※アニメ7〜9話後くらい?


<幸せになる方法>


静かな部屋の真ん中に寝かされ、なかなか癒えない傷に苛立ちながら、政宗は寝返りを打つ。
走った痛みをやり過ごして、目を開けると先ほどとたいして変わらぬ光景が見えた。
「…………」
顔を赤くして胸を大きく膨らませ、それでもなお息を吸う幸村に、さすがに政宗は尋ねる。

「……なにやってんだ?」
「息を吸っているでござる」
「いや、それはわかるが」
「たくさん吸うでござるよ」
「…………そうか」
好きにしろやと投げやりな気分になりつつ、寝返りを打って背を向ける。
真田幸村は理解不能生物だ。
そう結論づけて、目を閉じる。

眠くはないのだが、こういうのは人でも獣でも変わらない。
ひたすら眠るのが一番の回復方法である。
しかしこれだけ眠っていると、どうにも目が冴える。
良くなってきている証拠だと普段ならもうとっくに起き上がっている頃合いだ。

だが武田軍は揃って過保護で、もちろん伊達軍も過保護なのだがこちらが厄介になっている手前、むやみとむちゃを通すわけにもいかない。
特に横にいる真田幸村は小十郎並みに過保護だ。
政宗は早く彼と打ち合いたいのだが、全快するまで自分も訓練しないとか言い切った。
わけがわからない。

「おっじゃましま……旦那、またいたの」
襖の開く音と共に呆れた声が聞こえた。
「ずっといる!!」
「大将が呼んでたよ」
「しかし、政宗殿をおいては……」
「俺様がみてるから」
「むう……よし、たのんだぞ佐助!」
すぐに戻ります政宗殿ぉぉおと廊下を走っていく足音が響く。

「ごめんねー、騒がしいでしょ」
政宗は目を開いて寝返りをうつ。
「まぁな」
「旦那なりの看病なんだとは思うよ?あの人丈夫だから寝込んだりとかしないから、どう看病したらいいわかってないけど」
気持ちだけは汲んであげてもらえると幸いなのですが、と茶化すような口振りで言った佐助に、わかっちゃあいるがと政宗も微笑んだ。
「にしちゃあstrengeなことしてたぜ」
「……旦那が何かシマシタカ」
いや、大したことじゃねぇがと前置きして忍を安心させてから、政宗はぼそぼそと先ほどの不可解な行動を語る。
最初はぽかんとしていた佐助だったが、最後のほうで何かを理解したらしく、爆笑した。

「あはははは!」
「そんなにfunnyなことなのか」
「い、いやぁ、竜の旦那が一日眠りっぱなしで目を覚まさなかった間にさ、俺様が言ったのね」
枕元に張り付き、しょっちゅう顔を覗き込んでは目覚めない様子に落胆し溜息をつく幸村に、佐助はこう言ったらしい。
「旦那、溜息つくと幸せがにげちゃうよ」
その言葉に幸村は目をまん丸にして、ぴたりと呼吸まで止めたとのことだ。


「話が見えねぇ」
呟いた政宗に、佐助はけらけら笑いながら説明した。
「旦那のことだから、溜息をつくの反対が息を吸う、になったんだと。幸せになるために息を吸うって発想」
「…………なるほど?」
感覚として理解できなくはないが人の枕元で実践することだろうか。むしろ俺の幸せを吸ってたんじゃねーかと突っ込みたくなるのは性格の差なのか。

「ただいま戻りましたでござる!」
どたばたと部屋に戻ってきた幸村は、起こしてしまいましたかと眉を下げる。
「Hey真田」
「なんでござろう」
「息を吸うとhappyになるって理屈はわかった。なんで俺の枕元で幸せを吸うんだ」
真横で佐助が吹き出す音がしたが、幸村はしごくまっとうな輝く笑顔で答えた。
「政宗殿が元気になることが其の幸せだからでござる!」
「……okay」
やっぱり理解不能だと、政宗はそこだけ納得して寝返りをうつ。
気のせいか、痛みは少しだけ和らいだので睡魔を待つため目を閉じた。