<私の願い あなたの望み>
ぐったりと体を投げ出してうつらうつらしているルークの赤い髪をゆっくりと梳きながら、ガイは優しくキスを落とす。
「……ルーク、愛してるよ」
「知ってる……」
枯れた声が返ってきて、それも愛しくて笑う。
「そうだな。お前は俺のことならなんでもお見通しだ」
「だから、泣くなよガイ」
唐突に発せられた言葉にガイの手の動きが止まる。
泣くなよ、と繰り返したルークの声はかすれていたけどしっかりしていた。
伏してはいるものの、こちらを見上げてくる目には確かな光が宿っている。
「なんで、俺が泣くんだよ……」
「一番泣きたいのは、きっとガイだから」
「なん、でっ、そうなるっ」
「ごめん」
ベッドの上についた手にからんでくる指は温かい。
するりと手首に回った指がゆっくり握りしめられた。
「俺は大丈夫だから」
「なにが、だよっ!」
「……うん、大丈夫だ。ガイが泣いてくれるから、大丈夫」
子供をあやすように背中を撫でられて、初めてそこで自分が泣いていることを自覚した。
いつの間にか大きくなったルークは、けれどいつまでも子供でしかない。
「ルーク、ルーク、嫌だ……いやだ」
「うん」
「行かないでくれよ、お前が死んだら、俺は」
嗚咽に言葉を詰まらせていると、静かに彼は答える。
「俺がしなきゃ、いけないんだ」
「そんなの」
「俺はみんなに、ガイに、明日を迎えてほしいんだ。それが俺の……証に、なるんだ」
そんなものなんていらないと言おうとした。
けれどそれは、ルークの気持ちを踏みにじるだろう。
そう思ったら言えなかった。
いや――この度に及んでも彼を傷つけるのが嫌なだけだったかもしれない。
「怖いけど、怖くねぇ。みんなの明日のためなら、俺は怖くねぇから」
「……俺は」
明日なんてどうでもいい。
こなくていい、なくなってもいい。
ただ、最期まで――
「ガイ……ありがと、な」
強く抱きしめられて囁かれた言葉に、思わず目をきつく強く閉じた。
夜なんて明けなければいい。
このまま夜の世界で止まればいい。
そうだ、明日など来なければ――来たとしてもルークがいなければ……
一つの衝動に駆られて拳を握る。
その気配を察したのか全くの偶然か、ルークはガイの目を覗き込みながら、唇を寄せた。
「ガイ……ずっと愛してくれて、ありがとう」
呟かれた言葉に体の力が抜けた。
そんなの、嘘だったんだと。
そんなこと自分が一番よくわかっている。
憎んで恨んで酷く傷つけて利用して、挙句に醜い感情のはけ口にして。
なのに最後の最後までお前を諦めることができなくて、いっそどこかに閉じ込めてしまえって。
大事なはずのお前の望んだ未来をぶち壊しても、自分の望みを優先させようとした。
そんなもの愛とは呼ばない、愛とは――言えない。
嘘なんだルーク、ごめん、ごめん。
きらきらと音素帯へ昇っていく欠片を見上げながら、ガイの頬に涙が伝った。
仲間たちはそれを見ないふりをしてくれたので、拭うこともせず最後の一欠けらまでも目に焼き付けようと立ち尽くす。
(……ああ、謝っても、意味がないんだ)
The liar repents for one's sin, forever.
(そして許してくれる君はもういない)
***
役目を果たしたら消えてしまう七歳児。
束の間の夢の泡のように消えてしまった人。