※R表現を含みますのでご注意ください。
<資格もなく>
赤毛の子供が苦しそうな声を上げる。
だが金髪の青年はそれにかまわず彼の髪を掴んで、さらに奥へとねじりこんだ。
子供もそれに逆らうことはせず、ただ声を上げながら必死に堪える。
『うっ……ぐ、ふ、う』
『そうだ、上手だぞルーク』
『ふぎゃ、ひ』
『わかってる、ちゃんと後ろもしてやるよ』
暗い部屋の中、ねっとりした臭気が一層それを濃くしていた。
(ああ、最悪だ)
部屋の端にたたずんで、男は一人で顔をしかめる。
ベッドの上にいる二人は男には気付かず、没頭している。
気付くはずはないだろう、彼らにとって男はここにいない存在だ。
(最悪すぎて、反吐が出る――)
ベッドはあまりに大きくて視界に入れないわけにはいかず。
何よりそこで起きた多くのことを男はしっかり知っている。
『やぁ、ぅ、ガィ……』
舌足らずな声で名前を呼ぶ相手を、青年はなだめ焦らし、時に叱り、時にいじめつつ全身をまさぐっていく。
それはとても慣れた手つきで、二人の行為が初めてではないことを示している。
少年の年はせいぜい十二程度だろうか、惜しみなく与えられる快感の意味も理由も、禁忌も知らないでのぼりつめていく。
(――やめてくれ、もう、十分だ――)
少年と青年の睦みを見せつけられて男は固く両目を閉じようとしたが、それは敵わなかった。
逆らえない力が働いて、ただ眼前のそれを見せつけられる。
『ひゃ、う!』
『またイくのかルーク……堪え性のない悪い子だな』
『あ、うっ、やあっ!』
少年は赤毛を乱して高い声を上げ、それをさらに追い詰めるために青年の腰の動きは速くなる。
最後の声は口をふさいで殺し、ぐったりとなった少年から雑に体を離して青年はその眼を細めた。
伸ばされた手が意識を手放している少年の首にかけられる。
『殺してやる、いつか……お前の大事なもの全部、壊してやるからな』
誰も聞いていないと知っている青年のこぼした言葉は確かに憎悪を含んでいた。
しかし彼がまだ自覚していない、もっと醜い感情も含んでいて――
(もういい――やめてくれ!)
『ククッ、その時までは可愛がるからなお坊ちゃん』
そう言いつつ歪んだ笑みを浮かべる青年の手が少年の髪にからむのが我慢できなくて、駆け寄ってその手を払う。
「やめろ! やめるんだっ!」
『どうしてだ? それは俺の復讐の道具だ』
さも当然のように返された言葉に、男は奥歯をかみしめる。
「違う。違う違うっ、ルークは――」
くたりと横たわっている少年の頭を抱きしめようとするのに、うまく手が動かない。
抱き締め方を忘れてしまったように、力がでない。
『それは俺のルークだ。俺のものだ、俺の――』
「違うっ……ルークは、ルークはお前のものじゃない!」
『俺が育てて俺が世話をしてる。俺の言うことならなんでも信じる、「それ」は俺の道具だ』
(――ああ、なんて歪んだ……なんて、幼い)
強い人間だと思っていた。
復讐心を胸に抱きつつ、精進と努力を続け周囲を偽り本音を殺して生きる――強い人間だと思っていた。
それなのにどうだ、幼い少年一人に固執する、子供っぽい独占欲丸出しの、幼い存在でしかない。
『俺のルークだ』
冷たい色の眼で主張する青年に、男は少年を守ろうとしていた手を離す。
「きっと苦しむ。この時を思い出して、苦しむ」
『意味がわからない』
喜ぶ予定ならあるが、と返した青年はまだ知らない。
「……ごめんな。ルーク」
立ち上がる前に、もう一度だけ赤毛を撫でる。
小さく少年が呻いた気がして、慌てて手を遠ざける。
「俺は最低だけど、それでも……お前を離せないんだ」
一度喪った痛みは強すぎて、手放すことなんて考えられない。
今の男の顔は、青年のそれと同じくらい醜いのだろう。
「…………愛しているよ、俺の可愛いルーク。今度こそ、俺は――」
傷つけず、悲しませず、憎まず、恐れず。
見返りも代償も理由もなく、ただただ――ひたすらに。
「愛させてくれ、ルーク」
手放すなんて無理だったから、ただやるべきだった事をやり直すだけ。
I love you my dear...please let me love you.
(きっと資格すらないけどこの奇跡のおかげであと一度だけ)
暗い部屋の中、ルークは起きあがって目をこする。
指先に触れていた布はルークの部屋のものではなくて、この部屋の持ち主のものだ。
だから少し手触りが違うけど、日のいい匂いがする。
隣に寝ている日の光の髪をかきまわして、さらさらした手触りが楽しくて。
それでも彼の空色の目がこちらを見てくれないのは寂しくて、早く朝になればいいのにと思いながらもう一度横たわって目を閉じた。
再び眠りに落ちる前に彼の声が聞こえた気がしたけれど、子供はもう意識を手放していた。