<ひるなか>
うららかな水無月の日。
久しぶりに訪れた奥州の地で、佐助は縁側に腰掛けてうつらうつらしていた。
忍者にあるまじき昼寝っぷりであったが、横たわっていないだけ褒めてほしい。
あと午後まで持ったことについても褒めてほしい。
奥州についたのは一昨日。
初日は幸村と政宗が早速打ち合った後の後始末で終わり、翌日は政宗の新しい創作料理と忍食の紹介と小十郎の畑の手伝いで終わり、今日は午前中は色々働いて忙しく、午後から視察にいくという政宗に幸村がついていき、ようやく平穏を手に入れたのだ。
昨日と一昨日はいろいろな意味で忙しかった、と思いながら柱に力の抜けてきた身体をもたらせかけて、まどろむ。
もう少し日が沈む頃には二人が帰ってくるだろうから、そうしたら仕事がまた始まるだろう。
それまでは休んでおこうと思いながら、まだまだ涼しい風を肌で感じながら身じろぎする。
斜め前から気配が近づいてくる。
目を開けずとも誰かわかったので、立ち上がりかけた身体の緊張を解く。
「寝てるのか」
「起きてますよ」
片目を開けて答えると、腕に野菜を抱えた男がいた。
「また収穫してきたの」
「寝ていろ」
「俺様が眠いのは小十郎さんのせいですけど」
「知っている」
地面の日陰の部分に野菜をそっとおいて、小十郎は佐助の隣に腰掛ける。
土に汚れている手を軽くはたいていた彼に、佐助は取り出した手ぬぐいを勧めた。
「どぞ」
「いいのか」
「旦那の食べこぼしふき取り用ですが」
「……」
それってどうなんだという視線を向けられたが、佐助は気にしないことにした。
よく見れば太陽の位置はまだ高い。二人が戻るのはまだ先だ。
「質問なんだけど」
「なんだ」
「伊達軍軍師さん的には、天下統一まで何年くらいかかりそう?」
戯れに出した質問は結構重いものだった。
小十郎はしばし眉をしかめてから口を開く。
「十年ってトコじゃねェか」
「十! 長いねえ」
俺様生きてないかもよ? と佐助は笑う。
軽い冗談であったのだが、露骨に嫌な顔をされた。
「冗談言うんじゃねぇ。てめぇがいなくなったら赤いのの面倒は誰が見るんだ」
「……お父さんヨロシク」
「……」
ごめんだ、と本気で言われたので、長生きしなきゃねぇと佐助は笑った。
***
本当は「母の日佐助ありがとう」のつもりだったが、どう足掻いてもこの時代に母の日文化は なかった。