<撮影の合間1>
「・・・・・・えーっとー・・・」
ぴっとりくっついて離れない刹那に、沙慈は笑いかける。
沙慈の家にいるので、人目の問題はないが、何をしたいんだこの子は。
「どうしたの、刹那」
「・・・沙慈、今日、一緒じゃなかった」
「そりゃまあ、シーンの問題だから・・・そもそも僕は、別撮りでもいいんだけど今のうちに仲良くしておけってなるべく同じスタジオ使わせてもらってるだけだし――・・・刹那?」
どうしたのかな、と振り返って微笑まれて刹那はぐいっと額を押し付ける。
「沙慈、仕事新しいの、入った・・・?」
「あれ、ばれちゃった? 広報始まるまで秘密って言われたのになあ」
秘密だよ、と微笑まれてこくり頷く。
「でも・・・00の撮影で主役で忙しいはずの刹那クンがど〜してそんなことしってるのかなーぁー?」
「・・・!」
しまった、といわんばかりの顔をしてあわてて身を引いた刹那に、沙慈はにこぉーっと笑って顔を近づける。
「せーつなクン。お仕事、身が入ってますか?」
「はいって・・・る・・・!」
「いい子にしてないと、応援に来てもらえなくなっちゃうよ。キラさん、憧れなんでしょ?」
「う・・・!」
ぐぐぅ、と唇を尖らせた刹那に笑って、沙慈は頭をぐりぐりなでる。
沙慈はある程度この業界で下積みがあったが、刹那はまったくの新人らしい。
オーディションを勝ち抜いてきたとのことだったが、余り目立つことをよしとしなさそうな彼がどうしてこの世界に飛び込んだのか気になって聞いてみた。
その理由が「SEEDのキラさんにあこがれたから」で、可愛すぎてひっくり返ったのは公然の秘密である。
前作と前々作にに出演したキラは、もともと新人で今は押しも押されぬ大スターである。
(まあ、僕もファンだったけど・・ラクスさんのほうの)
「よし、刹那。それじゃあ本当に仕事に身が入っているかチェックしてあげよう」
にこり微笑んで、沙慈は刹那の頭を撫でた。
「なにするんだ」
「次回の脚本の読み合わせ」
「うっ!?」
・・・ああ、やっぱり。
苦笑して沙慈は刹那の困ったような怒ったような顔を見た。
「読んでないのかな」
「・・・ない」
「刹那、撮影は明日だよね」
「・・・・・・」
「刹那、まずはオシゴト。それから遊ぶ。当たり前だよね」
うう、とつぶやいて刹那は沙慈から離れると縮こまる。
だがごそごそと荷物の中を手探りしているので、おとなしく脚本を取り出す気ではあるらしい。
だが鞄の中を手探りしながら、上目遣いに見上げてくる眼が語っている言葉は明白だった。
「・・・・・・ダメ、ダメです、そんな眼で見てもいけません。あーもーだめだって」
うなりながら、沙慈はじーっとこっちを見上げてくる刹那に必死に耐えた。
耐えたが。
いや、耐えて、耐えて。
「・・・・・・・・・わかった、何しようか、刹那」
敗北した沙慈がつぶやくと、刹那はその顔に珍しい笑顔を浮かべた。
本当に珍しく、満面の笑みを浮かべて。
「沙慈」
「うん」
「ミルク飲む」
「・・・はい」
立ち上がって、沙慈はキッチンへと向かう。
壁にかけてある時計をちらりと見て、沙慈は時間を逆算した。
(やれやれ、二時間でタイムアウトかな・・・)
余り一緒にいられないのを、口惜しく思うのは刹那だけではないのだけど。
***
やっちゃった\( ̄▽ ̄)/
しまったやっちゃった。