<勘違い>
さて、猿飛佐助の主君である真田幸村は、奥州独眼竜である伊達政宗の情人である。
「情人」と言いはしたものの、実際どこまで進んでいるかは本人達のみぞ知る。
別に知りたいとも思っていない。
その真田幸村に使えている猿飛佐助だが、実は伊達政宗の家臣である片倉小十郎に悋気している、らしい。
本人としてはまだ微妙に気になる程度だと主張しておきたい。
そんなわけで、伊達への任務は大抵佐助が引き受ける。
その理由は先程述べたとおり、小十郎を目にする機会が得られるからなのだけれども、一応は仕事であるので手放しで喜びはしない。
少々……手が比較的空いているのであれば、簡単な偵察任務などであっても部下を使わず自分が行くくらいの職権濫用をするくらいは目零してもらいたい。
今日も信玄から書状を渡され、独眼竜によろしく頼むと託された。
傍から見れば常と変わらないだろうけれど、内心ではそれなりに喜んで、佐助は頭をたれる。
その横から受ける微妙な視線はあえて気付かない振りをして。
「佐助!」
「……なぁに、旦那」
「佐助だけずるいぞ! 某も政宗殿にお会いしたい!!」
「あのねえ旦那……これはお仕事なの」
「仕事」と言えば、幸村もぐっと黙り込む。
恋人となかなか会えないところは同情するけれども、城を預かる身としてそうそう居城を空けられても困るのだ。
……その仕事にかこつけて会いに行こうとしているだろうという突っ込みはなしで。
「お土産買ってくるから。ね?」
「……むう」
このまま今日は大人しく退いてくれるかなー、と思っていたら、幸村はぐっと目に力を込めて首を振った。
「やはりずるい! 佐助だけ政宗殿に会いに行くなどとは! それに先程命を受けた時、どことなく嬉しそうだったではないか!」
「う」
そこを突かれると痛い。
表情には出してなかったと思うのだが、さすが主君、気付いていたらしい。
……こういうところを普段の空気を読むところとかに発揮してくれると嬉しいのだけれど、と佐助は思った。
「……まさか佐助」
はっと何かに気付いたように幸村が表情を険しくする。
今の話の流れ的に、幸村が次に言うのは十中八九ぶっ飛んだ内容だ。
経験則から身構えた佐助の耳に、幸村のぶっとんだ発言は、やはりぶっとんだ発言として飛んできた。
「佐助も政宗殿に懸想しておるのか!?」
「旦那。まず落ち着いて深呼吸しようね。それからよーっく考え直そう。ね?」
思わず真顔で佐助は幸村の両肩を掴んでいた。
繰り返すが、真田幸村は伊達政宗の恋人である。
そして猿飛佐助は、片倉小十郎に懸想の身である。
佐助が奥州に行くのは仕事であって、会えたらいいなーと思っているのはあくまで小十郎の方だ。政宗ではない。断じて。
いや目の保養にはなるけどね。
「旦那。ないから。それはない、絶対ないから」
「なぜそう断言する! 政宗殿にそんなに魅力がないと申すか!!」
「いや、確かに竜の旦那は美人だし料理上手いし何気に気遣いしてくれるけど」
「そんなにすらすらと言えるとは……やはり佐助も政宗殿の事を好きなのではないか!!」
「だから違うってーの!!」
あああこの子はどう言ったら納得するかなぁ!
頭を掻き毟って蹲りたくなる衝動を押さえ込みながら、佐助はどうするかなぁと空を仰いだ。
……もういっそ、一緒に連れてった方が楽かも。
それからしばらくして通りがかった信玄の熱い指導により、幸村の今回の奥州行きは断念された。
が。
「Hey,今回はアイツはこねーのか?」
「……次は連れてきます」
書状を受け取った最初の言葉がそれですか。
奥州筆頭からの催促の言葉に、最初から連れてこればよかったかなーと佐助は肩を落とした。
***
勘違いする真田その1。
この子はぶっ飛んだ発言とか、脈絡のない会話をさせても大丈夫だ。