<似ている手>
二人は結局「ルークの相手をする雇い人」みたいな扱いで落ち着いた。
ルークは客として迎えたかったのだけど、二人がそこまでの扱いは必要ないといったし、客分扱いをすると使用人の仕事も増えると聞いたのでそのくらいの扱いになった。
別に使用人たちの仕事を増やして迷惑をかけたいわけでもない。
「悪いなこんなのしかなくて」
「いえ、十分ですよ、ありがとうございます」
重い鎧の代わりにガイの服を借りたフレンは襟元を整えると、先ほどから窓際に立っているユーリを振り返る。
「どうかなユーリ」
「……恐ろしいほど似てるな」
しみじみ呟いたユーリは溜息を吐いて、数歩歩くとちょいちょとフレンの前髪をなでつける。
「跳ねていたかい?」
「ちょっとな……いや、ホント似てるわ」
ユーリの視線は部屋の主に向けられていて、それに気付いてガイは苦笑した。
ガイとフレンはよく似た明るい金髪に、明るい空色の目を持っている。
それ以上に二人の顔立ちはよく似ていて(ガイの方が肌の色はちょっと濃いけれど)、同じような服を着ると兄弟みたいだった。
「フレンはガイの弟みてーだな」
ルークが笑って言うと、「そうですか?」とフレンは笑う。
その笑顔もまたガイによく似ている。
「兄弟はいないので想像つきませんけど、兄はほしかったので嬉しいです」
「あはは、まあ俺も弟はいないから想像つかないけれど……ああ、ルークが弟みたいなもんかな」
「どういう意味だよー!」
うりゃ、とベッドに座ったまま近くにいたガイのすねを軽く蹴ると、「痛いだろー?」と笑われる。
その顔はフレンによく似ていたけど、やっぱりガイの笑顔だ。
「俺はガイの親友だろー? 弟じゃねぇーっての」
対等な立場を強調したくて放ったルークの言葉に、ごめんと言ってガイは隣に腰を下ろす。
肩にまわされた指で優しく髪を梳かれる。
「なんだかんだ世話とかしてたからそんな気もして。お前はずっと親友だよ、俺の可愛いルーク」
「なら、いーけど……」
こんな時こそ子供扱いな気もしたが、ルークはガイに髪を梳かれるままに視線を上げて、呆然とそこに立っている二人の客人に気がついた。
「どうしたんだ、フレンにユーリ」
「お前ら、使用人と主なんじゃなかったのか?」
ストレートに聞いてきたユーリに、ああそうだったとガイは肩をすくめ、ルークは手を打った。
「俺たち親友だから二人の時はちゃんと親友なんだって。フレンとユーリも俺の客だから敬語禁止な!」
「え、し、しかしぼく……私達はお世話になる身で」
「同い年の奴全然いないからさ! 友達になってくれよ」
あう、と言葉に詰まったフレンとは違って、ユーリは愉快そうに笑ってルークへ手を差し出す。
目の前に出された手を握る。
皮膚の皮が固くて、温かい。
「んじゃ、よろしくなルーク」
「おうっ、よろしくなユーリっ!」
「え、ええと……よろしくおねがいしま……おねがい、するよ? ルーク……君」
「ルークでいいって!」
ユーリに続いておずおずと差し出されたフレンの手も握ってから、ルークはふと気付いたことがあって彼の手を離さないまま引っ張る。
「うわっ!?」
「フレンの手……」
引き寄せた手の平をじっと見てから、ルークは自分の髪をなでていたガイの手を引っ張る。
「なんだルーク?」
「フレンとガイ、手はちげーのな」
「……そりゃあ、別の人間だからな?」
「よく似てるけど、ガイの手はユーリの方が似てるかもしれねー」
「そうかぁ?」
差し出されたユーリの手の平と、もう二人の手の平を見比べて、ルークは確証を持って頷いた。
「ん、ユーリの手とガイの手、似てる」
「そうかね?」
「かなぁ?」
三人は首をひねっていたけど、ルークにはちゃんと分かっていたので問題ないようだった。
三人とも剣を使う手だったけど、剣以外にもたくさん仕事をしている手だったけど。
「へへへっ」
まだ近くにあったガイの手をなぞって小さく笑う。
「ご機嫌だなルーク、どうした?」
そう言うガイの顔も嬉しそうで、それがもっと嬉しくてルークは顔をほころばせた。
「俺、ガイの手が一番好きだなって思った」
三人の手を比べても、きっとここに師匠の手を加えても。
きっと彼の手が、一番好きだ。
「傷だらけだぞ?」
「知ってるってーの」
でも好きだ、とこれ以上口にするのも恥ずかしかったので、ユーリとフレンが何かに気を取られてこちらに背中を向けている隙に、軽く身をかがめてガイの手の平に口づけた。
***
たぶんユーリはちゃっかり横目で見てるんじゃないかと思わなくもない。
ゲームのユーリ君の見抜きレベルは超能力。
対してフレン君は……以下略。