ハルヴァの能力は天候読みである。
近くの天気しか予測できない上に、予測できたとしてもそれを回避できるわけでもないので、本人としてはあまり気に入っていないらしい。
こんなものよりも一時的にでも他者の能力を増幅できたり、傷を癒したり、モンスターを手なずけられたりといった、戦いに役立つ能力であればよかったとよく零している。
周りにいるのが力の強いザハや、カリスマのあるフォリアだから、自分を卑下したくなる気持ちも分からないではない。

――が、ハルヴァにとっては些細な能力であっても、人によってはものすごく大事な能力だったりする。





「ハルヴァちゃん、明日はこのへんは晴れるかねぇ?」
「えーと……朝は曇りですね。午後からはよく晴れますよ。明後日は午前中から小雨が降りますけど」
「ハルヴァ、次のモンスター討伐遠征って五日後って話だったよねぇ。その次の日からの天気ってどうなんだい?」
「え、次の日ですか? あのあたりは当分晴れが続きますよ」
「いや、ここの話さね」
「ここは……晴れですね。少し雲がかかりますけど」
「ねぇねぇハルヴァお兄ちゃん! 来週皆でジラまで遊びに行くの! 晴れる? 晴れる?」
「う〜ん……その日はちょっと天気がよくないかなぁ」
「そっかぁ……じゃあ長靴履いて行こうっと!」



「……人気者だなぁ、おい」
俺より人気あるんじゃね、と窓枠に肘をついて呟くキッシュに、年配の奥様方に囲まれるハルヴァを隣で見下ろしていたザハが小さく声を立てて笑う。
「あいつは昔っから女性に人気があるからなぁ」
「人妻ばっかだけどな」
「人妻は男のロマンだぜ?」
皮肉を込めて言ったキッシュに返したザハの言葉が本気なのか冗談なのか知りたくなくて、キッシュは意識的に意識をずらした。
……個人の趣向にケチはつけまい。

キッシュとザハの眼下では、ハルヴァが女性の皆様に囲まれて困っている。
女性の声はよく通るから、三階のここまでも漏れ聞こえてくる。
「モンスター退治に出ると皆泥んこになって帰ってくるからねぇ、次の日がお天気なら心置きなく洗濯できるってもんだよ」
なるほどハルヴァの能力は、奥様方の洗濯事情にとっては非常に有効な能力らしい。 にしても。
「女性の皆様方は次の日の洗濯の心配かぁ……」
「そりゃ毎日汚してるからなぁ」
俺達が泥だらけになってもこうして次の日にはちゃんとした服を着られているのは洗濯してくれている人がいるからだ。
そう言われれば、納得するしかなかった。
……今度カロナ母さんの肩でも揉もう。

上から二人に見られているのに気付いていないらしいハルヴァは、相変わらず困ったようにしながらも、ひとつひとつの問いかけにきちんと答えている。
普段キッシュ達と話す時はもっとつっけんどんな話し方をしているというのに、今のハルヴァは困ったようにしながらもその表情は柔らかい。
目つきこそ悪いが ハルヴァの顔立ちはもともと幼めだし、ああやって困ったような顔をしながらも丁寧に応対するところが余計に奥様方の母性(?)をくすぐるのか。
つーかその謙虚さの半分でも普段俺らの前で見せてみろや。

「前に、まだフォリアのところにいた頃なんだが」
「うん?」
「ハルヴァの奴、自分の能力があまり気に入ってないみたいでな、たまに零してた。能力のない俺の前ではあまり言わないようにはしてたみたいだが」
「なんでだ? 女性にモテモテだろが」
人妻と幼女にだが。

「自分はひょろいから力もないし、取り立てて長所もなくて、天気予報しかできないのが情けないとさ」
「そうでもないけどなぁ」
「男ばかりの大所帯だと、そのへんのモンスター退治するだけなのに、天気をどうこうする必要もなかったからな」
それにすでにキナンではハルヴァの能力は当たり前として受け止められてしまって、いちいちお礼を言う人もいなかったのだという。
それは悪いことではないが、やはり言われると嬉しいものなのだろう。

「この間、子供達と一緒にてるてる坊主作ってるのを見てな。楽しそうでよかったよ」
そう言ってハルヴァを見るザハの目つきは、弟を思いやる兄みたいだった。





***
ハルヴァは奥様方に大人気。
農業にはすごい便利な能力だと思うけど、十年以上毎日聞いてると慣れちゃうよねっていうお話。