<花吹雪>



一枚一枚、また一枚。
落ちる白いそれを見て、縁側に座っている佐助はうっとりと微笑む。

「きれいだねえ」
「ああ」
「ねえ知ってる、右目の旦那」
そこだけ言って黙った佐助を、小十郎は苛立ちと共に睨みつける。
こうやって彼は言葉を切る。それに小十郎が苛つくことは分かっているはずなのだが。
「なんだ、忍」
「猿飛って呼んでくれなきゃ教えてあげなーい」
けらけらと子供のように笑って足をばたつかせた佐助の頭を小十郎はドつく。
痛いよもーと見上げてきた男から少し離れて縁側に座る。

足元は白い花びらで埋まりそうだ。
ひらひらひらひら、花吹雪。

「うちの旦那は竜の旦那に懸想してるんだよー」
言われた言葉が耳に届くのに、少しだけ時間がかかる。
もやのかかったようなその言葉を捉えて、小十郎はそうかとだけ返す。
「え、反応それだけ? もっとほら、「俺の政宗様に手ぇだぞうなんざ、百年早ぇあの若造!」とかないの?」
「いや、特には」
「えー、虎の若子VS竜の右目! って究極対決期待してたのに」
「てめぇの主に大した物言いだな」
「勝つのは旦那だよ、もちろん」
得意げに笑った佐助をちらりと横目で見て、小十郎は目を細めた。
やはり花びらが散っている。

「ちぇー、じゃあーね、もっととびきりの話。ここでしか聞けないよー」
返事をしないで居ると、佐助はちょっと首を傾けて小十郎のほうを見る。
それから唇の動きだけで、猿飛って呼んで? と言った。
桜吹雪の中でも、それだけは鮮明に見えた。
「……なんだ、猿飛」
「えへへっ、あのねー」


ザザッとその時風が大きく吹いた。
なので、彼の姿が霞がかったようにぼやける。

白に染まる。



「猿飛佐助はー、片倉小十郎のことを、懸想してまーす」

くっきりと声だけが聞こえたが、小十郎はちょっとだけ眉を寄せて。
それから佐助の方を見て、また視線を前に戻した。

「なんつった」
「え、聞こえなかったの?」
「桜吹雪がやかましい」
「あははっ、そうだねー」
じゃあ残念でしたー、とけらけら笑った佐助を見ずに、小十郎は桜の木々を見上げる。
真っ白い花びらを散らすそれらは、明後日には全部散ってしまいそうだ。
「猿飛」
「一回きりだよ、右目の旦那」
何度も言ったらとびきりじゃないでしょ、と笑った佐助をやはり見ずに、小十郎は目の前をはらり散った花びらを左手で捕まえる。
「俺もとびきりの話があるんだが」
「なになに?」
興味あるなぁ、と視線を向けてきた佐助を横目で見て、小十郎は少し口許を緩めた。


「片倉さんって呼んだら教えてやるぜ」
「……か、たくら、さん」
「歯切れ悪ぃな。そんなに難しい名前か?」
「かたくら、さん」
ほら呼べたよ! とムキになった佐助には取り合わす、小十郎は立ち上がる。
花びらを散らし続ける桜の木を見上げながら、佐助の方を向いた。

ちょうどその時、足元から吹き上がった風が散った花びらも枝についている花びらも、まとめて全部舞い上げる。
視界が真っ白に近くなる花吹雪の真ん中で、小十郎は確かに言った。


「片倉小十郎は猿飛佐助を懸想してるぜ」








***

なんだこれ。
花だから春ですすみません。