<違い>
「んっ……今日はgoodじゃねぇか、幸村」
舌を絡めあう間にそうささやかれて、幸村の頬に違う意味の朱がさす。
正式な用事で奥州に来て、主からとは別に自分で選んだ酒を手土産に持ってきて、秋風にあたりながら精一杯風雅な会話をして。
懸命に覚えた歌を引き出して。其れが精一杯と知った政宗は笑ったけれど。
よしゑやし、恋(こ)ひじとすれど、秋風の、寒く吹く夜は、君をしぞ思ふ
上出来だ、と笑って。
触れることを許してもらって、褥になだれ込んで。
丁寧に、扱って。
最後に眼帯を外して、口付けて。
そこだけ皮膚の感覚が鈍いのだと聞いたので、丁寧に丁寧に舐めてほぐして。
精一杯の言葉をつむいで、手を動かして。
「まさむ、ねどの……」
「very goodをつけてやってもいいぜ」
喜ばせることが嬉しくて、頬が緩む。
滑らかな肌には傷がたくさんあって、いくつかは幸村がつけたものなのかもしれなかったけど。
「政宗殿」
古いのも新しいのも舐めて、ゆっくりと身体をほぐして。
「okay, I'm ready」
熱っぽくささやかれたのにようやく安堵して、繋がって。
蝋燭の炎が揺れて揺らいで、艶やかな空気が充満する。
声を殺して喘ぐ政宗の声も、畳を掴む手も、額に浮かぶ汗も。
「……ぅぁ、ゆき、むら」
「政宗殿」
「バカ、こういうときはちゃんと、しろよ」
突き上げられながらも余裕の笑みを浮かべる彼に、幸村はじんわりと満たされる。
戦場で斬りあうのとはまた違った感情。
「まさ、む」
「筆頭」
冷たく澄んだ外気が流れ込む。
襖を開けた無礼者に、けれど政宗は何も言わない。
「どうした」
幸村が中にいるにも関わらず、其の声は平素と変わらない。
「例の事態でございます」
「Ah? 何処のどいつだ」
「鷺の」
涼しい顔で話をすることにいらだって、幸村は政宗をつき上げようと腰を引く。
けれど肩を強い握力で阻まれ、動けない。
「All right。兵は百でいい。あと忍と小十郎に伝令だ」
「はっ」
ぱしり、と襖が閉じる。
幸村を押さえていた手を離して、にやりと政宗は笑う。
「すまねぇな」
「例の、とは……」
腰を動かしながら尋ねると、唇の端から扇情的な吐息を漏らしつつも、答える。
「てめぇは知らなくていい」
「政宗殿……!」
「客人に奥州の無粋な姿ぁ、見せたくないんでね……っ、おら、イくならイけ」
突き上げを完全にやめていた幸村に、政宗は促した。
けれども、なんだか、もう。
「萎えたでござる……」
呟いて身体を離す。
冷えた寝床に転がった。
「いっちょまえに」
「…………某は……恥ずかしい」
好敵手と言っているのに。
行為で優位に立っている気になっているのに。
「政宗殿もその臣下のお気遣いも、政宗殿の心配りにも気がつかず」
「気がつかれたら俺の立場がねぇだろうが」
「某は……全く、対等ではないのでござるな……」
「……幸村、続きは、戻ってからな」
立ち上がった政宗の指先が優しく髪に触れる。
何も答えられなくて、腕で顔を覆った。
「それがし……は、そんなことも、わから、ずに」
遠い。
伊達政宗が、遠い。
一国の主である彼が、遠い。
年齢の差ではなく。経験の差ではなく。
器の違いだと判ったから、キツい。
ただ嫉妬して、ただ貫きたいと思った。
そんな愚かで幼い自分に心底嫌悪した。
***
でも幸村が気ぃ回る子だったら政宗はそんなにときめいてないよ。