それから数日後、ミンスが行きたいと言い出したので、キッシュとスティラとミンスとアシュレの四人であの村へ行く事にした。メレは日光に弱いので今回は留守番だ。
すでに失われたはずの村になぜ行く気になったのかと言えば、開いた地図に、ないはずのそこに村の印があったからだ。
キッシュ達が過去に飛ぶ前には確かになかったその印を確かめに向かった先には。
「……あった……!!」
消えたはずの村が、キッシュ達の記憶の中のままそこにあった。
「どういうこと?」
「……未来が変わったとか」
「未来が変わった?」
「ほら、俺達があの兵士ぶっ倒しただろ」
「あれか!」
もしもあの村が、あの夜の襲撃で滅ぶ予定だったとしたら、キッシュ達の行動のおかげで村は滅びずに済んだ事になる。
「……だとしたら」
恐る恐る足を踏み出す。
キッシュ達の中ではほんの数日前に通った道だ。その家の場所も覚えている。
少し記憶の中より古ぼけた家のドアを叩いてしばらく待っていると、明るい声が返ってきた。
「はぁい、どなた?」
顔を出したのは、空色の瞳をした若い女性だった。
彼女はキッシュを見て一瞬固まり、ゆっくりと一人一人の顔を見つめ、最後の一人でぴたりと止まった。
「…………」
「……ミンス、おねえちゃん?」
「……ラミ?」
ミンスが名前を呼ぶと、二十歳を越したラミの顔が一気に紅潮する。
「ミンスおねえちゃんだ!! お父さん! お父さんちょっと!!」
慌ててラミが家の奥へ駆け込む。
奥の部屋から出てきたのは、あの頃よりだいぶ老けたが、その面影ですぐに分かった。
「どうしたラミ……!?」
「どうも」
「……キッシュ、か?」
ぽかん、と口を開けて尋ねてきたエズメに、キッシュ達はさぁどこから説明したものかと苦笑いを浮かべた。
ラミに出してもらった茶を飲みながら説明し終えたキッシュ達を、エズメとラミは呆けたような顔で見ている。
この間見た時はラミはエズメの膝の上でミルクを飲んでたのになぁ、時が経つのは早いなぁ、と思っていると、エズメがようやく口を開いた。
「……なるほどな。あの頃と容姿が全然変わってないのはそういうことか」
「信じてくれるのか?」
「まぁ、信じるもなにも、他人の空似にしてはあまりにも似すぎだからなぁ。それに、エルベ王国の名前を出した時に妙に驚いていたことも納得できる」
二十年前の出来事の割によく覚えているなと感心するが、こんな辺鄙な村で起こる大事件など早々なく、その分鮮明に覚えているのだという。
「けど、何も変わってないみたいでよかったよ」
「いやあ……実はあの後すぐ、一度大火事にあってな。死人も結構出たが、まぁ、それでもなんとかやってこれたさ」
「そうか」
「ミンスおねえちゃん達は今なにしてるの?」
「あたし達はねー……何だろ?」
「ええとだな……ここから南に下りたところに砦があるんだけど、そこでギルドってわけでもないんだけど、キャンプみたいな感じでまとまって暮らしてる集団?」
改めて聞かれると簡潔に答える言葉が見つからなくて、つい疑問系になってしまうが、ラミとエズメは心当たりがあったようだ。
「ああ、話は聞いたことがある。あれがお前らなのか」
道理で荒事に慣れているはずだと
「……それであんなに強かったのか……」
「ミンスは生まれつきですが」
「なんであたしだけ別枠扱いするのよ」
「私もそこ行きたい!」
「ラミ!?」
いきなり手を挙げて言い出した娘を、エズメがぎょっとした目で見る。
「お父さん、私がミンスおねえちゃんみたいに強くなりたいって言って武術始めたの知ってるでしょ?」
「いや……知ってるが……」
「ミンスおねえちゃん達に会えたんだもん、一緒にいたいー!」
「……キッシュ」
「いや……俺達は別に構わないが」
そこは親子で話し合ってもらえばいいと思う。
「どうせならエズメもうちにこれば?」
「あ、それいい! ね、お父さん、そうしよ?」
アシュレの一言にラミが目を更に輝かせる。
この分だとエズメが折れるのは時間の問題だよなと考えカップを傾けつつ、ふとキッシュは思った。
……もしかしてしなくとも、ラミは今現在、自分達より年上じゃなかろうか。
***
ちょっとした時を駆ける少女風味なお話でした。
ラミはキッシュ達より年上になってしまったけど、呼び方はおにいちゃんおねえちゃんのままです。
|