※アニメ第14話より


地下室でヴェーダの情報を見ていたティエリアは、溜息をついて眼鏡を外した。
長い間スクリーンを見ているのは疲れる。
だから、そろそろ部屋に戻ってアレルヤの淹れてくれたモカを飲もう。
そう思って立ち上がって、はたと気がつく。

そういえばアレルヤは今、宇宙で。
自分は今、大嫌いな地上にいる。

「・・・・・・」

事の発端は、二日前だった。


 

 




<too far from L point>




 

 


精神衛生面という意味不明な理屈により、マイスターやクルーはこぞって地球に降りることになった。
スメラギが「人ってそう出来ているのよ」とホザいたので、反論してやろうとヴェーダに問うてみたのに、ヴェーダの答えはスメラギと同じだった。
「・・・行きたくない」
「ティエリア」
出立の前日、アレルヤの肩に捕まってぐずると困ったように頭を撫でられた。
「スメラギさんが意味なくそんなこと言わないと思うんだ、だからきっと」
「わかっている」

おそらく何かが起こる。
彼らはそれに待機するためにいくのだろう。
それをクルーに伝えないのはスメラギのやさしさだとアレルヤは言った。
どっちにしろ任務ならば降りなくてはいけない、だから仕方ない。
それにクルー全員で降りるならアレルヤも当然一緒なのだから、少しは気が楽だ。
地球の方がアレルヤは楽しそうにしている、それを見るのは好きだ。
「地球は嫌いだと思うけど、ガマンしてね」
「大丈夫だ」
そういうと、ふわりとアレルヤは微笑んだ。
「なら、よかった」
「ああ」

その代わりに、地球に降りたら毎日アレルヤといよう。
そうしたらあの不愉快な場所でも、少しは過ごしやすいと思う。
前回のミッションで降りる羽目になった時も、アレルヤがずっと隣にいてくれたからそれほど不快じゃなかった。
そうだ、もし数日何もないならアレルヤが好きな、人のいない場所に連れて行ってもらおう。
誰もいないような場所で、アレルヤだけが隣にいるのはきっと気分が良いに違いない。

ひそやかにそう心に決めたティエリアに、アレルヤは笑顔で爆弾を落とした。
「僕はドックへ行くからね。一人じゃダメかと心配したけどよかった」
「何・・・!?」
それはティエリアにとって晴天の霹靂だった。
アレルヤが一緒に地球に降りない!?
今までだって彼は機会を見て地球に降りていたではないか。
つい先週だって。

「ど、どうしてだ」
「僕は普通の人より頑丈に出来ているし・・・一人はドックにいないと、ちょっと心配だしね」
きょとんとした顔で答えたアレルヤをティエリアは睨み上げる。
だが大丈夫と言ってしまった手前、撤回など出来ない。
一人は嫌だから一緒に来いなどといえば、「だって刹那やロックオンや、他のクルーだっていっしょだよ?」と不思議そうに返してくるに違いないのだ。
お前だけが特別なんだと、何度言ったらわかるのか。
「う・・・くっ」
「ヴェーダもマイスターが一人残ることを推奨したし、君は負荷のかからない方法で降りたほうがいいよ」
「・・・」

確かに戦闘に備えて単独降下する場合、体への影響はそれなりに大きい。
クルーと共に降りたほうが安全だ。
そんなことはわかっている。
わかっているのだけど。
「だけど・・・」

アレルヤが一緒じゃないなら。
地球には爪の欠片ほどの魅力もない。
嫌気がさしてもなだめてくれる手はない。
落ち着かせてくれる声もない。
「どうしたのティエリア」
「なんでも、ない・・・」
唇を噛んでティエリアはアレルヤから身を離す。
荷物は全部アレルヤが用意してくれていた。
後はそれを持って出て行くだけ、それだけなのに、それだけなのに。

「アレルヤ」
「気をつけてね、ティエリア」

彼とはなれるのがこんなに嫌なのに、相手はそう思っていないらしいことが癪に障った。
だからティエリアはむっとした表情を浮かべて、眼鏡越しに睨んでアレルヤを突き放す。
低重力の中で、彼の体がふわりと浮いて離れた。










羽を伸ばしておけとのスメラギの言葉に従って、皆が好き勝手を続行する。
ティエリアは天井までの高い窓の近くに立って、青空を見上げた。
「・・・・・・」

アレルヤからの連絡は来ない。
別れ際のあの行動に怒っているのだろうか。
けれどアレルヤはめったなことで怒らなくて、怒ったとしてもティエリアにする態度は変わらなくて。
だからわからない、どうして連絡がないのか。

「アレルヤ・・・」
誰もいなくなった共用ホールで、窓に手を当てて呟いた。
軍事演習の話題がうれしい。
介入することとなるだろう。
それには四人のマイスターの力が要る。
だから彼も、降りてくる。


大嫌いなこの地球に。