<料理>

 


「よし、やるか」
「今度はなんなんですか……」
いきなり呼びつけられたと思ったら、そのまま首根っこを引っつかまれて連行された。
だいたい政宗が佐助を呼びつけるのは佐助の主である真田幸村に関しての事なので、すでに「またか」という感想しか抱けない。

けれどそれとこれとは話は別だ。
佐助だって暇ではない。
しかしここで「俺様も暇じゃないのよ?」などと言ったところで政宗が意に介するわけがないのだ。
真田の身の回りの世話してる時点で暇だろと言われるのがオチだ。
断じて否定したい。
佐助は戦忍であって、武田軍のオカンではない。
仕事の一部にその類のものが何故か含まれているが、メインはあくまで忍稼業なのだ。
敵国の偵察や部下の指南だってある。
……あるのだが、最近は部下が気を遣ってくれているのか、偵察などの仕事もできる限りやってくれる。
出来た部下だ。
いつ見放されても文句は言えない。
……あ、自分で思って悲しくなってきた。

目頭を押さえる佐助を、政宗が訝しげな目つきで見てくる。
準備万端とばかりに着物の袖は縛り上げられていた。
「Hey,なに一人で浸ってんだ?」
「なんでもないです……で、なんだですって?」
台所なんかに連れてきて。

「料理教えろ」
「……旦那十分上手いじゃない」
政宗の上から目線なお願いに、佐助は瞠目した。

何度かお相伴に預かった事があるが、政宗は一国の殿様がなんでこんなに上手なのと突っ込む程度に上手い。
ずんだ餅なんて目から鱗だった。即行で作り方を聞いたくらいだ。
あれは武田軍でも好評で、今ではおやつの定番のひとつだ。

きょとんとしている佐助に、政宗は不機嫌そのものの顔つきで言う。
「Shit,てめぇのせいだよ」
「へ、俺様?」
「……あいつが、お前の料理が美味いって言うから」
「…………」
この場合はうちの旦那にお灸を据えるのが先なのか、竜の旦那の意外な健気っぷりに驚くのが先か。

ぽかんとしてる佐助に、ちっと政宗は舌打ちした。
「俺より美味いとか言われて黙ってられっか!」
「やめてよそういう無駄な対抗心燃やすの!?」
「Shut up! とっとと教えやがれ!」
「…………」
別にあの人は旦那の料理が不味いなんて思ってないと思う。
単に佐助の料理が口に馴染んでいるから、話のはずみで口にしたくらいで、政宗の料理だって大好物だろうに。

などという事を伝えたところでこの御仁は聞く耳なんて持たないだろうと思ったので、ここは大人しく旦那の好物のひとつでも教えておくかと佐助は腹をくくった。