※アニメ第9話より


<つかの間の接触>

 

 

部屋から出てきて廊下を通って戻ってきたアレルヤは、壁に背を預けているティエリアに微笑んだ。
「ありがと」
「話は済んだのか」
「まあ、そうだね。そういうことにしておくよ」
あいまいに答えて苦笑したアレルヤに手を伸ばして、ティエリアは彼の手を取る。
「食事へ行く」
「あ・・・ごめん、ちょっと整備のことで話してきたいんだ」
わずかに表情を変えて、ティエリアはアレルヤの手から自分の手を離す。
完全に離れる前に、きゅっと彼の長い指を掴んだ。
「先に、行っている」
「うん・・・ごめんね」
「かまわない、機体の整備が最優先だ」

いつもと同じ声。
同じ言葉。
けれどその違いがわかったから、アレルヤはそっとティエリアの手を握り返した。
「ティエリア、やっぱり」
「アレルヤ=ハプティズム。ガンダムマイスターとして君が選択するべきことを選択しろ」
ぴしゃりと薄い唇でそう言って、ティエリアはアレルヤの手を離す。
赤い目で見上げられて、アレルヤは微笑した。
「うん。じゃあ先に行っていて? すぐに合流するから」
「待っている」

すう、と己の横を通り抜けていったティエリアを見送りながら、アレルヤは眉を寄せてぎゅっと拳を握った。
「ごめんね、ティエリア」
珍しく彼が自発的にアレルヤと食事をすることを望んだのに。
あまり会えなかったから久しぶりだったのに。
だけど、整備が始まっている今でないと、近くに万が一敵の攻撃を受けたら――神様を恨んだって何もしてくれやしないのだから。










「じゃあ、それでお願いします」
「おう、わかった。あ・・・アレルヤよ」
「はい」
イアンに声をかけられて、去りかけていたアレルヤは止まって振り返る。
「ロックオンに伝言してくれないか、ちょいと装甲で話があるから来てくれって」
「はい、わかりました」
伝えてきますね、と答えてアレルヤは廊下を移動しつつ、ロックオンのいそうな場所のことを考えた。
自室・・・は今通り過ぎたが中にいる様子はなかったし、先ほど携帯食料を手にしていたから食堂にはいないだろう。
「デッキ、かな」
外を一望できるその場所は、アレルヤ自身も気に入って何度も訪れていた。
ただ、アレルヤは本当に外を眺めるために出てきていたがロックオンはそこでなにやら考え込むことが多かったようだけど。


デッキへの扉を開けると、見慣れた人物がいた。
「ロックオン・・・!」
アレルヤは固まった。
確かにロックオンはそこにいた。
だけど彼の隣にはフェイトがいて、その組み合わせ自体はさほど珍しいものでもなかったが、そのピンク色の頭にはロックオンが手を置いて自分のほうに抱き寄せている。
(どっ・・・どうしよう! ま、まずいときに来ちゃったよハレルヤ!)
「しっ・・・失礼」
慌てて視線をそらしデッキを出て行こうとすると、慌てたロックオンの声が後ろから聞こえてきた。
「誤解をするなぁっ」
「い、いや、本当ごめん、言いふらしたりとかはしないから・・・」
「違うって!」
「その、装甲のことでちょっと話があるそうなので・・・ぼ、僕はこれでっ」

とりあえず伝達はして、アレルヤは廊下に駆け出る。
角を二つ曲がってから、ようやく壁に手を当てて一息をついた。
「はぁ・・・まさかロックオンが・・・なんて、びっくりだ」
「どうした」
「あ、ティエリア・・・」
もう食事は終わってしまったのか。
謝罪しようと口を開きかけたアレルヤを制するように、ティエリアは言葉を続けた。
「遅いから迎えに来た。何かあったのか」
「あ、食事・・・ごめんね」
「かまわない。刹那とクリスティナと一緒になった」
「・・・うわ」

あとでクリスティナには謝っておこう、とアレルヤは思う。
刹那+ティエリアという組み合わせと一緒では、本来リラックスするべき食事時間でもまずストレスがたまるだけであっただろう。
「用事は済んだのか」
「うん」
「食事だ」
ぽん、と手の上におかれたのは携帯食料で。
わざわざもって来てくれたのだということがうれしくてアレルヤは破顔する。
「ありがとう、ティエリア」
その言葉に無言のまま、ティエリアはアレルヤの手首を掴んで移動をしだす。
無重力なので腕力はほとんど要らず、すべるように動く彼の後をアレルヤもついていくこととなる。
「ティエリア?」
ついた部屋のパスを打ち込んで、ティエリアはアレルヤを部屋に連れ込む。
ぷしゅという圧縮音とともに扉が閉まるのを見ながら、アレルヤはどうしたものかと突っ立ったまま考えていたが、結局いつものように椅子に腰掛けることにした。
「こっちだ」
「え」

引っ張られたのはティエリアのベッド。
肩を押されて座らされ、どういうことかと目をぱちくりさせているアレルヤの手の中を見てティエリアは目を細めた。
「早く食べろ」
「あ、うん――じゃあ、いただきます」
携帯食料を食べだしたアレルヤを見ながら、ティエリアは眼鏡をはずし机の上において、自身もベッドの上に上がると後ろからアレルヤに近づき、両腕をアレルヤの首に回す。
「ちょっ――ティ」
「食べていろ」
そう言いながら、首元に唇を押し当てる。
「ティエリア――っ」

眉を寄せくぐもった声を上げても、律儀なアレルヤは携帯食料を口に運ぶ。
一口一口彼が租借していくのを見ながら、ティエリアは首筋に舌を這わせたり耳に噛み付いたり、好きほうだいをしながら彼の食事をやや邪魔していた。
「んうっ――た、食べたよティエリア」
空になった手をヒラヒラを振ったアレルヤが本当に全て食べ終えたのを確認して、ティエリアはアレルヤから少し体を離す。
その隙間で体の位置を反転させたアレルヤが、ティエリアを抱き寄せて苦笑しながら彼の頬を撫でた。
「久しぶり」
「・・・」
「さびしかったよ、ティエリア」
ゆっくりとふわり漂う相手を引き寄せて、アレルヤは口付ける。
お互いの熱を互いに溶かしあって、とろりと流れたどちらともつかない唾液を啜った。

熱に浮かされたような潤んだ目で、ティエリアは自分を抱きしめるアレルヤに触れる。
「アレル・・・」


――緊急事態 緊急事態 各自戦闘態勢へ移行。


「ええっ!?」
がばりとアレルヤは身を起こす。
ティエリアはすっとその目を細めて、ベッドを蹴った。
「・・・いやだな、スメラギさんの予報は当たるね」
「アレルヤ」
全MSを帰還させたのには理由があると思っていたが、これほどステキな理由とは。
「お預けになっちゃったねティエリ――」

ふわり、と唇に何かが触れる。
それがティエリアのものだと気がつくのに少しだけ時間がかかった。
ティエリアはオンとオフをきっちり分けるタイプだ。
戦闘態勢に入っているのに、こんなことをするなんて夢にも思わなかった。

「今度は前のようなことになるな、アレルヤ」
「わかった・・かならず戻るよ、ティエリア」
微笑んで、アレルヤは立ち上がった。


 

 

 




***
9話補完。
ロクアレ的には大変美味しい回でございましたが。
アレティエ的には・・・ティエがまったくいなかったのである意味、美味しかった。
妄想が自由。