<文>



――戦場で血を流して死ぬより 好きな人に看取られたいと思わないか!



「……どっちもかわんねぇよ」
呟いた政宗は、行灯の火に指先を掠めた。
あの風来坊のことは知らないが、伊達政宗にとってはそれが本懐でしかない。


「政宗様」
「小十郎か……なんだ」
ひそかに傍にあり続ける政宗の右目は、頭を軽く下げてから黄昏る筆頭を見上げる。
「曼珠沙華より、文が」
差し出された白いそれを政宗は受け取ると、軽く左手を振った。
速やかに小十郎が姿を消してから、かさりと音を立てながら堂々と大きく「曼珠沙華」と記された手紙を開く。



「露草へ、ねえ」
本当にわかっているのか怪しいもんだぜ、と薄く笑って綴られる文字を読む前に柔らかくなでる。


露草へ

それがしはまた御館様のお叱りを受けた
これはそれがしが未熟ゆえのこと
しかし御館様のおっしゃった意味がかいもく判らぬ
そなたならばわかるのだろうか
それがしは愚かであると思う それが歯がゆい
早く御館様のお考えを汲み取れるように成らねばならぬ
それがしは……



「下手くっそな字。Are you kid?」
延々とミミズののたくったごとく綴られた文に目を通しながら、政宗は左目を細める。
文章の大半が「それがしが」と「御館様」で占められた文章には粋な一文もない。
文の後半では本人の感情の高ぶりを示すように、ほとんど読めないような場所もあった。
清書してから手紙を書けと幾度と注意したはずだったが、あれは学ばない生き物だ。

それでも、政宗は手紙を読み進める。
明らかに読み解けないほど酷い文字も、何度か前後を見返して推理しつつ読み進める。
最後の一枚を捲ったときに、少しだけ表情を変えた。




それがしもそなたの力にもなるべきだろうとは思う
しかしそれがしがそなたに出来るのは戦場での血の滾る戦いだけ
待っている伊達政宗殿
それがしは戦場でそなたを待っている




精一杯丁寧に書こうとしたのだろうか。
他の文字よりやや細く綴られていた最後の一枚に、政宗は首をゆるく振った。
「わかってんじゃねーか……真田幸村」
笑って文を畳むと、木彫りの箱の中にしまう。
「OK……Let's party」
待っていると彼が言うのなら。
自分はそこへ向かおうではないか。