<てりょうり>
かわいらしい声に呼ばれて、ガイは目を開ける。
元々寝起きはいいのだが、この声に呼ばれたら覚醒速度はさらに早い。
「ガイ!」
起きたガイの顔をのぞき込んで、ルークがぱあっとうれしそうに笑う。
「ルーク、どうした?」
机に突っ伏していたガイは顔に跡がついてなければいいがが、と思いつつ背の伸びてきたルークの頭をくしゃりとなでる。
「あのなっ、明日ナタリアがくるだろっ」
「ああ、そうだな」
だからさ、とルークは目を輝かせながら言った。
そんな顔をされたら断れない。断ろうと思ってもないけど。
「サンドイッチ作る! で、ガイと三人でピクニックしようぜ!」
ナタリアはもちろんルークの婚約者だった。ナタリアが本当に婚約した相手は「本物の」ルーク=フォン=ファンブレだからつまりアッシュなのだけど、ガイがそんなことを誰かに言うはずもない。
屋敷に閉じこめられているルークにとって(幸いにも以前ほど苦痛ではないようだが)外からの来訪者、しかも同い年となればうれしいのだろう。
「じゃあ明日の午前中の仕事のシフトみてくるよ」
ちょっと待っててな、と立ち上がろうとすると、ちげーよ! とルークは首を横に振った。
「俺が自分でやる!」
「え」
「自分で作る! ガイの手助け禁止な!」
自分でやってみたいんだ、と言ったルークの言葉が頭の中でぐるぐる回って、ガイは思わずこめかみを押さえた。
だってルークだ。今までガイと一緒に料理をしたことはあったが(それこそサンドイッチレベルで)どうにもぎこちない。
なんでだろうと考えた末に思い当たったのは、ルークのまだ四つでしかない精神年齢だ。
まさかとは思ったのだが、どうやら指先の器用さもそれと関係しているようだった。
体格や腕力は見かけ相応なのに、指先の動きは苦手なのだ。
怪我をしてしまうかもしれない、うまく作れなくて落ち込むかもしれない。
ナタリアはできる子だから下手なことは言わないだろうけど、ルーク自身の舌も肥えているから、まずかったら彼はすぐにわかってしまう。
いや、まずいくらいで済めばいい、サンドイッチは単純だがナイフを扱う料理だ。怪我をしたら。
ルークの指先が切れたことを考えただけでも、ガイの背筋に寒さが走る。
「…………」
ぐるぐる考えている間珍しくルークが静かで、ガイは沈黙に気付き慌てて顔を上げた。
「ルーク、どうした?」
「だめか……?」
じんわりと涙を浮かべた姿にガイは(理性が)吹っ飛びそうになりながら、ぎゅうっとルークを抱きしめる。
「かわいいルークが怪我をしないか心配なんだ。俺も手伝っちゃだめか?」
「だって、ガイに」
「ん? 俺の仕事なら心配しなくてもいいぞ」
「ガイに作ってやりたいんだ。いつもガイは俺に作ってくれるのに。でもガイに手伝ってもらったらなんか違うだろ、だから」
怪我は気をつけるから、と言われてガイはルークの赤い髪に顔を押しつけながらうっかり泣きそうになった。
たまらなく嬉しくて、幸せで。
「俺に、作ってくれるのか」
「うん」
するり、とまだ少年の細さを残すルークの腕がガイの背中に回される。
「うまくできたら、食べてくれよな」
「当たり前だろ」
うまくてできていなくったって、俺にとってはきっとなによりも。
「美味いに決まってる」
You give me delight everyday,everymoment.
(そう思ってもらっただけで喜びに体が震えて死にそうだ)
***
ガイがナタリアのおまけなのかナタリアがガイのおまけなのか。
(正解:ナタリアが口実)