ミズレの人達を呼び寄せて当面の生活の保障はできたものの、フォリア達の好意にいつまでも甘えているわけにはいかない。 まずはこのボロ屋の整備と食料確保のための畑作り、治安安定のためと資金作りを兼ねてのモンスターの退治とイベントが目白押しだ。

……というわけで、もの凄く人手が足りない。
畑の指南役としてクグロを連れてきたり、ジラから面白半分にやってきたノエルやコットに手伝ってもらっても、圧倒的に人手が足りない。主に男手が。
ミズレの人達がそもそも女子供と老人ばかりだから、それも仕方がないのだけれど。
いくらアレストが力三人分といえどもそれだけで埋められるものではないし。

そこに先日、非常に有能な人員がやってきた。
彼が叩き出した交易による利益と、彼の指導の下に行ったモンスター討伐遠征の成果にキッシュはいたく感銘をうけた。
そして思った。こいつは使えると。





「というわけで、このままもうちょい滞在しようぜ」
「無理」
夕食が一緒になった席でのキッシュの勧誘は即答で断られた。
むすっとするキッシュに溜息を吐いて、リーヤは自分の食事を続けながら言う。
「俺はここには用があってきてんの。知ってんだろ?」
「人探しだろ、それは聞いてる。けどそんな切羽詰ってるようにはみえねーし」
「……結構な死活問題なんだけど」
本当はこういうことに足突っ込むのもまずいんだよ、と溜息混じりに言っているリーヤ の「こういうこと」が何なのかはよく分からないが、リーヤがあまり深入りしないようにしているのは察せられた。

リーヤは西大陸でどうやら人を探しているようで、ここを拠点にしてちょくちょく姿を消している。
部屋は余っているから使えばいいのにと言っても頑なに宿を使うのは、一線を引かれているようにしか思えない。

「外部者をあんまり頼るのはどうなのか……って悩んでたお前はどこいった」
「アレストとヒーアスを使う旨みを覚えたからな」
「……余計なアドバイスするんじゃなかった」
まぁあの二人はすぐに北大陸に戻る予定もなかったようで、なんだかんだで嬉しそうに動いてくれるからというのもある。
シャルロがちょくちょくカヤシに行ってティローについて勉強しているのも、滞在してくれている理由のひとつかもしれない。

「人探しなら俺達も手伝うのに」
最後の喰らいつきとばかりに頬杖をついて言えば、呆れた視線を向けられた。
「あのなぁ、こんな中年口説いてねーで、もっとイキのいい奴仲間にしろって」
「まだ四十前だろ。ていうかまだまだ働きざかりだっての。こちとら人手不足で干上がりかけてんだ。働き盛りの男手が喉から手が出るほどほしい」
「……まぁ、それは知ってるけど」
半分ほどに減ったグラスに水を注ぎながら、リーヤはけど、と続けた。
「俺、そいつ見つけたら北大陸帰るし」
「……なのか」
「当たり前だろー。俺、人探すためにこっちきてんだもん。用事終わったら戻るって」
「……終わったら手伝うっていう選択肢は」
「……今のところはない」
今のところは、をなぜかつけたすリーヤに、ふとキッシュは最初に話した時に言われたことを思い出す。

「それって、あの石版に関係あんの?」
「見に行ったのか」
「何度か。なんか変な女が夢枕立った時は幽霊まで出るのかこの砦とか思ったけど」
ガン、と皿とフォークが勢いよくぶつかった音がした。
「……リーヤ?」
「ちょっと手が滑った」
やけに平坦に返したリーヤは、残り少なくなっていた料理をかきこんで、ごちそうさんと席を立とうとする。
「なぁ、関係あんの?」
「……今はノーコメント」
嘘を吐くでも正直に言うでもなく、保留を選んだリーヤの真意が測れずに、しかしその口ぶりは何かを知っているようだ。
もう少し切り込んでみるべきだろうかと考えているうちに、別の誰かが席にやってきた。

「お、キッシュとリーヤじゃねぇか」
「アレスト」
やってきたアレストが、二人の座っている席の空席に腰を下ろす。
素早くやってきたノエルがリーヤの空にした皿をさげ、アレストの前になみなみと水の入ったコップを置く。
「何話してたんだ?」
「口説かれてた」
「お前は本当に男にもてるなぁ」
「そういう誤解を招く言い方は止めてくんねー?」
「ああ、もてそうな感じはするな」
「待てコラ」
キッシュの頭を軽く小突いて立ち去るリーヤを見送って、頬杖をついたキッシュは溜息を吐いた。
ちっ、有耶無耶にされた。

溜息の意味を勧誘失敗に取ったようで、アレストが気を落とすなよと笑う。
「なかなか手強いだろ」
「まぁ、なぁ」
「あいつも色々忙しいしな。ま、そのうち仲間になるかもしれねぇぞ」
けらけらと笑うアレストも、何か知っているようだったが。
さすがにそこまで聞くのも読むのもルール違反だろうとキッシュも「お先」と席を立つ事にした。





***
リーヤを序盤から仲間にしたいけどできないみたいな食客状態。