<VS!>



鋭い声と共に切り上げた一撃がフレンの手から剣を弾き飛ばした。
同時に荒い息をつきながら膝をついたガイの手からも鈍い音を立てて剣が落ちる。
「はい、それまで」
ユーリが二人の肩を同時にたたくと、フレンはがくんと前のめりになってから、飛ばされた剣へ視線をやった。
「くそっ、負けた!」
いつもの彼なら出さないような子供じみた声に、ユーリは笑ってタオルを持ってフレンの方に歩いていく。
ルークもユーリに渡されたタオルを持って、ガイのところへ駆け寄った。
「ガイ、大丈夫……か?」
「ああ、ルーク。ありがとう」
息を整えながらも笑顔でルークからタオルを受け取ったガイを見上げて、翠の目を輝かせる。
「ガイすげーっ!」
「はは、ありがとうな」
「まじでフレンに勝っちまうんだもん! ガイお前実はすっげー強い……?」

強いとは思っていたけどこれほどとは、と興奮するルークにあいまいに笑って、ガイは剣をしまう。
軽い練習試合でも、ということだったはずなのにいつの間にか本気の試合になっていた。
「……俺と競り合うってどれだけだフレン=シーフォ……」
「どした?」
「いや、なんでもない。フレン、大丈夫か?」
立ち上がったフレンは真っ直ぐに右手をガイへと差し出す。
「いい試合だった。ありがとう、ガイ」
「俺こそ。楽しかったぜフレン」
しっかりと握手を交わしてから、タオルで汗をぬぐいながらフレンはユーリを振り向いた。
「君もやってみるといいよユーリ。ガイの剣は実践的で面白い」
「俺のより?」
目を輝かせたユーリも戦いたくてうずうずしている。
あれだけの試合を見せつけられたら当然だ。

「いっけーガイ! ユーリにも勝てー!」
子供のような笑顔で拳を上げたルークだったが、ガイは首を横に振って剣をしまう。
「ルーク、そろそろヴァン謡将のくる時間だぞ。用意しないとな」
「むー。わかった」
大人しく頷いて自室へと走っていくルークを見送りながら、ヴァン謡将? とユーリとフレンはそろって首を傾げた。
「軍人か? 物騒だな」
「いや、ヴァン謡将は家庭教師というか……ルークの剣の師だ」
「ああ、ルークがよく話す「師匠」って人か」
「まあな。おっと、噂をすれば……お久しぶりです。ヴァン謡将」
ガイが頭を垂れた先へユーリとフレンの視線が自然に向けられた。

大柄な男だ。
腰に帯びた剣と身にまとう服装が物々しい。
「ひさしぶりだなガイ。……そちらは?」
「こちらにお世話になっている者です。私はフレン=シーフォと申します」
「俺はユーリ=ローウェルだ」
「世話に……? 一時逗留ということか?」
この閉ざされた屋敷に客人が招かれることはまずないというのに。
怪訝な顔をしたヴァンだったが、ガイも細かく説明するのは面倒すぎたので適当に返した。
「まあ色々ありまして。それよりそろそろルークが……」
「ししょー!! 久しぶりだなっ!」

駆け寄ってきたルークはひと振りの剣を持っている。
きらきら光る目で見上げて来たルークの頭を軽く撫でて、ヴァンは口元を緩めた。
「ああ、久しぶりだなルーク。どうだ、稽古をさぼってはいないか?」
「さぼってねーよ!」
口をとがらせたルークは、すぐに満面の笑みを浮かべてフレンの腕を引っ張る。

「師匠! 聞いてくれよ、こいつフレンっていうんだけど、すっげー強いんだぜ!」
「おいおいルーク、俺だって強いだろ?」
笑いながら茶化したユーリに、でもユーリの本気見てねーもんとルークは言う。
「訓練も半分くらいてきとーだし、ユーリホントに強いのかよ?」
「フレンと同じくらいには強いぜ」
「まじで!?」
「ほんとだよルーク。ユーリは僕と同じくらい強いよ」
フレンからのフォローも受け、ふーんと考えたルークはぽんと手をたたいた。
「じゃあユーリは師匠と試合してくれよ!」
「え」
「は?」
「だってガイとフレンの試合すごかったし! 師匠とユーリもすっげー試合になると思うんだ! な、な?」

名案を思いついたと言わんばかりのルークに、四人は思わず顔を見合わせあう。
ヴァンとしては明らかに年下の相手に負けるとは思っていないし、ユーリとしては誰かと戦いたくてうずうずしていた。
ガイとフレンはたった今戦ったので頭の中がいい感じに真っ白だった。

……というわけで特に誰も異論をはさむこともなく、練習試合が挟まった。
「勝負は一本。お互い真剣だから扱いには注意するように」
審判役を買って出たフレンを挟んで二人は睨み合う。
ルークは少し離れたベンチに座って、わくわくしながら見入っている。
その隣に腰掛けてなんだか変な事になったと思っているガイだったが、試合開始の号令と共に動いた二人に意識を持っていかれた。

ヴァンの操るアルバート流は正当派の剣技だ。
その一撃にはかなりのパワーが秘められている事は、まだ未熟なルークの剣技を見ていても十分に分かっている。
ゆえにユーリは一番確実な方法を取る事にした。


腰を落としたユーリの構えにヴァンは目を細める。
目の前の青年の流派はわからないが、アルバート流の弱点は少ない。
真正面から組み合ってアルバート流に敵う流派などほとんどいない。

先に動いたのはヴァンだった。
お互いに盾を持たない同士、鋭い剣の光が踊り、ガキイィンッと耳に響く音が鳴る。

「……勝ち、だな?」
ヴァンの喉元に刃を突き付けたユーリはにやりと笑った。
ユーリは打ちおろされていた切っ先を片手に持った鞘で逸らしつつ、空いたスキめがけて大きく踏み込んでいたのだ。
「くっ……まだだ! 烈破掌!」
突き出されたヴァンの攻撃をひらりとかわし、ユーリも同じく突きを繰り出す。
「虎牙破斬ッ!!」
「ぐっ」
「円閃襲落ッ!!」
「ぐうっ!!」
「まだまだァ!! 断空牙ッ!」

鋭い一撃を受け、ヴァンは呻いてすっ飛ばされる。
強く地面にたたきつけられて、顔を盛大に歪めた。
「勝負あり! ユーリ!」
フレンの声に茫然と戦いを見ていたルークがはっとした表情で立ち上がって、拍手する。
「ユーリ強えー! 師匠に勝っちまった!」
「あたたた……情けないとこを見せてしまったな」
腰をさすりながら起き上がるヴァンに手を差し出して、正当派はえてしてスキが大きすぎるんだよとユーリは笑う。
「俺も騎士団で剣を習った時に、でかすぎるスキの消し方考えてたからな」
「だから君はあんなに我流の技を……そもそも正当派っていうのは」
小声が始まりそうなフレンを制して、ユーリはくるくる剣を回しながら鞘に納めた。
「スピード勝負なら負けないぜ」
「スピードならガイも負けねーもんな! 今度はガイ対ユーリで師匠対フレンだなっ!」
「えっ、ちょっとルーク……」
さっきまで戦ってたのにと苦笑したガイを見上げて、ルークは命令だぜと笑った。





***
別名ヴァン先生フルボッコの回。
LV150のガイ(2週目)と140のフレン&ユーリ(ED後)ではOP前のヴァンは余裕という。