで微笑む。
「ありがとう・・・あれ? カップ二つしかないけど」

ふん、と鼻を鳴らしてハレルヤは片方のカップを手に取るとぐいと飲んだ。
「ほしければ自分でもってこいよ」
「ハレルヤ!」
「かまわない、アレルヤ」
アレルヤの隣に座って、ティエリアは微笑む。
その笑みに嫌なものを覚えて、ハレルヤはうぐとのどに何か詰まったような声を出した。

「利き手が使えないと不自由だろう」
「え、そんなことないけど・・・」
アレルヤの返事を聞かず、ティエリアはマグカップを彼の手からうばって口に含む。

驚いたのはハレルヤだ。
ティエリアは甘党で、コーヒーのブラックは絶対に飲まないと思っていた。
実際、砂糖とミルクをちょっと(ハレルヤとしては精一杯)入れて出したら「苦いまずい淹れ直せ」といわれたこともある。

「ちょっと、ティエ・・・!?」
「う、わっ、おいこらティエリア!!!」
双子は裏返った声を同時に上げた。
ティエリアはコーヒーを口に含んだ直後に、アレルヤを引き寄せて唇を合わせていた。
アレルヤは頬を真っ赤にして目を見開いているし、ハレルヤにいたっては頭に血が上って思わずカップを落とすところだった。
「んっ・・・ん、そんなに甘くはならないな」
「てぃっ、てぃっ、ティエリア! な、なんてことするんだお前は!」
怒鳴ったハレルヤは綺麗に無視して、ティエリアはその手をプリンに伸ばす。
スプーンを片手に取り、一口分をすくい上げて真っ赤な顔のアレルヤに微笑む。
「ほら口を開け」
「う・・・ティエリア・・・は、恥ずかしいよ」
「口」
おずおずとアレルヤが口を開くと、ティエリアはスプーンを中に押し込む。
ちゃんとアレルヤがプリンを食べたのを確認して、また一匙すくう。
「い、いいよ、自分で食べられるから」
「俺の所為だろう。だから治るまで俺が世話をする」
「え」
予想外の言葉にフリーズしたアレルヤに擦り寄って、ティエリアは彼の口にプリンを運んだ。










「・・・・・・で、何でここにくる」
「だって・・・だってあれ以上あの部屋にいられるか!」
ガシ、とハレルヤが蹴った置物を立て直してロックオンは溜息をついた。
現在刹那は沙慈のところへ遊びに行っていてよかったというべきか。
「ティエリアの野郎っ・・・アレルヤは俺の兄弟なんだぜ! なんだってあんなヤツがべたべたしてんだー!!」
もっともなハレルヤの絶叫だったので、ロックオンは苦笑した。
その気持ちはわからないでもない。
ロックオンだって刹那が以前、何気なしに自分ではなく沙慈の隣に腰をおろした時プチショックを受けたものだ。

それにしても、ハレルヤがいるのにそんな行動を取るとは・・・
「お前、なんかティエリアの機嫌損ねることしただろう」
指摘してみれば、ぱきりと固まって口をへの字に曲げた。
「わかるわけねーだろ、五万としてらあ」
「・・・ああ、なるほど」
それでストレスがピークに達して噴出したのか。
それともいい加減ブラコンぎみのハレルヤを追い払う方針を固めたのか。
それ以外の場所で腹に据えかねることがあったのか。

「まあ・・・なんだ。兄弟とはいつかは別れるわけで、お前もとっとといい人を作ったほうが」
「あんな鬼畜サドに渡すもんか!」
「お前だって鬼畜でサドだろうが・・・ある意味アレルヤがすんげぇ大物だと思う・・・」
なにせティエリアとハレルヤは、相手の頭を踏みつけて身包み剥いで靴の裏を舐めさせてから平然と「三回まわって死んで来い」とか言いかねない人種だ。
その二人がどんな極悪人でも思わず改心したくなるぐらいいい人なアレルヤを間に挟んでにらみ合っているのだから、人間って自分にないものをありがたがる性質があるんだろうと本気で思う。

「ま、まあその、あきらめろ」
「・・・」
険悪を超えて人を殺せそうな形相になったハレルヤから思わず顔を背けて、なんだってあの穏やか天然とこれが兄弟なのかとロックオンはしみじみ自然の神秘に感謝した。



 

 

 

 

 


***
ティエリアはハレルヤがとてもきらいです。
ハレルヤはティエリアがとてもきらいです。
アレルヤはそんな二人が仲良しと信じている。

難しい三角関係。