<コーヒーメーカー>
ティエリアが談話室に行くと、すでに他の三人はソファに座って談笑していた。
とは言っても口を開いているのはもっぱらアレルヤとロックオンのみで、刹那は黙って二人の話を聞いているだけだ。
部屋に入ると同時に気付いた甘ったるい匂いは刹那が持っているココアから漂ってくるもので、それに混じってロックオンとアレルヤの飲むコーヒーの匂いがした。
ティエリアが入ってきたのに気づくと、ロックオンとアレルヤは会話を中断してティエリアに視線を向ける。
ティエリアがいつも訓練後にデータをチェックしてくるのを分かっているので、遅れてきた理由を尋ねる者はいない。
「お疲れ様、ティエリア」
「ご苦労さん」
声をかけてアレルヤが席を立ち、談話室の隅に用意された簡易コンロに向かう。
ロックオンの言葉を流してティエリアは半ば自分の定位置と貸しているソファに座る。
刹那とロックオンの向かい、つまりはアレルヤの隣に。
コーヒーメーカーに手をかけたアレルヤが振り返ってモカでいいよねと尋ねてくるのに頷いて、膝を組んだ。
コーヒーメーカーは談話室と食堂にしか設置されておらず、インスタントでないコーヒーを飲みたいのならばそのどちらかに行かなければならない。
そして訓練後にインスタントよりもまともなコーヒーを飲みたいと思うのは全員らしく、半ば必然的にマイスター四人が結果として談話室に集まる事になり、そのままミーティングに流れ込む場合も少なくなかった。
ティエリアとしては貴重な休憩時間にまで顔を合わせなければならないと思うとうんざりするが、食堂ではモカが飲めない。
「で、どうでしたよ今回の結果は」
「個別での戦闘結果は及第点ですね」
カップ片手に尋ねてくるロックオンにティエリアは素気無く返す。
後のミーティングで数値から明らかになることだが、今回の戦闘訓練の結果は悪くなかった。
「その言い方だと、やっぱり連携は悪いんですかねぇ」
「分かっているのなら改善に努めてください」
特にそこの隣に座っている彼、と言外に付け足したティエリアに、ロックオンは苦い笑いを浮かべる。
当の刹那は会話を聞いているのかいないのか、ティエリアとロックオンに視線を向ける事もなくココアを飲んでいた。
「やっぱエクシアとデュナメス、キュリオスとヴァーチェで組むのが一番なんじゃね?」
「機体の能力的には他の組み合わせも視野に入れておきたいところでしたが・・・この調子じゃそうするしかなさそうですね」
これ以上訓練しても意味がなさそうだ。
累積データを思い出して告げたティエリアにカップを差しだして、アレルヤが会話に入る。
「はい、ティエリア。続きはミーティングでやろうよ。せっかくの休憩時間なんだから」
ね、と促されて、ティエリアは息を吐いてカップを受け取った。
湯気の立つ中身に数度息を吹きかけて、一口啜る。
コーヒーの苦味と牛乳と砂糖の甘みが口の中で混ざり合って、ティエリアはほう、と息をついた。
「おいしい?」
「ああ」
「ティエリアはアレルヤの淹れたのにはケチつけねーな・・・俺が淹れると不味いって言いやがるくせに」
「下手なんですよ」
「へいへい」
ひらひらと手を振るロックオンに、そんなことないですよとアレルヤが弁護するが、向こうも本気に取っていないので、笑って隣の刹那を構い始めた。
実際ロックオンはコーヒーを入れるのは下手ではないし、他のクルーの定評がある。
ティエリアとて本心からまずいと思っているわけではないが、それよりも上級の味を知ってしまっているのだから、そちらを飲むのは当然の事だ。
おかげで自分で淹れるものも碌に飲む気がしなくて困る。
それは刹那がロックオンの作るココアを一番好んでいるようなもの。
自分のためだけに作られた一杯こそ、一流のものよりも上質だと思うのは、至極当然のことではないか。
そう結論、付けて、ティエリアはまた一口甘苦い飲み物を口に入れた。
***
刹那とティエリアは各々専用のドリンクメーカーを所持している模様。
煮詰めたら煮詰めた分だけ話がまとまらなくなった・・・orz