※アニメ第10話より
<失格保持者>
モニターへと目を走らせる。
そこには一つの点が彼の位置を示している。
「・・・何!? 敵武装艦からキュリオスの反応・・・」
それが意味することは一つだ。
「敵に鹵獲された!?」
それしかない。
アレルヤが、敵に捕まった?
どうして、なぜ!?
「なんという失態だ!」
湧き上がるのは怒り。
みすみす捕まったアレルヤにも、そしてそれをした人革連にも。
それをさせた自分にも。
「万死に値する!」
GNフィールドを展開させ、ティエリアはヴァーチェを加速させた。
武器を武装艦へと向ける。
これだけの距離があれば、キュリオスの機体はかするぐらいなら平気だろう。
(アレルヤ・・・アレルヤっ)
コックピットが破壊されない限り、パイロットの命に問題はないはずだ。
だから、彼がつかまったとしたら考えられる可能性は四つ。
一つはあえて捕まった。だがこれはマイスターの性質からしてありえない。
二つはあまりに敵が強すぎてなすすべがなかった。だがキュリオスの性能を考えるとそれもない。
ということは三つ目。
なんらかの事情で、アレルヤが戦闘困難になった。
または四つ目。
――拘束し捕縛した敵を撃つことができなかった。
アレルヤが人革連出身であることはそれとなく察していた。
それも軍部の近くにいたらしい。
だから、もしかしたら昔の知り合いでもいたのかもしれない。
(やはり・・・やはりアレルヤは向いてなどいないんだ)
ガンダムマイスターには、多くの資質がいる。
それは戦闘能力だけではだめで、冷徹さ、冷酷さというものが必要なのに。
だけどティエリアがそうではないアレルヤに癒されていたのは事実だった。
彼がそれを失うのは嫌だった、だから正さなかった。
それがこんな結果になるのなら。
「アレルヤ=ハプティズム・・・君も、ガンダムマイスターにふさわしい存在ではなかった」
早く降りたほうがいい。
あの時、無理にでも降ろすべきだった。
たとえ彼がそれを拒否しても、それでティエリアを恨んでも。
引き金を引こうとしたその時、初めてみる機体が突進してきた。
無言のアレルヤは、顔を上げて唇をゆがめた。
ティエリアは何を言うこともできず、ただその場に立ち尽くした。
「アレ、ルヤ」
必死にかけた声はかすれていたけれど、それにへなりとアレルヤの目じりが下がった。
「ティエリア・・・よかった、ティエリア」
かすれた声でつぶやいて、乱暴に引き寄せられた。
肩を抱かれる力が痛い。
それでもそれは、彼に抱きしめられている証だったから。
「アレルヤ」
「僕は・・・僕は」
「ガンダムを降りろ・・・アレルヤ」
「っ!」
鋭く息を飲むのがわかったけれど、離すものかとティエリアは彼に抱きつき返す。
「君は向いてない、向いてないっ」
「・・・嫌だよ」
静かに拒絶された。
「嫌だよ。じゃあ君は僕に、トレミーにのこって君が戦いに出るのをただ何もせず見ていろって言うのか!? 君が危険な目にあっているというのに、僕におとなしく待っていろと!」
理不尽だという怒りをぶつけたその言葉に、ティエリアはじっとアレルヤを見上げて。
そして、頷いた。
「そうだ。待っていてほしい。俺の帰りを、待っていてほしい」
「嫌だよ、僕はそうなりたくなかったからソレスタルビーイングに加わった! その理念を守ることが僕の――」
「・・・理念」
つぶやいたティエリアはアレルヤから漂って離れる。
その横顔に表情はない。
「そうだ・・・僕の失態が計画に狂いを生じさせてしまった。ナドレは切り札だったのに、ヴェータの作戦の重要なっ・・・」
「ティエリア・・・泣かないで、ティエリア」
自分のほうが涙声になって、アレルヤはティエリアを正面から抱きしめる。
彼の薄い肩に自分の顔をうずめて、そうしないと情けなくはれた目を見られてしまうから。
「仕方なかった――ヴェーダは人革連があんなことまでしてくると計算していなかった。だからずれるのは仕方が」
「私が・・・私がっ」
つぶれるような声で泣いたティエリアの顔を、アレルヤは見たくなかった。
この綺麗な人が取り乱しているところなんて、絶対に。
けれどそれはすぐだった。
ティエリアの白い手がアレルヤの胸板を押す。
どうしたのかと慌てて抱き寄せる手を緩めた途端、ティエリアは自ら眼鏡を床に落とした。
「ティエ――んっ」
ぶつかるように押し付けられた唇は冷たい。
けれど割って入ってきた舌は熱くて、アレルヤは困惑したまま相手に応える。
「んっ・・・ふ、う」
わずかに唇を離す合間から切れ切れの声を互いに重ねながら、深く、もっと深く、互いに口腔を犯して。
うなされるほどの熱さとは裏腹に冷たいティエリアの手がアレルヤの背中をなぞる。
「んっ、ティエリ・・・ア」
熱い息を吐き出しながら呻くと、彼は無言のままアレルヤの手を取って自分の服の下に押し込んだ。
「ティエリア!?」
「俺を壊せ・・・」
動揺したらしきアレルヤの口にティエリアはもう一度噛み付く。
折れそうなほどに強く抱きしめてほしい。
壊れそうなほどに求めてほしかった。
理性と意識を飛ばしてほしかった。
何も考えられなくなるまで。
「アレルヤ・・・アレルヤ」
狂ったように名前を呼んで、相手の頭を引き寄せる。
とろとろと唾液が顎を伝ってそれが気持ち悪くて、でもうれしかった。
ちゃんとここで彼に触れている。
「抱け」
「・・・僕は」
「明日動けなくなるぐらい乱暴に抱け。命令だ」
こくりとアレルヤの喉が動いた。
「めいれい、だなんてそんな」
「いいから早くしろっ」
焦れたティエリアは乱暴な手つきでアレルヤのベルトをはずす。
真っ赤になったアレルヤが飛び下がろうとしたが、逆にそれを利用して壁に追い詰めた。
「アレルヤ」
「だ・・・だめだよ、今日は君は無理をして・・・」
「何も考えたくない、アレルヤのことだけ考えていたい」
その言葉の効果は、覿面だった。
泣き笑いの手前のような顔になったアレルヤは、飛び込んできたティエリアを抱きしめた。
「・・・わかった、僕も、もう何も考えたくないよ・・・」
その言葉にはわずかな啜り泣きが混じっていたけれど、ティエリアは気にすることなく唇を合わせた。
悲しみも怒りも 後悔も懺悔も。
自己嫌悪すら、二人の体温で溶かせてしまえる。