<気になるところは>
 



「佐助は片倉様のどこが好きなのですか?」
そう尋ねた愛の顔は笑っていて、これもいつもの言葉遊びの類かなと佐助は思った。

こうして佐助を呼び付けては愛はよく遊ぶ。ちなみに遊ばれている自覚はある。自覚の有無と回避できるかどうかは別問題として。
……一応こちらも仕事があるのですが。というか旦那さん以外の男性って奥にほいほい入っていいんですかね。

以前そう尋ねた時、愛は至極楽しそうに「幸村様と佐助は特別です」と答えた。
昼間から主でもないのに奥に入ってお茶というのは周りから見れば羨ましいを通り越して妬まれそうないいご身分に見えますが、つまるところ男として見られていないということですね!
愛の本性(とかいうと熱いお茶を背中から流し込まれそう)を知っている人から同情の視線を向けられる事こそあるとはいえ、やっかみを受けたところは今のところない。
佐助が奥に出入りする際に注意しているというのもあるだろうが。

……まあ、話し相手くらいならいいのです。
町に行くと言われるよりは余程。
ただ、話の内容にもよりけりってことで。

今日も愛に呼び付けられお茶を飲みながら――冒頭の言葉を投げ掛けられた。
ここで適当に「全部」とか具体的な部位とか性格をあげるのもひとつの手だが、下手に返すと根掘り葉掘り聞かれた上にいつの間にか小十郎の耳に入っている。
愛から直接とは考えられないので、おそらく政宗か喜多経由で。
え、なにこれどんな四面楚歌?

前にもう少し優しくしてほしいなあと愛の前でぼやいたら……そこは意図を汲んで優しくするところだよね! と叫びたくなる夜……いやそれはそれで……じゃなくて、うん、まあ過去にそんな事もあったわけです。
かといって本気で答えても結果は同じ。
答えなければ更になにか仕掛けてくるだろうし……。

どうしようかな面倒だなあ、と佐助は嘆息する。
大体、小十郎のどこが好きかと問われても、佐助には思いつかない。
好き、だとは、思う。
格好いいとも思うが風貌に惚れたわけではないし、強さならそれこそ主達や信玄の方が上だろう。
たぶん、誰かに言えるような言葉で佐助から小次郎の好きなところというのは表せない。
「佐助、焦らさないで早く教えてちょうだいな」
ぺしぺしと愛は床を叩いて催促する。別に焦らしているのではないのだが。
「はあ……」
「まさか思いつかないとか」
「……俺が死んでも何も損ねないところですかね」
不審そうな愛に、にっこりと微笑んで佐助は答えた。


小十郎の第一に主君がある。
政宗のためなら小十郎はどんな事も厭わないし手も染める。佐助を裏切る事も斬る事も躊躇わない。
そしておそらく、それを悔いたりする事もない。
色恋となると必ずついて回る、悋気だとか、最優先してほしいという望みだとか、そういうものが小十郎にはない。
佐助よりも絶対的に優先するものが小十郎にはあって、佐助にとってはそれが当然で有難かった。
佐助は誰かの一番になどなりたくはないから。


生き様に惚れたと言えば耳触りはいいか。
本質はけして綺麗ではないけれど。




笑顔のまま語った佐助に、対象的にえみを消して黙っていた愛は、やがてふうと深く息を吐いた。
「ずいぶんな答えですこと」
「ちゃんと答えましたよー」
「お茶のお代わりがほしいわ。確か大福があったはずだから、取ってきてちょうだいな」
「はいはーい」
声の調子を変えて愛が命じ、佐助は応じる。
それがこの話題を打ち切る合図だと分かったので。



 



***
このあと愛姫は小十郎には言えなくとも政宗に相談して最終的に政宗がまたいらっとするという。
イラッ \( ̄▽ ̄)/