※アニメ第7話より


<壊れ物>
 

 


ガンッ

投げた小石があたった。

「いくら高性能だからって、それは可哀想ですよ」
「カワイソウ カワイソウ!」
ハロにまで相槌を打たれて、ロックオンは顔をゆがめる。
パイロットスーツから普通の服に着替えたアレルヤが、そこに苦笑とともに立っていた。
「なんだ・・・ティエリアはいいのか」
「はい、一応なんとか」
「・・・悪いなあ、お前にまで手ぇ焼かせて」
何を言うんですか。とアレルヤは眉をひそめる。
ぽんぽんと自分のほうに飛んできたハロを受け止めて、頭を撫でながら彼は言う。
「僕たちはガンダムマイスターだから、助け合うのは当然ですよ」
「助け合ってるのは俺とお前だけなんじゃないか」

はは、と苦笑してアレルヤはハロを離す。
ころころりんと転がって、今度はロックオンのほうへと飛んでいく。
「大丈夫だよ俺は」
「――大丈夫って言う時ほど、大丈夫じゃないものですよ」
それに上手く切り返そうとして顔を上げたロックオンには、痛そうな顔をしたアレルヤを見てしまう。
自分が傷ついたような、顔をしていた。
「僕たちは全員、何かしらを抱えている。まだ幼いし、至らないところもたくさんある。それを全部あなたに背負わせてしまって、僕たちはわかっていないんです」
ごめんなさい、と謝られてもロックオンは何も返せない。
ハロが跳ねながら「ドウシタ ドウシタ」と叫んでいる。
「――あなたにも、過去があって。あなたにも、抱えていることがある。僕たちは一つの思想の元に集ったけれど、その思想を抱くに至った経路は違う・・・それを、失念してしまうんです」

同じ思想を持っているからと言って、その動機が同じであったはずがないのだ。
国籍も出身も、生きてきた環境だって違う四人なのだから。

「アレルヤ」
「――感謝してます、本当に。さすが最年長なだけはありますよね」
「うわー、年齢言われるとへこむわおにーさん」
お前らよりミス・スメラギとの方が年近いんだよなーと笑って、ロックオンは跳ねているハロをぺしんと押さえるように叩いた。
「イタイ イタイ」
「だよなあ」
叩かれたら痛い。
過去の傷はふさがることなく、今でもロックオンの心から血を流させている。
忘れようとした時もあった。
だが、忘れることはできなかった。

手に武器を取ることなど望まれていなかった。
忘れて、流して、平凡な生活を営む――きっとそれが望まれていたこと。
それが幸せへの道だったはずなのだ。

「アレルヤは、抵抗がないか」
「ありますよ、それでも。たとえ稀代の殺人者になったって――僕は、やらなくてはいけないことがありますから」
心優しい彼は、そう思ったからキュリオスに乗ったのだろう。
ロックオンとて、生半可な心持ちでデュナメスに乗り込んだわけではない。
「おい、ハロ」

ぺしりともう一度叩くと、ヤメテヤメテとハロが言う。
「俺がお前をたくさん叩いて、壊したら、どーする?」
「コマル コマル」
「そーだなぁ、困るなあ」
ふっと笑ったロックオンは、ぺすとハロを叩いた。
「アレルヤ〜アレルヤ〜」
助けを求めてハロが転がっていき、腰をかがめてよしよしと撫でたアレルヤが複雑な表情を浮かべて、見やってきた。


「ロックオン・・・」
「俺が壊したら、お前はどうする」
「何とでもいえますよ、ロックオンはそんなことしないとわかっているから」
ゆっくりと返された言葉に、そうか、とロックオンは笑った。


 

 

 


***
でもロクアレな雰囲気は出ない不思議。