<おんりーわんとなんばーわん>
突然なぐりこんできた(門番は全治二週間)幸村は、襖をあけはなった。
「政宗殿は幼いみぎりに母上に冷たくされたおり女人が苦手になられたと……」
信じておりましたのに!! と絶叫した幸村を政宗は思わず振り返る。
いきなり来ていきなりなんつーことを叫ぶのだ。
「誰がんなこと言った!」
「以前この城に来た時に聞いたでござる」
「what? 誰が言いやがったんなこと」
「綺麗な着物の女人でござった! ……まさかあの方が……!」
「……おちつけ、真田源二郎幸村。その噂たてた奴のこと詳しく教えろ」
「奥の棟にいらっしゃいまして」
「んなの女なら何人も」
「紅の見事な着物を召していらっしゃった。とてもきれいな……あ、そういえば小十郎殿の姉君がいっしょに」
「めごぉおお!!!」
政宗は絶叫して立ち上がると走り出した。
うしろから追いかけながら幸村が叫ぶ。
「誰でござるか!」
「妻だ!!」
「やはりあの方が政宗殿の!」
「あからさまに嘘だろうがぁ!」
「なっ……自身が不貞をはたらいたからと他人、しかも妻のせいにするとは武士の名折れ! 見損ないましたぞ伊達政宗ぇえ!」
廊下を疾走しながら叫んでいた二人だったが、政宗の方が先に正気に戻る。
「……誰が不貞だって?」
「政宗殿は何名も愛人を抱えていると……俺はすべて政宗殿が最初だったのに!」
酷いでござる、裏切りでござるー! 立ったままわめきだした幸村に、政宗は頭痛をこらえた。しっかりしろ俺。
「俺はこの奥州の」
伊達家の長子であるからには、世継ぎをつくるのは必然だ。
それをしなかった父がいかに苦悩したか政宗は知っている。
幸村にそこを説かなくては、と頭の中で適切ないいかたを整理しつつ口を開きかけると、視線を落とした幸村はポツリつぶやいた。
「わかっているでござる」
「ゆきむ、」
「政宗殿はお家のため、奥州のためお世継ぎが必要。わかっていまする」
けれど、と幸村は拳を握る。
「嘘でも、其だけだと言ってもらいたかっただけで」
「……その嘘になんの意味がある」
呟いて、政宗は幸村に歩みよると、彼の目を見つめる。
「俺は守るもんがたくさんある。アンタは違う」
「存じております」
「アンタは俺のrivalだ、You see?」
「無論、それは光栄に思いますが」
「……rivalのアンタに惨めな嘘つかせんなよ。俺は外で嘘ばかりだ、アンタにくらい」
手を上げて政宗は幸村の頬に触れる。
「本音言わせてくれ」
「では奥方には」
「愛は愛だ」
「……其は政宗殿のおんりーわんになりたいでござる」
アンタ既に終生のrivalだぜと言われると、それは違うと首を振る。
「それはなんばーわんでござる!ちゃんと調べたのだ、同じではなかった!」
「……大差ねぇよ」
「小差はあります!!」
じゃあなにがいいんだとあきらめて聞けば、頬を染めて政宗の手を掴む。
「政宗殿に常に突っ込む男が」
「却下」
笑顔で政宗は幸村の手を振り払い、そのまま彼の頭を鷲掴みにした。