<思春期って難しい!>

※カロル→ユーリです。
 普段の流れとはちょっとズレた感じで。



「エステル、料理うまくなったねー」
「ふふ、ありがとうございます。たくさん練習したんです」
久しぶりにハルルを訪れたカロルたち「凛々の明星」を、エステルは暖かく歓迎してくれた。
彼女が作ってくれた料理はとても美味しくて、疲れていた一同はぺろっと食べてしまう。
「でもレイヴンもいるとは思わなかったよ」
「おっさんは騎士団長様のお使いよ〜ん」
「フレンも元気だそうですね、よかったです」
「私たち今からザーフィアスに行くから、何か伝言があれば持っていくわよ?」
「ワウッ!」
「じゃあ今度の花見の時期にヨーデルと一緒にぜひ一度って……」

「風呂お先ー」
黒髪を後ろに一つで結いあげて髪の先からぽたぽた水滴を落としながらユーリが近づいてくる。
そろそろ暖かい季節だから、上半身には何も身につけていない。
その彼に慌ててエステルが駆け寄った。
「だめですユーリ、風邪ひいちゃいます」
「んなヤワじゃねぇよ」
「わっかんないわよ〜、青年四捨五入したらもう三十路じゃない!」
「いつまでおっさんが俺を「青年」って呼ぶか楽しみにしててやるよ」
エステルに渡されたタオルで髪を拭きながらユーリがにやりと笑い、一本取られてるわねよジュディスが笑う。
「ひ、酷いわね! おっさんは」
「そう言えばレイヴンはもう不惑ね」
「四十にして惑わず、ですね」
「無理っぽいな」
「ぐはあっ」

ぎゃあぎゃあうるさい大人達を見ながら、カロルは無言で席を立つ。
「どうしたカロル先生?」
一番目ざといのはいつもユーリで、今も喧騒の真ん中にいるのにそんな事を聞いてくる。
カロルは何でもないよとかすれた声で答えて、背中を向けた。

(さいあくだ)

大きな音をたてないようにとギリギリの理性でそこはなんとか守って、カロルはハルルの夜の町へと飛び出した。
全力で道を駆け上がり、そこに立っている大きな木のふもとで少し上がった息を整えながら座りこむ。
「最悪だっ……」
頬が赤い、体が熱い。
でもそれは、それはきっと走ったせいじゃない。
「なんで、なんで……なんで、よりによって……」
自分でもよくわからないごちゃまぜの感情が吐き出せなくて、カロルは木のふもとで嗚咽を必死にこらえていた。









バタバタと走り去っていくカロルの背中を見送って、ふーとユーリは溜息を吐く。
「ユーリ、どうしたんです? カロルも」
「カロルはこの町にいる依頼人に会いに行ったんだろうさ。なあエステル、酒くれ」
「飲むんです?」
下戸なことを知っているエステルが眉をひそめて尋ねると、飲みたいんだよとユーリは笑う。
「一番弱い奴でいいからさ」
「あ、おっさんも〜! おっさんはねえ、強いのがいい!」
「心臓に負担かかるんじゃなくって? でも私も一杯いただこうかしら」
おたおたとしだしたエステルに、悪いけどさとユーリが声をかける。
横に投げてあったシャツを適当にはおってから腕をまくった。

「買いに行ってきてもらえるか? つまみは用意するからさ」
「はいです」
「ラピード、ついてってやってくれ」
「ワンッ!」
「じゃあ行きましょうです、ラピード」
嬉しそうに笑ったエステルは(相変わらずラピード大好きなので)上着を羽織ると部屋を出ていく。
ユーリより先にキッチンに足を踏み入れていたジュディスは、食材をチェックしながら深々と溜息を吐いた。

「どうするのユーリ」
「どうすっかなぁ……」
「え、なに? 食材足りないの?」
「そっちじゃねぇよ。おっさん、気付かなかったのか」
ジャガイモとキノコをジュディスから受け取ったユーリが慣れた手つきで料理をはじめながら、もう一度溜息を吐く。
「あなたはどうしたいのユーリ」
「どうしたいって……見なかったふりをするのが一番だろ」
「でも気の迷いではないでしょう?」
「だよなぁ……」

二人でわかったように会話をしていたのだけど、レイヴンは理解できなくて恐る恐る突っ込んだ。
「あのぅ、おっさんにも説明してくれない?」
「……カロルだよ」
一瞬ためらってからユーリは年若い「凛々の明星」のボスの名前を挙げる。
先ほどの二人の会話と何がどうつながるのか。
確かに先ほどのカロルの様子はおかしかったし、ユーリがエステルへした言い訳は明らかにおかしいが。

「待っておっさんわかんない。……あ、でも、そういえば三人一緒って珍しいわね」
ギルドの初期面子とはいえ、三人がともに動く必要のある仕事は少ない。
自然と三人とも各地に散っているのが普通だ。
「わざと合流したのよ。カロルの様子を客観的に見てほしいってユーリが言うから」
「ジュディから見てもやっぱそうだよなあ」
「ええ、あれは完全にそうね。思春期って難しいわ」
「あの、おっさんにもわかるように教えてくれない?」
だーかーら、とユーリが苛立った口調で言った。

「カロルが俺に欲情してるって話だよ」
「青年色っぽいからねえ……ってえぇ!?」
「あれは憧れとかではないわね」
「だーよなあ……どうしろってんだ」
顔をしかめたユーリに、いやいやいやとレイブンは首を横に振る。
「二人の気のせいって可能性もあるじゃない!」
「俺も気の迷いかと思って一年様子見てたんだけどな……」
「で、どうするのユーリ? 応えるの?」

ジュディスに重ねて聞かれて、ユーリは困ったような顔をした。
「そんなの、無理だろ」
「可愛い弟分の望みじゃない」
「……ジュディ俺をいじめて遊ぶなよ。無理だって、俺はカロルのことは何とも思ってない」
「うわー、青年そっけないわー。っていうか……」
茶化すように声を上げたレイヴンだったが、頭痛を覚えたのかこめかみを押さえた。
さっきからジュディスもユーリも同じような格好をしている。

「そもそも……いろいろ、無理だろう? いや年齢とかは抜きにしてさ、十違おうが二十違おうがどうでもいいんだけどさ」
「無理ね」
「無理だわね〜」

「「だってユーリは攻めだもの」」

声をそろえたジュディスとレイヴンは、はあーと溜息を吐いた。
カロル少年(そろそろ青年かもしれないが)は知っているのだろうか。
なんかそのあたりの知識はあんまりない気がしなくもない。
ギルド発足させてから、彼は真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐそればかりしてきただろうから。

「フレンちゃんのことはわかってると思うんだけどね〜」
「わかってなかったら俺が泣きてぇよ」
憮然と答えたユーリに、ジュディスが首を傾げながら言う。
「でもどっちが上か下かなんてやっぱり知らないんじゃないかしら」
「さすがの青年も子供たちの前じゃあそういう発言してなかったしねえ」
「どうするべきかな……」

珍しく本当に困っているユーリに、ジュディスとレイヴンは何とも言えなかった。
別に誰の責任でもないし、特にユーリが悪かったわけでもないだろう、たぶん。
だがいつかはどうにかしなくてはいけない問題で、というかどうにかしないとカロルがかわいそうだ。
「……でも一年以上の片思いなら、諦めさせるのは難しそうねえ」
「でも、フレンは八年かけたのよね?」
レイヴンの一言の後にジュデスの追い討ちがかかって、ユーリはがっくりと肩を落とした。





***
カロル→ユーリの切ない思春期を書こうと思ったら、全部まるっとお見通しな大人組の会話になった。
我が家のユーリ君がユリフレで圧倒的に攻めなのがいけない。