積まれた仕事を無言で進める政宗は、さすがに悪かったと思っているのだろう。
数日の間に溜まった仕事を何も言わずに終わらせてから、とん、と畳を叩く。
「小十郎」
「お疲れ様です」
「湯屋は」
「……何も」
「Damn. じゃあ最後の可能性にかけるしかねーな」
「なんですか?」
終わった仕事を眺めていた小十郎は、幾つか見終えて確認作業をやめる。
この主はやる時は完璧だ。
「飯盛女の方は幸村がとっくに調べた。あとは辻君しかねーな」
「……それはまた」
辻君とは道で客を引く女性である。
これを特定するのはかなりの難儀となろう。
「が、どう考えてもそれはありえねえ」
「なぜですか」
「有り金全部はたくほど高くねぇだろ」
「…………それもそうですな」
めんどくせぇなあ、と呟いた政宗は今後の成り行きがわかっているのだろうか。
そう思って尋ねてみると、んなわけねぇだろと笑われた。
「だが残ってる可能性はどれもmessy jobが必要だ」
「左様で」
「小十郎」
軽くあくびをしながら、政宗は命令した。
「念のためだ。用意させておけ」
「明日ですか」
「Yes」
かしこまりました、と小十郎は頷いた。
右目が出て行くと、政宗はふうと溜息をつく。
立ち上がってはらりと着物を落とす。日に焼けていない白い肌が揺らめく炎に照らされた。
続いてばさりと取り出した夜着を羽織って、しゅるりと帯を締める。
襟首に入り込んだ髪を外に出してから、わずかにずれた眼帯の位置を戻した。
「佐助」
「……はいはい、なんでしょう」
先ほど小十郎が閉めたはずの襖が開いて、佐助が顔を出す。
「見てたろ?」
「あんな堂々と着替えられたら見てますとも! 俺様見てるのわかってるならなんとかしてよ!」
「Service, だ。必須だろ?」
「そういうのはかすがの担当でしょうが!」
ああもうこの殿様放り出したいとか思い切り好き勝手言ってる側用人に、政宗は命じる。
「幸村を呼んで来い」
「はーい」
「あと、朝餉はいらねぇ。水だけ差し入れておいてくれ」
「……なんかもっと間接的に伝えられないのかな」
何がだ? とにやり笑った政宗に、佐助はうんざりとした表情を隠すことなく見せた。
「仲睦まじいのはたぶん……結構なんですけどね」
将軍様には側室さんたくさんいるじゃん、と苦言を呈せば、いつものように人を食った顔でこう返す。
「あいつがいい」
「……はいはい、呼んできますよ。まったくもう、そんなに好きなら自分で呼びに行けばいいじゃん」
「いいのか?」
夜着だけの政宗はすっくと立ち上がる。行く気はこれっぽちもないが。
「ヨクナイデス」
ふるふると首を横に振ってそれを止めて、佐助はすすすと部屋を後にする。
大して待つこともなく、布団の上にひっくり返って天井を見上げていると、待ち人が襖を開けた。
「政宗殿……」
「Hey, 幸村」
寝転がったまま手を伸ばしてちょいちょいと招くと、苦笑した幸村は後ろ手に襖を閉める。
「某をそのような格好で出迎えてどうするおつもりか」
「どうしてほしい?」
「………………言葉を間違えましたな」
布団の上に膝をついた幸村に笑って、政宗は上半身を起こす。
薄い色の単に手をかけて引っ張った。
「明日、動く。Finaleに持ち込むぞ」
「はい」
「ってわけでこいつは前払いだ」
引き寄せて相手の唇を舐める。それだけでは済まさず噛み付くと、さすがに慣れたものですぐに歯を割られた。
ひとしきり貪り終えた後で、わずかに顔を離して幸村は問う。
「後払いもいただけるのですか?」
切り返しのうまくなった幸村にくつくつと笑って、露わになった胸元をなでた。
「Maybe. ほしけりゃ奪ってみせろよ」
「敵いませぬなぁ」
深々とため息をついて、幸村は政宗の背に手をやると、強い力で引き寄せる。
「政宗殿」
「Ya?」
「思えば、十日ぶりでございます」
「そうだな」
「……よろしいか」
熱っぽく耳にささやかれて、政宗は鮮やかに笑う。
その笑みを幸村は見ることなかったが、気配で察した。
***
恥ずかしすぎて朝チュンすら却下です。
主導権は一貫して政宗にあるようで、たまには幸村が持っているといいと思います。
ええ、コレは願望です(目そらし