「なぁー本気で考えてくれねぇの?」
「もう一発殴られたいらしいな」
そう言うが早いか、キッシュはアシュレの鳩尾へと流れるように肘を入れる。
反射で体を引かれたが、それなりに手ごたえはあった。
アシュレは低く呻いてキッシュから距離を取る。

「ひっでぇ、なあ。オレ真剣だぜー?」
「そうか。真剣に断る」
腹を押さえて直も言い募るアシュレを歩きながらぶった切る。
自分より体格のいい男に言い寄られても嬉しくない。
女の子なら歓迎だが。女の子なら。

謎の通路を通って出てきたアシュレは半島の出身者だ。
戦闘力については自己申告もまだ聞いていないが、歩く姿や先程の反応速度を見るにそこそこ戦えるらしいことはうかがえる。
全然戦えなかったなら、のして捨てられるというのに。

「なーなー、どこ行くんだ?」
「とりあえずここを一周説明をするつもりだが」
「聞いても覚えないからいいんじゃね?」
「やる前から努力放棄かよ……」
「あ。俺とデートした「黙れ」」
「ちぇー」
罪悪感をまったく見せない横顔で言いながら、アシュレはふと視線を固定させた。
何を見つけたのか……と思って視線を追うと廊下の端に女性が一人。
出身を考えるとありえないと思うが、まさかの知り合いなのかと思っていると、アシュレは足早に彼女へと歩みより。
「君可愛いなあ。なあなあ、今夜暇?」
「………………」
声をかけられた女性は突然のことに驚きながらも、嬉しそうに何やら返している。
背は高いし体格はいいし顔も男前だし声もいいし、中味さえ除けばいい男なのだ。

そう。中味さえ。


「……これは……まずい……」

アシュレと話す女性の中で芽生える感情が見えてしまって、キッシュは皺が刻まれた眉間を押さえた。
バイでチャラくて手が早いモテ男ってどう対処すればいいんだ。誰か教えてくれ。

……まさか、半島の連中が皆こうなわけじゃねぇだろうな。
恐ろしい想像に我ながらぞっとして、キッシュは自身の腕を擦った。










あの光景を見てしまった翌日。
可及的速やかに対処しなければならない案件を前に、キッシュは真面目な顔を作った。

「――アシュレ、お前の好みってどんな奴だ」
「え。それを知りたいとかキッシュとうとう俺と」
「遠征の際にてめぇと組ませる犠牲者を出すに当たっての下調べだ」
近づこうとするアシュレを蹴りどかしてキッシュは足を組む。

「本気だねぇ、キッシュも」
「キッシュは貞操かかってるしな」
他人事のように暢気に茶を啜っているリオとスティラを睨んで、キッシュはアシュレを蹴る際に避難させていたお茶を飲んで気分を落ち着かせた。

「で、お前どんなのが好みなの」
「キッシュは好きだぜ?」
「こいつらはどうなんだ」
アシュレの言葉を無視して顎でリオとスティラを示してみせると、二人はあからさまに嫌な顔をした。
お前らも尻を狙われる身になってみろと巻き込む気満々のキッシュだったが(そのために連れてきた)、アシュレは二人をじっと眺めた後首を横に振る。
「リオはまぁ。結構好み。スティラはタイプじゃねーなー」
「うぇ」
「よっし!」
顔を顰めるリオとガッツポーズをするスティラという、通常タイプだと言われて正規と正反対の反応をにアシュレは変わらず軽口を続ける。
「というわけでさーリオでもいいんだけど」
「股間に熱湯ぶっかけるよ?」
にっこりと満面の笑みで言えるリオは果たして本当に自分達と同じ男なのだろうか。

アシュレも含め静かになった三人に、冗談だよとリオは笑ってポットに手をかけていた手を外す。
両手で大事なところを守るように覆ってアシュレが視線を逸らした。

「……俺、やっぱリオもいーや」
「そうしとけ」
少しテンションの落ちた声で言うアシュレに神妙に頷いてから、納得のいかない点について問う。
アシュレはガタイのいい男じゃないと嫌だ、というタイプではなさそうなのに。
「なんでスティラが外れるんだ? 顔はいいだろこいつ」
「なんで俺プッシュ!?」
自分が狙われてるからって!と噛み付くスティラを視界から外してスルーする。

アシュレは首を捻って考えこんでから、じ、とスティラを見つめた。
わめいていたスティラは視線を向けられて口を噤む。
数秒おかしな沈黙が続いてから、アシュレは反対側に首を捻って更に考えるようにしてから口を開いた。

「首輪ついてそう?」
「……は?」
「お前、首輪なんてつけてたか」
「ついてないよねどう見ても」
言われてスティラは自分の襟元を広げてみせるが、当然というか首輪はおろかチョーカーの類も見当たらない。
とはいえアシュレも他に表現が思いつかないようで、これについてはよくわからないがタイプじゃないに尽きるなら仕方がないと諦めた。

そして当初の目的を忘れかけていた。
これはアシュレへ捧げる生贄を決めるための下調べだったんだった。
「じゃあ年齢とかは? 年下とか年上とか」
「そのへんは気にしねー。遊んでくれる子ならオッケーだぜ!」
貞操観念ゼロな宣言を堂々と言い放つアシュレのいったいどこがいいのだろうと彼に熱を向けている女性達に聞いてみたい。

「上限どのへん」
「あ。あのあたりとかどーなん。誰が一番好み?」
自分が安全圏だと発覚して気楽になったのか、スティラは気楽な声音で通りの方を連れ立って歩いている北大陸の一団を示した。

「あの髪の青い奴。耳当てつけてる」
「即答かよ」
「顔だけならチェイスとリーヤのが上なのに」
そもそもヒーアスは結婚していてシャルロという立派な子供もいるのだが、アシュレはまだ知らないし、話のネタにするだけなら害はない。たぶん。許せヒーアス。
そして人の恋愛の話で盛り上がる女性の気持ちを理解した。これは楽しい。

誰が誰、というのを説明すると、ふむ、とアシュレは顎に手を当てる。
「チェイスも好みだけど、一番って言われたらヒーアスかなーやっぱ」
「ねぇ、リーヤが外れるのって、スティラと同じ理由?」
さっきからずっと考え込んでいたリオの唐突な質問に、アシュレはリーヤをしばらく眺めてから頷いた。

「けど、リーヤのがもっと手ぇ出しにくい」
「なるほどね」
なんだか勝手に納得しているリオにキッシュとスティラは疑問の目を向ける。
「僕も感覚で理解しただけだから説明は無理だよ」
無言の訴えは一蹴された。

ヒーアスだったよなー話かけてこよっかなーとアシュレが席を立つと、キッシュ達は茶請けにしていた星果実を口に詰め込みカップの中身をさっさと飲み干した。
席を立つと同時に通りとは反対側へとダッシュする。


「キッシュこらてめぇ手綱つけとけー!!」
数秒後、悲鳴に近い怒号と複数の爆笑が響いたが、キッシュ達には届かなかった。事にした。





***
アシュレさんの爛れた生活をどこまで披露するか迷った
セフレ(全員女性)はだいたい3〜4人ぐらいですが、合間に適当に他の子(男子などなど)も喰っちゃってる感じ。
風紀委員を早々に仲間にせねば……。




(オマケ)
「つーわけで今度のモンスター退治のパーティは、アシュレと組むのはスティラとアレストもしくはリーヤな」
「なんで!?」
「前衛2人に後衛1人とかバランスいいだろ。それにお前らなら安全だと判明した。」
「…………」