「んっ……ぁ、あ、ヤァッ、こじゅ、ろ、さん」
ねちっこく苛め抜かれた佐助の雄はすでに出すものもなく、しかし貫かれる快感で仮初の元気だけは持っている。
「イか、せてよぉ……ねえ、おねが、ひゃあっ」
嫌だ嫌だと目尻に涙を浮かべて首を横に振る佐助を組み敷いて、小十郎はゆっくりと体重をかけていく。

「や……っぁあ」
絶頂に行き着けずビクビクと身体を震わせる佐助に、小十郎はなぜだか微笑む。


当たり前なのだが、二人とも没頭していた。





<説明より早い>






――半刻前。


その日に限って佐助は真昼間に小十郎の部屋に降り立った。
何しにきやがったとうざったそうな視線を受けながらも、さささと近づくと後ろから彼の背中に抱きついた。
「片倉のだーんな♪」
広い背中をぎゅうと抱きしめると、男の手が伸びてきて無碍に振り払う。
「うぜぇ。何の用だ猿飛」
「旦那と竜の旦那が離れでいちゃついてるんだよ」
だから俺様もー、ともう一度しがみつくと、今度は溜息だけで振りほどかれはしなかった。
ので、調子にのって首筋に軽く唇で触れる。

「ね、小十郎サン」
ちゅ、と耳たぶに口付けて囁く。
「久しぶりですね」
「……だからなんだ」
「小十郎サンが欲しい。俺様の中にぶち込んでよ」


ねぇ、と笑った佐助の額あてを小十郎はぐいと上に上げて取り外す。
「取り消しはねぇぜ」
「合点承知」
視線を合わせて、どちらからともなく笑みを浮かべた。










くちゃりと手の中で固くなっていく雄を抜きながら、小十郎は佐助に自力で足を上げるように要求する。
無理無理と泣きながら、佐助はかすれた声で要求していた。
「いれて、よぉ……」
「黙って足上げろや」
「あが、んないって、ば。小十郎さんの、意地悪っ……」
「上げろつってんだろうが。できねぇならやめても俺はいいんだぜ」
「や、やだぁっ! ちょ、ちょっとまって……今、上げるって」
佐助の爪先がゆっくりと畳を離れる。
離れるがすぐに、また落ちた。

全然ダメじゃねェかと吐き捨てる小十郎に、無理だって!と佐助は叫ぶ。
ンなこともできねぇのかと嗤う彼に、できないのは旦那の所為だよと呟いた。
「人の所為にするのか、あァ?」
脅すような低い声で言って握りこむと、くぅんと泣いて喉を逸らす。
はらはらと涙が流れる頬は赤い。目も赤い。他は白い。
爪で傷をつけて赤い血を流すといいのだろうなとは思ったが、爪が短かったので止めておく。
「上げろ」
「や、む、むりぃ」
「上げなきゃいれれねぇだろうが」
「いつもみたいに、小十郎さんが、して、よ」

じゃあねだってみろよといつものように言うと。
真っ赤に染めた顔でそっぽを向いて、お願いしますと小声で言う。
しかしそんなもの聞いてやる気もしないので、聞こえねぇとだけ返すと、恥辱と何かでふるふると震える。
「足、上げて、いれて」
「何を」
「こじゅうろう、さんを」
「真っ当な単語使え」
うう、と唸る佐助の口ははくはく動いているが言葉は出ない。


元来、忍の猿飛佐助に褥に関する羞恥心はないはずだ、と思う。
実際佐助には羞恥心はほとんどないらしい。特に自身に関しては。
なのにどうしてこういうときの小十郎の言葉責めに反応するのかと聞いてみると、だんなの所為だよと言われた。
小十郎に意味はわからないが、演技でないならどうでもいい。

「言ってみろ、佐助」
「……ぁ、や、やだ……」
弱弱しく呟いて嫌がる佐助だったが、視線だけ向けられた目はもう限界に近いことを物語っている。
「佐助」
最後の迷いを振り切らせるように、間近に顔を寄せて鼻先で囁く。
わざといつもより低い声で言ってやれば、それだけでビクンと佐助の身体は動く。
トドメといわんばかりにねっとりと口付けてやれば、その間は完全に呼吸が出来なくなっていたらしき彼は、いきなりぼろぼろと涙をこぼしだす。
「ャ……いれてくれなきゃ、やだ……」
「ガキか」
「こじゅうろうさん」
おねがい、とねだる佐助にいつもの人をからかう色はない。
時折見せる不安げな感情も、怜悧な表情もない。

ただ、小十郎と比べるとかなり薄い色の目を細めて、懸命に手を伸ばして、全身で訴える。
その時の佐助は、綺麗だと小十郎は思う。
忍であるが故の仮面も、猿飛佐助であるが故の仮面もなく。
純粋で真っ直ぐの視線は、痛くもあるが心地よくもある。

竜の爪を立てて引っかいてかき混ぜて、ようやく見える佐助の一面。
ソレが彼の全てではないと小十郎は承知しているが、自分しか見れないと思うとたびたび見たくなるのは当然だ。
「こじゅうろうさん」
甘く滲む瞳に浮かぶ涙を舐めて、小十郎は彼の両目を自身の手で塞いだ。
「……こじゅう、ろう、さん?」
突如佐助の声に不安が混ざる。

そうだ、もっと。
「さすけ」
耳元で囁くと、過剰なまでの反応を示す。
ソレが楽しくて笑っていると、ひゃあと甘い声を上げる。
「だめ、それ、感じるっ……」
ぶるぶると身体を震わせるのが又面白く、耳元に息を吹きかけるとやだァと身をすくませる。
いつもとは違う反応は、やはり視界を奪われているからだろうか。

忍にとって、異変を察知するというのは何より重要だろう。
ソレをするための視界を奪われている今、佐助の心境は小十郎にはわからない。わからないけれど。
「佐助」
「ヤぁああっ、離して、小十郎さんっ」
「何でだ。さっきとなんもかわんねぇよ」
「ヤダ、や……やだ……」
じたじたと暴れている佐助が、だんだんと大人しくなっていく。
大人しくなっていくが、細かい震えは止まらなくて、小十郎は思わず目を見開いた。


「佐助、てめぇ…………怖い、のか」
「…………」
「見えないのが、怖いのか」
視界を奪われたというのは通常は確かに恐怖だろう。
だが彼にそんな理屈が通用するとは思わなかった。
「こわく、はないよ」
漏らされた声は存外しっかりしていたので、小十郎は少し落胆する。
彼の苦手なものを見つけたと思ったのだが。
「だって、俺の目を隠してるの、小十郎さんでしょ」
だからこわくないよ、と言った佐助の口元が歪んで笑みのような形を作る。
それに何もいえなくて、何をいえばいいかわからなくて、小十郎はとりあえず噛み付いておいた。



「んむっ……ん」
こじゅうろうさん、と唇が離れる間に呼ばれる。
「俺が怖いのはね」
両目を隠されたまま、佐助は言う。
「小十郎さんが見えなくなることだよ」
「……」
「でもちゃんといてくれるのも、わかってるから」
怖くないよ、と言った佐助の足を小十郎は何も断わらず持ち上げて膝を折らせる。
片手で彼の両目を覆ったままで、もうぐちゃぐちゃになっている部分から液体をすくって菊座へなすりつけた。
「ひゃ」
「いるぜ、佐助」
ぐい、と押し込むと彼が息をつめる音がする。
柔軟な肉がぐいぐいと小十郎の指を包み込み、案外するりと奥へと動く。
「……っあ、っ、ううっぁああ!?」
後ろを愛撫しつつ、自由な膝の部分でちょんと立ち上がった男根をつついてやれば、予想外の刺激に佐助は喉を逸らして甲高く啼く。
それでも射精に至らないというあたりから、この前までにどれだけ苛め抜かれたか察せられるというものだ。


「イきてぇんだろう、佐助」
耳元で嗤うと、鋭い聴覚で小十郎の声を捉えてしまう佐助はいやいやと首を横に振る。
「っつうぅう」
「嘘つくんじゃねぇ」
「や、ぁ」

駄々をこねる彼の目の色が気になって。
手を外すと、赤く潤んだそれとかち合う。
「イイ顔だな」
思ったことをそのまま言ってやれば、目元と同じぐらい顔を全部赤くする。
真っ赤になった耳に指をかけて、するりとなで上げるだけで全身が震えた。
「は……恥ずかしぃ……」
たまらず顔を背ける佐助に低く笑う。
これは彼の降参の証だ。

「今日、こそはって、思ったのに」
「素直じゃねぇな」
「うう」
切なげに伏せられた目と吐息に、小十郎はあっさりと後ろに入れていた指を抜く。
その時もわずかな声が聞こえたが、気にせず改めて足を抱えた。
「真昼間、から、こんなの」
「誘ってきたのはどっちだ」
「俺様、だけど」


ゆっくりととっくに猛っていた一部分を佐助の中に収めて、小十郎は散らばった彼の髪へ手を差し入れる。
梳く真似事をしてやれば、うっとりと目を細めた。
赤く染まっていた顔は少し色が落ち着いてきている。
「締め付けてきてるぜ」
笑って言ってやれば、白くなりかけていた頬に再び朱がさす。
「だ、からそう、いうことをぉっ……」


言わないでよ、とかすれた声で言われる中、小十郎は佐助をせめだす。
長い間弄られつくされた佐助の身体は、それでも強く反応を返す。
「っあ、いい」
涙をこぼしながら小声で呟いて、佐助は小十郎の肩に爪を立てる。

イかせてと懇願する声の中、小十郎はそろそろ終わるかと思いながら、佐助の胸に手をやり。




ダダダダダダダダ



スッパーン!



「佐助!」



声が、部屋に響く。
ビリビリと指先まで痺れそうな声だ。

「どこにい………………」
威勢よく部屋を揺るがした声が、急速に尻すぼみになっていく。
小十郎は視線を佐助から動かして襖のほうへを向けた。
声から推察は容易だが、そこには石化した真田幸村が立っている。
「おい、いきなり開けんじゃねぇよゆきむ……………………Oh my goodness」
ひょいと後ろから姿を見せたのは、小十郎の主君であった。
が。

「はしたない。廊下を走るな。襖を閉めろ」
小十郎は眉を寄せて、もう一言付け加えた。
「政宗様、まさか真田と同じことはしていらっしゃらないでしょうな」
「あ、あー……」
露骨に視線を逸らした政宗の前では、幸村が膝から崩れ落ちている。

そこでようやく肩を叩かれていることに気がついて、小十郎は視線を落とした。
「どいてよ右目の旦那!」
「何でだ」
信じられないと佐助は目を丸くする。
しかし二人はそれ以上会話を交わすことは出来なかった。
「そこをどいてくだされぇ、片倉殿ぉ! 佐助も出てくるのだぁあああ!! これはどういうことですか政宗殿ぉおおおおお!!!!」

ようやく石化が解けた幸村が、素晴らしい大音声で暴れまわる。
座り込んでいる幸村の襟首を後ろからひょいと掴んで、政宗はくるりと背を向けた。
「そういうもんだろ。いくぞ幸村」
「うそでござらあぁああああぁああああ!!」
「おい……動けよ! いいから行くぞ!」
「嫌でござるぅううううううううううううう」

絶叫して幸村は泣きだす。
どう考えても泣きたいのは小十郎と佐助のほうではあるまいか。
赤ん坊のように「うぁあ゛あ゛ぁ゛」と泣いている幸村をぺいっと投げ捨て、政宗は肩をすくめた。
上手く顔の右側を向けているのは見ないようにと言う配慮だろう。
「お母さんよ、なんとかしてやれ」
「そこで俺に投げないで!?」
小十郎の下にいる佐助が悲鳴を上げる。
上半身を起こしかけた佐助を床に戻して、小十郎は視線だけ背後へ向けた。

「政宗様、引っ張っていってください」
「無理無理無理無理! 暴れたこいつを引っ張ってくのがどんだけ大変かお前だってわかってんだろうが!?」
思わずがばっと振り返った政宗は、sorryと小さく付け足して再び背中を向ける。
小十郎と佐助はまるっきりそのままという訳ではなく、互いの着物は着っぱなしだったし特に小十郎の着物は二人の身体を上手く覆いかぶさって隠してはいたが、見たいものではないだろう。

そして、幸村はまた絶叫した。
「ははははハレンチなぁあああああああああああああああ!!!」
「うるせぇ」
舌打ちをした小十郎は、幸村を何とか引っ張ろうとしている政宗を視界の端に移したまま、腰を引く。
「ちょ、ま、まって旦那ッ……」
押し込まれた質量は、佐助から余裕も言葉も息も奪う。

背後から幸村の叫び声が聞こえてきてはいたが、小十郎は無視して佐助の頬に手を当てる。
「っ、ぁ、ゃ」
ぎゅうと強く目を閉じている佐助の目尻の涙をぬぐう。



ドカッ バシッ




背後から鈍い打撃音が聞こえ、政宗に何かあったのかと振り返ると、そこにはぐったりと倒れた幸村を背負う彼がいた。
「……悪かった小十郎。You too.佐助もな」
よいせ、とずり落ちかけた幸村を抱えなおして、政宗がタンッと襖を閉める。

襖が閉まる。


「な、なんなんだホントに……」
首まで赤くして呟いた佐助は、ふと視線を小十郎に向けると、彼の顔へ手を伸ばして小さく笑った。



 

 

 



***
夢の再生@何事も完璧は不可能だな





「あの後どんだけ大変だったか……」
その日の夜、苦い顔で胡坐をかく主人に、申しわけありませんでしたと小十郎は頭を下げる。
それはいいんだけどよ、と苦笑して政宗は酒盃を傾けた。
なお幸村はとっくに寝ているらしい。寝かしたというのが正しいか。
「俺は野暮は言わねぇよ。Do as you like. 好きにしろ」
「はい」
差し出された酒盃に酒を注ぐ。
美味そうに飲み干して、政宗は酒を手に取ると、傍らに置かれっぱなしの小十郎の杯に並々と注いだ。

主の意思を汲み、小十郎は恭しく杯を持ち上げる。
「野暮はいわねぇが、二度目はごめんだからな。ちっとは気ぃ……つかうはこっちか」
明日起きたアイツをどうするかだな、と苦笑して政宗はもう一杯小十郎へ酒を勧める。

主かた賜る酒を飲みながら、小十郎は今日の出来事を反芻して、今から思えば用心が足りなかった、と思った。



小十郎は終生そう思い続けるわけだったが、実はもう一人のやけっぱちな作戦だった可能性を吟味しないあたり、大概彼も頭が固い。