<撮影の合間2>

 



真顔で彼が言った時、それが本音なのか冗談なのか全員が固まった。
「米が食べたい」
「あの、ティエリア?」
何のことだろうと、アレルヤが思わず突っ込んだが、ティエリアは真顔で同じ事を言った。
「米が食べたい」
「・・・おせんべいならあるよ?」
すちゃりと沙慈がポッケからせんべいを取り出すが、ティエリアは首を横に振る。
「大体お前、昼飯の弁当は米が入ってただろうが」
台本片手にロックオンに突っ込まれて、ティエリアは違うと眉をひそめた。
「あなたにはわかりませんよ」
「・・・相変わらず慇懃無礼なヤツだなお前・・・」

これから長いんだから頼むよ、とぼやいたロックオンはぱしぱしと手にしている台本を叩く。
「誰だよ、キャラそのまんまの性格の新人キャスティングしてきた奴ぁ!」
「ロックオンさん・・・不満ですか」
「おう、不満だとも! しかも何だか俺だけ疎外感! 俺だけ二十代! 俺だけプロ! お前ら全員新人!」
そんな彼は配役ぴったりの性格だったが、突っ込む勇者はいなかった。
いや、いた。
「事実一人だけの二十代ですし、はまり役かと思いますよ」
「・・・・・・ニコヤカな笑顔で言わないでほしいなあ、沙慈よ。っつーかお前もプロだったか」
「イヤですね、僕はただの子供モデル→子役→端役 です。いやもう、クレジットで2ページ目に名前が出る役なんて初めて」
あはははは、と笑った沙慈の目があんまり笑っていなかったことについて、ロックオンは言及しないようにしようと決めた。

とりあえず俺は疲れてんだよーとぼやいて、先ほどからずっと隣でパック牛乳を飲んでいた刹那の首に後ろからがっしりと腕を回して抱きつく。
「なー刹那ー。刹那は俺を困らせたりしないよな〜」
「沙慈、飲んだ」
ロックオンを丸無視し、刹那は空になったパックを沙慈に差し出す。
それを受け取ると、沙慈はちょいちょいとハンカチで刹那の口元をぬぐった。
「刹那、そろそろ出番だよ」

無言で頷いて、刹那はロックオンを見上げる。
「離せ」
「は〜い」
よいっと、とロックオンが手をほどくと、てってと刹那は監督が準備をしている方へと歩いていく。
微笑んでそれを見送っていたアレルヤは、ぽんと肩に置かれた手に振り返った。
「あれ、ハレルヤ。また来たの」
「・・・アレルヤだけスカウトされんなんてずるいだろーがっ! 俺はどーなんだよ俺は俺っ!」
ぷう、と頬を膨らませた相手に苦笑して、アレルヤはなだめに回る。
じろりとハレルヤを睨んで、ティエリアはフン、と鼻を鳴らした。
「実力でしょう」
「てめっ、ティエリア! じゃあなんだ、俺がお前に劣ってるとでもゆーのか!!」
「少なくともアレルヤに劣ってるのは確かかと。だから先日のハレルヤ登場シーンでもアレルヤがあなたを演じたんだ」
「ティ、ティエリア、そのへんにし」
「てっめ!! 俺がアレルヤに劣ってるって言うのかよっ!!」
「撮影中なんですからその耳に痛い大声で怒鳴らないでいただけますかね」

薄いレンズ越しに見上げて、ティエリアはあざけるような微笑を浮かべる。
大変絵になる図ではあったが、ハレルヤの神経を逆なでするに終わった。
「おいおい、ハレルヤそうマジになるなって。あのシーンだけお前を入れても、編集が大変なだけだからだよ」
「そうですよ、それに劣ってるとかいう問題じゃなくて、二重人格という設定上単にいらないだけですから」
微笑んだ沙慈のステキな台詞に、ハレルヤはガビチョーンという顔をして、スタジオから走り去っていってしまった。
「・・・沙慈君、その台詞はちょっと・・・」
やれやれ、と苦笑したアレルヤは、台本をいつの間にか開いているティエリアの頭を撫でた。
「さあ、そろそろ準備だよ、ティエリア」
「嫌いだ」
「もう・・・なんで二人はそんなに仲が悪いかな・・・」

溜息をついたアレルヤに。


そりゃ二人ともお前を一人じめしたいだけじゃ



とは、さしもの沙慈も、突っ込まなかった。











「しゅーりょー」
「お疲れ様です」
笑いながらタオルで汗を拭きつつ、スタジオから出てきたロックオンとアレルヤは穏やかに会話を交わしつつある場所でぴたりと足を止めた。
「フッ、ボンジュールだ二人とも☆」
「グラハムさん、お疲れ様です」
「動じないのなおまえ・・・」
相変わらず笑顔でお辞儀をしたアレルヤに、呆れた顔でロックオンが突っ込む。
っつーか、なぜボンジュール。
「で、私の愛しの刹那はどこかな♪」
「なぜここまで役と一致させんじゃスタッフよ・・・」
遠い眼で嘆いたロックオンだが、アレルヤもグラハムも気がつかない。
「刹那もそろそろ出てくるはずで――」
親切に笑顔で言ったアレルヤの声にかぶせるように、がやがやと人の話し声とともに刹那は出てきた。

「刹那ー!!」
「!?」
両手広げて迫ってくるグラハムに、刹那はあわてて背を向ける。
だけども、足の長さが根本的に違うのか、あっという間につかまった。

なお、本来ここにいればかばってくれるはずの沙慈の姿がないので、刹那はいいように抱きつかれている。
「離せー!」
「ふふふふふふ、刹那は可愛いね〜」
「はなせー!」
じたじたしている刹那の横をすっと抜けて、
「アレルヤ、お疲れ」
「・・・いや、ティエリア、それより刹那を助け」
たほうがいいんじゃ、というアレルヤの良心的な突っ込みはやかましい声に邪魔された。

「うっせぇ! 俺に近寄るな!!」
「はっはっは、聞こえないな弟よ!」
「離せクソ兄貴! ひげがウゼぇえええ!!」

満面の笑みの長身のアリーに後ろから羽交い絞めにされていたパトリックが、悲鳴を上げつつスタジオから出てきた。
「いいだろーが、せっかくの俺との共演だ、うれしいだろう!」
「うれしくねーよ!!」
ぎゃーすぎゃーすやかましい兄弟に、グラハムが笑顔を見せた。
「やあ、相変わらず仲良しさんだね」
「てんめぇグラハム! 俺も刹那のほうがいい!」
「あっはっはっは、何言ってるんだこのロリコン」
「ブラコンのほうがやばいだろう!?」
「その意気だ、やられのパトリック」
「Σ( ̄□ ̄|||)」

最近スタッフの間で流通しているあだ名を呼ばれて、パトリックは硬直した。
「そんなんじゃシャアには程遠いぞぉ♪」
「言うなクソ兄貴〜!!!」

ははははは、と笑いながら去っていたアリーを、とんでもない形相になったパトリックが追いかけていく。
「さっ、刹那。一緒に甘いものでも食べに行こうか」
「・・・・・・」
気を取り直したグラハムが相変わらず抱っこしている刹那に微笑み言うと、刹那はんべと舌を出す。
「ロックオンといく」
「刹那!?」

酷いよ! と叫んだグラハムの腕から抜け出して、とっとっとと刹那は今まで蚊帳の外で見物していたロックオンの元へ歩いていくと、ぎゅっと彼の上着を握り締めた。
「あ、ゴメンな刹那、おにーちゃんは今日は・・・」
「ロックオンさん! 次の撮影いきますよ!!」
「あ、はい! ってわけで・・・・アレルヤ、頼んだ!」
すちゃ、と敬礼をしてロックオンはダッシュで廊下を駆けていく。
残された刹那は、ぽかーんとしながら、背中を見せたロックオンを見ていた。
「刹那、一緒に喫茶店に行こうか」
「・・・・正気かアレルヤ」
「何でだめなの、ティエリア」
真顔で聞いてきたアレルヤにはーとため息をついて、ティエリアはくいと眼鏡を押し上げた。


「売れすぎて、最近外が歩けない」
「あ・・・ああ、そういえばそうだった・・・ねえ」
すでに放映開始していることをさっくり忘れていたらしきアレルヤの回答に、ティエリアは眉間を押さえた。
「ミルクならマネージャーに買ってこさせろ、刹那」
「・・・・・・」
それはたぶん不服なのだろうが、むうとした顔の刹那は頷いた。
「それなら私が用意するよ、刹那\( ̄▽ ̄)/」
「来るな寄るな!!」

・・・まあ、グラハムから逃れるのが第一条件だったりするからだろう。
必死の形相の刹那はアレルヤのてをぎゅっと握る。
保護を求めてのその行動に、アレルヤは苦笑しただけだったがティエリアは険を深めるとぱしっとその手を叩いた。
「掴むな」
「こら、ティエリア」
大人気ないよ、と諭されてもティエリアは不機嫌顔を崩すことなく、アレルヤの手から刹那の手を離して、代わりに自分の手を握らせる。
「いくぞ」
「ん」

おとなしくティエリアに引かれていく二人を見つつ、アレルヤは平和に「仲が良いなあ♪」なんて思いつつ、追いかけた。





 

 


***
捏造満載。
そして。

勝手に兄弟にしてゴメンな。