<可愛い俺の>



おまえが決めてくれ。

そう言われたルークは目を見開いた。
ああ、ずるい言い方だという自覚はある。
だがそうでもしなければガイの収まりがつかない。

「ルーク、俺はお前に仕えると決めてる。だからお前が否といえば従う。でも、俺は」
剣を握って、ガイは遠慮せず殺意を目に込めた。
それでルークには伝わるだろう。十分に。

彼を許すわけにはいかなかった。
あの男はルークを痛めつけ泣かせる。彼の柔らかい心に癒えない傷を刻んでいく。
「俺はヴァンが憎いんだ! 俺の手であいつを殺したいんだよ!」
血を吐きそうなガイの心の底からの叫びに、ルークはさらに動揺する。
しかし悲しげな顔で視線を伏せた。

「だめだ……だめなんだガイ」
「どうしてだ」
「俺、それでも師匠のこと、好きなんだ。ショックだけど悲しいけど悔しいけど、それでも楽しかった記憶がたくさんあるんだ」
「それはあいつの偽りの――」
「でも俺は楽しかった。きっと師匠が死んでからも思い出す」
「だから!」
「違うんだ!」

声を荒げたガイに対抗するように叫んで、ルークは一歩踏み出す。
「ガイが師匠を殺したら、俺はもしかしたら、師匠との楽しかった思い出を思い返している時に一瞬でもガイを憎むかもしれない! そんなのいやなんだ!!」
「ルーク……」
予想外の答えにガイの殺気が揺れる。
だがそこまで言われてもこの決意は変わらない。
「お前に、憎まれることがあってもいい、俺はこの手で、あいつを……!」
「いやなんだ! ガイに一瞬でもそんな感情向けたくない!」
「俺は気にしない」
「俺がする!!」

叫んだルークはあわてて顔を伏せて背ける。
左手の甲で顔をこする。
「ルーク、そんなことをすると目に汚れが……」
「俺はずっとガイが好きでいたいんだ! 真っ白な気持ちでガイを見てたいだけなんだ!」
「……は?」

叫んだルークの言葉は先ほどからなにかずれている。
ヴァンの処置云々の話ではない。
「なにを言っているんだルーク」
様子のおかしいルークにハンカチを取り出しながら近づくと、びくりと体をふるわせて距離をとられる。
最近はたびたびあったが、いよいよ露骨すぎる反応にガイは思わず眉を寄せる。
「おい、ルー……」
「なんで……なんでずっと同じでいられなかったんだよっ!」
「ヴァンのことは」
「違う! 俺だ!」
「お前はなにもかわらな――」
「ちがうちがうちがうっ!!」

大きく何度も頭を振ってから、ルークはその場に泣き崩れる。
反射で近づいてしまいまた拒まれた。
「ルーク……」
「ごめんなさい……」
「なんで謝るんだ」
「おれ……屋敷から出れなくてよかった……ずっとあそこに閉じこめられていたかった……」
「な、なにをいって」

ごめんなさい、と繰り返してルークは嗚咽を交えながらつぶやいた。
「おれ、ずっとガイの「可愛い俺のルーク」でいたかった」
それだけだったのに、ごめんなさい。
まちがえちゃって、ごめんなさい。

何度も繰り返したルークの頭をなでる事も涙を拭う事もできず、ガイはその場に立ちつくした。





***
ヴァンを殺るか否かをガイがルークともめているシーンから、意味が分からないガイポカンまで浮かんだので書いてみた。

ルークは屋敷にいた何も知らない自分がガイにとっての「可愛い俺のルーク」だと思っているので、ガイに恋愛感情を抱いている今の自分は彼に無垢な感情を向けてた当時の自分じゃない=可愛い俺のルークではもうない、みたいな。