☆簡易設定☆
政宗→18歳受験生。幸村を猫っかわいがりしてるお兄ちゃん。確信犯love.
幸村→16歳高1。お兄ちゃん大好きな弟。禁断愛に目覚めた。
小十郎→不惑手前。カタギかどうか決めてない。怒ると怖いお父さん。
佐助→三十路は越えた。基本主夫のお母さん。
俺は無言で、足音も気配も完全に断ち、すすすとその場を後にした。
恐れていたことが。いや俺はどこかで期待していたのかもしれないのだが。
半ば呆然としつつ階段を下りてリビングへ入ると、どうしたのー?と母親が声をかけてくる。
母親つっても義理なんだけどな。
「マサ。どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
そう言うのはなんでもある時の俺の口癖だが、さすがに飲み込んでいるのか佐助は何も言ってこない。
「勉強に詰まった?」
「いや……まあ、ちょっと」
そういうことにしておこう、と思って適当に返事をする。
ことりと目の前にアイスコーヒーが置かれた。
こういうところは本当に良く気のつく人だと思う。
小十郎……俺の養父みたいな人が惚れこんだのも理解できるというものだ。
「俺にできることあったら、言ってね。マサの勉強は難しすぎて教えられないけど」
夜食いる? と尋ねられて首を横に振った。食べる気力はない。
かといって勉強する気力も湧いてこなかったので、適当にリモコンをいじってテレビをつける。
「小十郎は」
「今日も遅いって。あの人も年なんだからあんまり無理しない方がいいのにねえ」
くすくす笑った佐助は、すとんと政宗の隣に腰をおろす。
それからなでなでと頭を撫でられた。
「……佐助?」
不気味な彼の態度に眉をひそめると破顔される。
「俺さあ、ユキを抱えてずっと大変だったじゃない」
「だいぶ前の話だろ」
「うん。でも大変だったのね。俺様若かったし、ろくな仕事もないし。それから小十郎さんと会って、結婚して、マサと暮らして。俺は幸せだったよ」
「何で過去形なんだ」
「訂正。幸せです。でもさ、それは俺様の幸せなんだよね」
へにゃりと笑った佐助は、無機質な画面を見ながら言う。
「小十郎さんと、マサとユキ。四人ですごく幸せ。でも、それは俺の幸せなんだよ」
自分に言い聞かせるようにした佐助を横目で見ながら、俺は適当な言葉を返す。
ああ、とかうん、とか。そんなうなり声に佐助は笑う。
「マサは、お父さんに似てきたねえ」
「欠片も血が繋がってねぇけどな」
「半分は環境でしょ」
話がそれたけどさ、と佐助は立ち上がりながらぽんぽんと政宗の頭を撫でた。
「俺や小十郎さんはずっとこのままでも満足。でもマサやユキは違うよね」
「……さす、け?」
ドキリとする。内心を見透かされたのか。
いや、俺が先ほど聞いたことは、知ったことは、わかりはしないはずなのだ。
「いいんだよ、遠くへ行ったって。帰る場所はちゃんとあるからね」
「……ああ」
なんだ、進路か。
ほうと安堵の溜息をついた俺に、あれ違うの? と佐助はころころ笑う。
違う、と断言したくもなく、俺はやっぱり適当な答えを返す。
「相談ならいつでも乗るからね」
「ああ……」
相談。
正直、したい。
だが、佐助にこんなことは相談できない。なお小十郎も却下である。
学校の友人…………ねぇな。無理だ。
くるくる変わる画面を見つつ、遠い目になっているところにバタバタと階段を下りる音がした。
「兄上」
顔を出した幸村が、ととととやってきて、少し離れた床に座る。
「勉強はひと段落したのでござるか」
「こら、ユキ。お兄ちゃんは貴重な休み時間だよ」
佐助にそう言われて、幸村はしょぼんとしょげる。
「勉強の邪魔はしなかったでござるよ……」
「休憩の邪魔をしてます」
「あー、いいって佐助。始めていいぜ、幸村」
ヒラヒラを俺が佐助に手を振ってからそういうと、ぱあっと幸村の顔が輝く。
「某、今日は!」
身振りを交えて今日一日あったことを幸村は報告する。
いつはじめたのか忘れたが、高校生にもなってこんな事をやってる弟は世界を探してもこいつくらいな気がする。
俺はと言うと適当に合いの手を入れたり質問もしたりするが、大抵は黙って聞いているだけだ。
「……お兄ちゃんは弟に甘すぎ」
苦笑して呟いた佐助に、しょうがねぇだろと心の中だけで返した。
「兄上……疲れていらっしゃるのか」
「No prob. 大したことねぇよ」
「某、兄上のためなら何でもいたしますぞ! もっとも、兄上に某ができることなどたいしてござらぬが」
なんでも、ねえ。
判ってるのか判ってないのか。
「たくさんあるだろ」
「そうでござるか?」
「例えば俺の代わりにクーラーの温度を下げる」
「おお!」
「やめなさい!」
リモコンを手にした幸村に佐助がぴしゃりと一喝した。
「まったく、マサ! 十分寒いでしょうが!」
「暑い」
「環境に優しく! 部屋はちゃんと27度なんだろうね?」
「24」
絶句した佐助の顔が面白くてくすくす笑っていると、比較的容赦ない拳がふってくる。
「政宗?」
んん? と笑顔で怒られたので俺は素直にスミマセンと謝っておく。
その様子を見ていた幸村もくすくす笑っていて、とりあえず俺は満足する。
「幸村」
「なんでござるか?」
「こっち来いよ」
ぽん、とソファーを叩くと、わずかに躊躇してから立ち上がって俺の隣に腰をおろす。
この距離に来ると幸村の体温がじんわりと伝わる。
クーラーで冷えた肌には、こいつの体温が心地いい。
「あにうえ……?」
何も言わない俺を不振に思ったのか、幸村が恐る恐る声をかけてくる。
「ああ、sorry. 続きを聞こうか」
「そ、それで某は先生から一本取ったのでござる!」
嬉しそうにそう言った幸村に、自然と俺の唇もほころぶ。
いいこいいこと幼い子供にするように頭を撫でてやると、うっすら頬を染めて視線を逸らされた。
……おい、そういう反応はやめてくれよ……
撫でていた手が思わず中途半端な位置で止まってしまいそうになって、何とか意思の力でねじ伏せた。
どうしろってんだ、と呟いた。
どうやって相談しろというのだろう。
俺は十年以上兄弟をやってきた幸村のことが好きで、
幸村は俺の名前を呼びながら自慰をしていた、などと。
***
えーっと。
後悔はない。
なんという携帯ホモ。