<Ran into my dear >


目覚めた瞬間、ガイラルディア=ガラン=ガルディオスはすとんと納得できた。
(ああ、ここが天国か)
正直自分が天国に行けるような善行をしたつもりはないが、一応かろうじて「世界を救った」一同ではあったのだから神様かなにかからのサービスだろう。
日頃は胸の内で罵って呪っていた神へ簡潔に感謝の言葉を呟いてから、ベッドから下りた。

ここは、マルクト伯爵の部屋などではない。
ガイラルディアにとって、どこより肌になじんだ部屋だ。
ここでたくさん泣いた、苦しんだ。

下された自分の足が記憶にあるのと長さも大きさも重さも違っていて、思わず左右を見回す。
部屋に置かれている音機関は、記憶とはどうにも合致しない。
「これは……」
部屋の隅にあった鏡に顔を写すと、それは間違いなく自分であった。
けれどもその顔立ちは――どう見積もっても、せいぜい十五だ。

それなら。
それならここには。
ここには――まさか。
(まさか……そんな、いや、落ち着けガイラルディア)
一つ深呼吸をして、足を前に踏み出す。
自分の願望が強すぎるその考えが正しくなくとも、絶望しないように。
いや、ここは天国でいい、ないはずの世界で十分だと、そう言い聞かせて。


「おはよう」
部屋を出てすぐ外にいたメイドに声をかけると、笑顔で「おはようございます」と返ってくる。
軽く手を振り返して、真っ直ぐに、一直線に「そこ」へと向かう。
しばらくしていなかった計算をして、この時間帯なら自分の出番だと判断する。
案の定、部屋の前では困ったように立ち尽くすメイドの姿があった。

「おはよう」
「あっ、ガイ……あの……、ルーク様は……」

胸を貫いたのはどちらの名前だろうか。

「俺が起こすよ」
扉を叩く。優しく二回。
「ルーク様、朝ですよ」
返事が返ってこないので、問答無用で扉を開ける。
これはメイドには与えられていない特権だ。

部屋は散らかっていた。
台風が通り過ぎた後のような徹底的な散らかりようだ。
そして床の中央に、シーツにくるまって、焔が咲いていた。


「…………」


溢れる言葉が一斉に喉元までせり出して、ガイラルディアは口を押さえる。
押さえたが間に合わなくて、ぽたりぽたりと水滴がシーツに零れた。

シーツにくるまっているのは確かに焔ではあるけれど、それは最期に目に焼き付けた青年ではなくて、まだ腕も足も白くて細い少年だ。
そのうち長く伸びるであろう髪は今は短く、たくましく育つ身体は頼りない。

その小さな身体に手を伸ばして、ゆすった。

「……ルーク、おはよう」
少年はむずがるように声をあげてから、その緑の目を開く。
「ルーク、おはよう」
繰り返すときょとんと見上げたので、その跳ねた髪を柔らかく梳く。
「俺は、ガイだよ」
「……うー、やいっ」
聞こえた外見にそぐわぬ舌っ足らずの声は記憶にあるのと同じで、眩暈がした。



本当にここは、天国らしい。










Thanks god. Again I'm here, by his side.
(俺の焔、俺の幼子、もう一度お前に触れられるここは天国でなくてどこだという)





***
以下逆行についての設定。

ガイ(スタート時 外見14歳、精神年齢24歳→外見21歳)
 二度目のチャンスに、すべてを賭けている。
 七年の間に剣の腕をさらに磨き、譜術も学び、ルークへ勉強も教え剣も教えたスーパー使用人。
 ルークを愛しルークのためにのみ動くルーク専用護衛兼教育係兼兄貴分兼親友兼何か。
 ルークを思うが故なので、原作のガイよりルークに厳しめな面もありますが、基本だだ甘。
 あと女性恐怖症は克服されてただのたらし。

ルーク(スタート時 外見10歳 精神年齢0歳→外見17歳、精神年齢7歳)
 元のルークのレプリカ。
 ガイの愛情と躾を受けまくって育ったため、原作ルークよりかなり素直で他人にやさしい。
 かなり物知らずではあるが、懸命に学んで吸収しようという姿勢はある。
 剣は原作ルークよりやや強く(ガイの訓練のたまもの)、知識はかなり多い。
 簡単な料理すら作れるスーパー7歳児。
 ガイの教育を(しか)受けているので、一般常識を激しく逸脱するスキンシップもある。
 そして育て親と同じくフェミニストなので天然たらし。