<Seek>

 



通路を移動しているとふよふよと流れているオレンジの物体を見つけた。
見覚えのあるシルエットに、にフェルトは進路を変更して物体を目指す。
声をかけるとそれはちかちかと目を点滅させて反応した。
「ハロ」
「フェルト! フェルト!」
耳をぴこぴことさせながらこっちにむかって跳ねようとしている姿が可愛い。
地上と違ってこの中は軽重力、特に廊下に至っては完全に無重力なので、上手く跳ねられずにほとんどこっちに近づいてこれていないけれど。

浮いているハロを両手で掴んでフェルトはにこりと小さく笑う。
普段無表情な彼女はハロをとても気に入っていて、中でも最初に作られたこのオレンジハロは大のお気に入りだった。
ハロがロックオンのサポーターとしてつくと知った時は、もう今までのように一緒にいられないのだと随分がっかりしたものだった。
けどいつ見てもメンテナンスもしっかりされているし表面も綺麗に拭かれているから、大事にしてもらえているのが分かって安心している。

ハロを持ったままきょろきょろと辺りを見回すけれど、ロックオンの姿はない。
どこに行くにしても連れているのに珍しいと、フェルトはハロに尋ねた。
「ハロ、ロックオンは?」
「ロックオン、イナイ、イナイ」
「ハロ、置いてきぼり?」
「オイテキボリ! オイテッタ、オイテッタ!」
目をちかちかと点滅させるハロに、フェイトはどうしようと首を傾げる。
フェルトは今は休憩時間ではあるからこうやってハロを戯れていてもいいけれど、あと半時間ほどで休憩が終わってしまえばブリッジに戻らなければならない。
その時にハロを連れて行ってしまったらロックオンが困るだろうし、かといってここにハロを置いていくのはフェルトにはできなかった。

しばらく考えた後、フェルトはハロを顔の高さまで持ち上げて言った。
「ロックオン、探そっか」
「サガス、サガス。ロックオン、ロックオン」
さて、ではロックオンはどこにいるだろう。
フェルトは大事そうにハロを胸に抱きかかえると、床を蹴ってふわふわと移動を始めた。





ロックオンがいそうなところといえば、自室か食堂か射撃練習室かあるいはコンテナか。
心当たりを全て探してもロックオンはどこにもいなかった。
「どうしようね・・・」
「フェルト、ツカレタ、ツカレタ」
「・・・おなか、すいた」
さっき食堂に行った時に少し携帯食料を持ち出してはきたけれど、移動しながら食べるわけにもいかないのでポケットに入れたままだ。
もうすぐ休憩時間も終わってしまう。
「ハロ、ロックオンの居場所に心当たり、ない?」
何度目かの問いにハロは耳を動かし、ふと急にフェルトの手から抜け出して移動を始めた。
「どうしたの?」
「ロックオン、イタ! イタ!」
「ほんと?」

デッキに続くドアを開けて、ハロはくるくると回りながらロックオン! と甲高い声を出して主のところに戻っていった。
振り向いたロックオンはハロの姿を認めてようハロ、と言った後、フェルトに気づいて笑みを浮かべる。
「休憩か?」
「・・・ハロ」
「ん、もしかして連れてきてくれたのか?」
「浮いてたから・・・可哀想」
「カワイソウ! カワイソウ!」
「あーあー、悪かったよ」
ハロを片手であやしつつロックオンはフェルトに視線を向ける。
「わざわざありがとな」
「べつに・・・もうすぐ休憩終わるから」
もう行く、と小声で返したフェルトに、ロックオンはポケットに突っ込まれたままの携帯食料に気づいた。
「まだ食事してなかったのか?」
嘘ではないのでこくりと頷く。
そりゃ悪い事したな、と頭を掻くロックオンは、ふと妙案を思いついたように言った。
「じゃあ後で料理作ってやるよ。好きなもん」
「・・・好きなもの?」
「この間買出し行ったばっかだから大抵のものは作れると思うぜ」
出来合い料理の真空パックや保存食が主流な中で、時折飽きるからと買出しの後などでは手ずから料理をする者がいる。
ロックオンもその一人で、たまに作ってくれる料理は美味しくて好きだった。

フェルトは少し考えた後、オムライス、と呟く。
子どもっぽいと思われそうなメニューに、ロックオンはオーケー、と笑みを湛えて頷いた。
「じゃあ次の休憩時間にでも作ってやるよ」
「・・・・・・ハロも」
「わーった、連れてくよ。ほんとハロが好きなんだな」
「うん」
即答するとロックオンはおかしそうに笑う。
ロックオンの掌でくるくるとバスケットボールのように回転しているハロにまた後でね、と小さく手を振って、フェルトは踵を返す。
「バイバイ! マタナ!」
「がんばれよー」
一人と一基に見送られてフェルトは展望室を後にした。

「・・・楽しみ」
次の休憩時間には、大好きなハロとオムライスが待っている。