※アニメ第14話より


<灰色>

 


立てられた慰霊碑に、あの時の面影はない。
並んだ死骸は全て綺麗にこの塔の下に収まっているとでも言いたいのか。
あの時の悲しみと、痛みと、怒りは。

「・・・」
無言で開いた窓から見上げた。
地上に降りると、ここの場所のことばかり考えていた。
だから来た。
近々、大きな紛争が起きると聞いて。
だから来た。

一度ぐらい、見ていてもいいと思ったのだ。
フラッシュバックと呼ばれる現象が気にかかったが、アレが何年前か考えるのもバカらしいし、それがあるのならもっと前に経験しているはずだ。
そう、人の命を、CBとして、理不尽に奪ったその時に。

それよりもっと建設的な心配をした。
ここにくるのは観光客ではないからだ。
しかしよしんば関係者とわかったとして――アレからもう十何年もたっている。
「彼」が当時の子供と結びつくはずが、ないのだ。


静寂に浸っていると、呼び出し音が響く。
ディスプレイを見ると、リヒテンダールとの名前があった。
出ないということも考えた、時差のある場所にいたとすれば寝ていても不思議ではない。
だが何でここにいるか説明するのは面倒だ。
ロックオンは機械のスイッチを弾いて目的のものを探し出し、音声のみのモードにして通話を始めた。

「何の用だ? 定時連絡はしてるだろ」
『いや・・・なんとなく』
苦笑しながら頭をかくリヒテンダールの表情は、普段ならほほえましいものだが今日は何も感じない。
今の自分を刹那やフェルトが見たらびっくりさせてしまうだろうな、とそこの思考だけは「ロックオン」でありつつ、何気ない声色を装る。
『ていうかもしかして女の子っすか! いったい何人はべらしてんすか!?』
興奮気味な、青年としては正しい反応をするリヒテンダールの後ろでクリスティナがぼそりとなにか呟く声が聞こえた。
まあ唇の動きで言わんとしていることはわかったが。
「ばーか、野暮なこと聞くなよ」
軽い笑いをにじませて返す。
機械からの音声は直接耳にすれば違和感があるが、機械を通してしまえば違和感のあるものではなくなる。
しかしこうもあっさり邪推してもらえるとは、日ごろ自分はどう思われているのか。

「用がないなら切るぞ、じゃあな」
『あ、ちょ、ちょっと!』
どうせマイスターがどうのという話題だったのだろうが、ロックオンはきっぱりとその一言と共に通信を切った。
何でティエリアがいるのにアレルヤがいないのだろうとか、そのあたりはどうせ馬に蹴られるだけなので放置を進める。
刹那がまた独断行動を起こしているらしいが、正直関与するつもりはない。
どうせ戻ってきてから、やらかしたと自覚があればロックオンの前で項垂れるのだ。
自覚がなければティエリアあたりが毒をぶつけてくれるに違いない。


音声を消して、もう一度外を見た。
夜空の中にそびえる塔は、美しい。
美しくそして無機質で、過去にとらわれている自分をあざ笑うようだった。
あの時の衝撃と破壊と、哀しみと怒りの跡はどこにも。

「・・・こんなに綺麗になっちまって」

どこにも、ない。



けれどあの時、あまりに無力で滂沱と涙を流すことすら出来なかった自分は。
比類できない力を持って、今ここにいる。

それは一つの真実だった。