<ニールの悩み相談>
ニール=ディランディは悩んでいた。
戦況はもはやどうでもいい。(と言いきるとアレだが自分が悩んでもどうしようもない)
問題は近頃周辺の……ささやかな人間関係の変化である。
「なんていうか、ショックでさあ……あの刹那がさ、俺睨んでくるんだぜ、無意識で」
うっかり向かいに座ってしまっていた弟は苦い顔をするしかない。
それは先ほどうっかり酒の匂いにつられて合流してしまったスメラギも同様だった。
「あーもう、無意識なんだろうけど刹那に嫉妬されるとか……」
「顔がにやけてるぞ変態」
「声もでれっでれよ変態」
酒を飲んでるはずなのに頭は限りなく醒めている二名が連続で突っ込んでも、ニールはへにゃりと笑って机に突っ伏す。
「だーってさあ、刹那が恋愛感情抱くなんて、もう俺嬉しくってー!」
おっけー、わかった理解した。
お前が育て子の成長を喜んでいるのはよくわかった。
だがしかし、これは別に初めてではないのだ。
「ウザくないかミス・スメラギ」
「これがウザくないなら私は聖人君子ね」
「嫉妬してるのに、途中ではっと気付いた顔になって今度は慌てて俺の近くにくんの! あーもう、刹那マジ可愛い! いやフェルトもすんごい可愛いけど!」
「……銀河のどこかに親ばかを不法投棄できる場所がないかしら」
なんでこいつこんなに飲んでてつぶれないんだろうと思いつつ、スメラギが眉を動かさずに呟くと、ライルは軽くグラスを掲げてこちらも真顔で返した。
「太陽の真ん中とか俺的お勧め」
「いいわね、ああ、太陽炉でも同じかしら」
「イアンとティエリアに怒られそうだけどな」
そんな真面目な相談を二人がしていると、聞いてくれよっ、とニールが言ってくる。
お前の惚気はウザいんじゃ、という本音を視線に乗せて返してやれば、先ほどまでの惚気モードはどこへやら、真顔になっていた。
さて、何か真面目な話だろうか。
「でもさ、俺がいるとどーにも進展しないから、離れなきゃって思うんだけど。いい案ない?」
「太陽」
「ゴビ砂漠」
言ってることは違うが意味は同じである。
ばっさりと突っ込まれたニールは、ちっちっちと指を振った。
「甘いぜ。物理的に離れても意味ないんだ……だって二人が俺にコンタクト取ってくれるからな!」
「だから大人しく太陽にいって光になれよ」
ライルの真顔のツッコミを聞いていないのか、ニールは先ほどの真顔はどこへやら、でっれでれの顔に戻った。
「もーほんとにさー、ちょっとしたミッションで降りても細かく連絡してくれて」
そのまま速やかに惚気へ再び流れそうだったので、わかったちょっと待ちなさいとスメラギがこめかみを押さえながら止める。
かつてこんなに頭を使ったことがあっただろうか。
……ない気がする。
「物理的に無理ならあとは精神的にしかないわ」
「精神的に?」
「つまりあなたが二人以上……は無理だろうけど、二人と同じくらい大事にする人がいればいいのよ。まあ恋人が妥当ね」
「ミス・スメラギナイスアイディア! さすが戦術予報士!」
感動したライルが手をたたくと、ニールは首をかしげた。
「でも俺好きな人なんかいな」
「作れ」
「いやでもできな」
「いることにしなさい」
ケリがつきそうだと思った二人からの波状攻撃を受け、ニールは納得したのか考え込む。
「つっても……」
クルーを思い返したり関係者の顔を思い浮かべてみるが……だめだ、手ごろな人がヒットしない。
「CB外の人なら発覚する可能性も低いかもしれないわね」
「CB以外ねえ……」
三秒くらい考え込んでいたライルが、そこで手を打った。
「そうだ兄貴」
「なんだ?」
「あいつがいいと思う」
「あいつって?」
「グラハム=エーカー」
笑顔で告げたライルとしてはいやがらせなんだろうとスメラギは察した。
なぜ軍のエースパイロット(しかも刹那フリーク)を押さなきゃいかんのか。
しかも奴は言うまでもないが男である。
だがニールの反応は軽くスメラギの斜め上をいった。
「だめだ」
「いいじゃねぇか、ほら、ニルグラでもグラニルでも……ええと、穀物バーみたいで美味しそうだし」
「刹那があいつ嫌いなんだよ! それで俺まで嫌われたらどうするんだ!」
そこ論点じゃない。
むしろそっちの方がいいんじゃないだろうか。
あとたぶん刹那はニールを嫌いになりはしないと思う。
ツッコミが他にもたくさん浮かんだが、スメラギとライルは溜息を吐くだけだった。
結局こいつはどうにかする気はあるのだろうか。
***
ニール「あるって!」
スメラギ「見えないわ」
ライル「見つからねぇな」