※アニメ第7話より
<ゆるやかな拒絶>
「・・・ティエリア」
ロックオンと刹那にはとりあえず背を向けて追いかけた相手は、足は止めたが振り返りはしなかった。
「ティエリア」
「・・・今は振り返りたくない」
ぼそりと言われて、アレルヤは眉をしかめる。
数歩歩いて距離を縮めるのは容易いけれど、彼にそうすることは出来なかった。
だから、やはり今日も、しない。
「ティエリア・・・」
名前を呼ぶなとは言われていないから、名は呼んだ。
そしてもう一度、思いをこめて。
「ティ――」
首を振って、彼は両手に自分の顔をうずめる。
泣いているわけではないはずだったけど、それはわかっていた。
わかっていたのに、わかっていたのだけど。
「ティエリアっ」
思わず駆け寄り、肩を押さえる。
だけど彼は、顔を上げなくて。
「どうしたの、どう・・・したの」
「・・・・・・顔、みないでくれ」
それは珍しい、彼の懇願。
「どうしたの」
震える声で問われて、泣かせてしまったのだろうかと思う。
だけど、顔を上げることはできなかった。
こんな顔を、アレルヤには見られたくなかった。
絶対に、アレルヤだけには、見られたくなかった。
だから顔を覆った指に、力がこもる。
皮膚に爪が食い込んだ。
「やめて、ティエリア」
アレルヤの手がこわばった指をはがそうと触る。
けれどそれで、力が抜けることもない。
「どこかにいけ、アレルヤっ」
「いやだよ」
つぶやかれたのは、珍しい拒絶。
「こんな状態のティエリア、放っておくなんて無理だ」
痛そうに辛そうに言うと、アレルヤは正面に回りこんでティエリアを抱きしめる。
頭をぐいと自分の胸に抱き寄せて、優しく髪を梳きながら。
「――ほら、僕にはもう君の顔は見えないよ」
だからね、と穏やかに。
「刹那もロックオンも、僕も――マイスターとしてふさわしい思想と態度を、取りきれていないかもしれない、だけどね、ティエリア」
だけど、とつぶやいて抱く腕に力をこめた。
「人は、完璧じゃない。君も、完璧じゃなくてもいい。せめて心を許す人を一人、作ってくれ」
「・・・」
ゆっくりと、ティエリアの手がアレルヤの背中に回る。
パイロットスーツ同士なので、そのぬくもりまでは伝わらないけれど。
「――・・・アレルヤ・・・」
「うん」
「・・・アレルヤ」
確かめるように名前を呼んだティエリアの顔を、結局アレルヤは見ようとしなかった。