<ずんだ屋事件簿2>
 



ちかちかする衣装の眩しさに、幸村は早々にひっくり返っていた。
栗色の髪を女達はきゃっきゃ言いながら弄っている。
「幸さま、幸さま、おきてくださいませ」
「うーん、うーん、は、破廉恥なり……」
「悪いな、そいつ女馴れしてねぇんだよ。幼馴染のこの俺がせっかく連れてきてやったのにさ」
酒を傾けながら笑った政宗に、旦那は馴れていらっしゃるねえよ女達がしなだれかかる。
「お武家さんだろ、そうだろぅ?」
「おいおい、野暮はやめようぜ」
笑って女の顎を掴んで持ち上げる。
「あんたも公家の姫さんみたいに綺麗じゃねぇか」
キャーと黄色い声が上がる中、政宗は酒を女達にも振舞う。

吉原で女達の信頼を得るには銭をばら撒くことが重要である。
こっちも向こうも商売だと腹を括って散財することにした。
もともと政宗は無尽蔵の財を持っているがそっちには手をつけないことにしているし、自分がもともと持っていたモノは故郷にそっくり置いてきてあるし、というわけで自由に使えるのは団子屋の売り上げだけなのだが、これが馬鹿売れしているので、散財は容易だ。
「旦那、そろそろ時間だよ」
赤い着物の女に急かされて、そうかと呟いて立ち上がる。
「悪かったな、綺麗どころを占領しちまって」
あらいやだ、この人は本当に口がうまいよねえ。
きゃらきゃら笑う女達はここでは格の低い女達だろう。

政宗は一見で、しかも「数が欲しい」と無茶を言ったのだ。
もともとそのような施設ではないので、相手も困った顔をした。
都合してくれたのは全員今暇な……つまり人気ではない女達なのだ。
逆に言えば、彼女達はここにい続けることはできないかもしれないということだ。
「手間ぁ取らせて悪かったな。またこいつ連れてきたときは頼む」
そう言って一人づつの手に二朱を握らせる。
全員手の中のものをみて、目を丸くした。無理もない。
「こ、これは」
「手間賃だ。女とロクにしゃべれもしねぇ奴つれてきちまったからな」
それは小遣いにしな、とは言わなかったが伝わっただろう。
下級の女達の稼ぎは微々たるものである。
彼女達が客に取られてもその金は半分以上店へととられ、店からはかなりの割合が税金に取られる。
行く場所のない女達のせめてものという考えなのかもしれないが、幕府に食われているのは残念ながら事実でしかない。

「じゃあな」
そういいながら幸村を担ぎ、廊下に出る。
慌てて女達が手を貸そうとしてくれたが、そのまま背負って外に出た。


門をくぐり河原を歩く。
適当な草むらに彼を転がして、自分も腰掛ける。
「ま……さむねどの」
「Hey,おきたか」
「も、もうしわけありませぬ。某、女性の白粉の臭いがどうも苦手で」
「Ah-, no prob. 別に今日いきなり聞きだせるとは思ってねぇよ。っつーか気がつかねぇか幸村」
「何がですか?」
「あそこの遊郭、普通の相場だったぜ。っつーことは問屋の主ならともかく普通に働いてる奴が通えるわけねぇ。一応念の為とは思ったんだが……」
無意味だったな、と呟いた政宗に上半身を起こした幸村が抱きついた。

「政宗殿ー!」
「な、なんだ!?」
「某、信じておりました! もしかしたら女人を抱きたくなられたのかなどとは思」
「Shut up!」
ぶん殴って吹っ飛ばしてから、政宗ははーはーと息を継ぐ。
「っつーかソレは普通だろうが!」
「そ、某に飽きられたのかと……」
めそめそする幸村に、呆れて見下ろす。
今更どう見限れというのか。
「………………俺が今アンタに飽きたら、アンタ確実に野垂れ死ぬな」
素直な考えを言ったら、涙顔でしがみつかれた。
「やめてくだされー!」
「いやしねぇけど」

しがみつかれたのを蹴り払うでもなく、その場に腰をおろす。
くすんくすんと幸村が頭を寄せてきたので、わしわしと撫でてやる。
少し、白粉臭かった。
「ってことはドコから金を得てるのかって話か……My, めんどくせぇな」
「きな臭くもありますぞ」
「まあな。定番に問屋の金をくすねてると思ってもいいが、あそこそんなに儲かってるとはおもえねぇしな」
「金子はどれほど入用なのですか?」
「Ah? まあ買うgirlの格にもよるけどせいぜい二百文は……」
「団子が幾つ買えますか!?」
「……うちは一つ五文だから四十個か」
「うおおおおおお!? 某団子四十個のほうがいいですぉお!?」
いきなり叫んで幸村は身体を起こす。
撫でていた手を地面に置いて、政宗は目を閉じると背中を地面につける。
「そりゃそうだ。Appetite がすべてに優先する奴に言われたくもねぇだろうよ」

しばらく沈黙が落ちる。
さやさやと風がなり、月光が水面と草むらを照らし出す。

「そうでもないです」
目を閉じて横たわっている政宗の上に覆いかぶさって、幸村は笑う。
「某、団子より好きなもの、ありますぞ」
「What's that?」
薄い唇が弧を描く。

ああ、とてもきれいだ。

そう思って、身体をかがめて、口付ける。

ゆっくり、さわって、はなれる。

それだけでは足りなくて、着物の合わせ目に手をかけた。


「……幸村」
左目を薄く開けて、政宗はゆるく笑う。

伸びてきた手が頬をなぞり、それから。










「そ、と、で、は、やるな、つっただろうが!? アホかてめぇは!!」
「あたたたたたたたいたいいたいいたいでござるぅー!」

わしと捕まれた頭が、割れるかと思った。
寝床に投げ入れられてから幸村は佐助に語ったという。

佐助曰く。
「もう十分ヒビ入ってるから大丈夫。ついでにおつむも柔らかいから大丈夫」
ということだったが、幸村はその意味がちーとも判らない。






 

 

***
まさかの野外プレイ。

になるはずもなく。



発見されてもしかしたらしょっ引かれたら末代の恥。
ていうか幕府転覆の危機。
ついでに幾つなんですかね彼ら。せめて二十代であって欲しいものです。