最も大きな円環状の建物が一番なんとかなりそうだったため、建物はそこを重点的に修繕していく事に決めて、同時に敷地内の瓦礫の撤去と畑作りを開始した。
一掃して以来
モンスターが入り込んでこないのはありがたいが、このジャングル一歩手前の敷地を畑へと昇華するのを考えるとなかなかに泣けてくる。
様子を見に顔を出したクグロは、見た瞬間に「やったろうじゃないかぁぁぁぁぁ!!」と楽しげに鍬を振るいはじめたが。
今年何歳だあの親父は。
とりあえずミズレから移った人や、リロやジラから手伝いに来てくれた人、ザハ達のように自警団から助っ人としてきた人達を適材適所と思うところに人員を割り振って、適当に動いてもらう事にした。
数日経ち、時々小さな問題が勃発すると呼ばれるが、今のところ概ねうまく進んでいるようだ。
「あー……人に指示するのめんどい」
「はいはい頑張れリーダー」
耕作チームの一員として瓦礫の撤去をしながらぼやいたキッシュに対してぞんざいにスティラが相槌を打つ。
茶化し百%なのがいらっとするが、なし崩しにそんな立ち位置になってしまったのは本当なので、いまいち反論しにくい。
八つ当たり気味に大きめの瓦礫をハンマーで砕いて蹴散らしていると、本拠地の修繕を担当しているノエルがひょこひょことやってきた。
「キッシュー、ロクムさんがなんか面白いものが見つかったから見にこいってー」
「……面白いもの?」
「なんか隠し通路的な?」
「よしわかった」
ナイスタイミング、とハンマーを放り出して向かったのは、ロクムが中心となって超特急で補修作業が行われている場所だ。
環状になっている建物の、入口から丁度反対側、つまり一番奥側の端。最初に入った時は瓦礫の山があって入れなかった部分だ。
中腰になって地面を見ていたロクムがキッシュ達に気付いて手招きする。
「じいちゃん、そんな体勢で腰大丈夫なのかよ」
「減らず口叩いてんじゃねぇよ。見てみろ、隠し階段だ」
床石を何枚かめくったのだろう、むき出しになった地面に、人が一人入れるくらいの小さな地下への入口があった。
床石もずれたり欠けたりとひどい有様だったので、全て外そうと引っぺがしていたらこれが出てきたらしい。
少し覗き込んだところで、底のようなものは見当たらない。
「結構深そうだな」
「よしわかった行くぞ」
「……言うと思った」
「未知なるものがあったら行くのが男だろ」
「キッシュ、瓦礫撤去に飽きてたな」
断言したキッシュにスティラが呆れた視線を投げたが、反対しないあたり自分だって飽きていたんだろう。
謎の穴の探検をしたい人ーと立候補者を募ったら、案の定フィンとビスコが真っ先に飛びついてきた。
これは保護者が必要だ……と捕まえられたのがジェラで、後は同じく立候補してきたハルヴァを連れて隠し通路の探検に挑む。
本当はアレストやヒーアス、ザハあたりがいると心強いのだが、入口が狭いためにアレストやザハは体格で引っかかり、ヒーアスはシャルロが今回は留守番になったからという事で辞退された。
今のこの状況を思うと、ヒーアスも辞退して正解だったかもしれない。
「狭いー暗いー!」
「腰が痛い……」
きゃんきゃん言うフィンと正反対の声音でぼやくハルヴァは、キッシュ達同様階段に入ってからずっと中腰姿勢を強いられている。
階段は狭くて、まだ子供なフィンやビスコは少し頭をさげるくらいでいいが、他は中途半端な体勢を取らなければならない。
これならいっそ四つんばいの方が楽じゃないのか。
「ジェラはよく平気だな」
「平気じゃないよしんどいよー? けど、まぁこういうのそれなりに経験してるしねー」
からからと笑うジェラの態度にさすがだと思う。
考えてみたらこのメンバーの中で探索慣れしているのはジェラだけな気がする。
キッシュも平野の遺跡はそこそこ探検したが、上層部だけで地下の方は手付かずだ。いつか行ってみようと思う。
「チビ達はいいよな……普通に歩けるんだから」
「ふーん」
「でっ!? おいこらフィン! 尻を蹴るな!!」
「フィン、スティラを蹴るのはいいが、前にいる俺が危ないのでやめろ」
「はーい」
「止め方が酷い!」
「……お前ら、いつもこんななのか……」
ぎゃいぎゃい言いつつ進むキッシュ達にハルヴァが溜息を零した。
キッシュ達にしてみればいつものノリなのでまったく気にしていなかったが。
そういえば割と最近アレストにも言われたな。
「煩かったか?」
「いや、そのノリで日常送ってて疲れねぇのかなと」
「毎日こうだと慣れる」
「……そうか」
げんなりとした様子で眼鏡の位置を直すハルヴァの目つきの悪さにも、数日ですでに慣れてきている。
人間とは常に適応して生きていくものだ。屋内での野宿には慣れたくないけれど。
そんな事を言っている内に、無事に狭い階段は終了した。
途中で行き止まりになっていたら後ずさりで戻らないといけなかったから助かった。
久しぶりに伸ばせる背筋を目一杯伸ばす。
「キッシュ兄、親父みたいなことしてる」
「一緒にすんな」
ビスコに軽くチョップをかまして視線を投げると、両脇を高い石塀で区切られた細い道が出ているのを見つけた。
階段を抜けたところだけやや広めの空間になっていて、そこから一本だけ用意されている道は、両手を広げて丁度壁に指先が触れる程度の幅だ。
「……建物の下にこんなものが」
「ていうか、、このへん明るくね?」
「あれのせいじゃない?」
帽子についた土埃を取り払って被り直したフィンが指した先には、煌々と輝く握りこぶし大の球体があった。石塀の上や壁にいくつも取り付けられているそれらのおかげで、このあたり全体が明るいようだ。
「なんだぁ、あれ」
「んー、こういう遺跡には結構よくあるよ。遺跡から持ち出すと光らなくなっちゃうんだけどね」
「範囲限定の効果か……そんな紋章石があるのか」
ハルヴァが近いもののひとつを見ながら呟く。
キッシュも近くにあったそれにためしに触れてみたが、熱くも冷たくもなかった。
「村の近くにあるあの遺跡となんか似た感じがするな」
「あそこもけっこう不思議なもんがいっぱいあったしな」
「で、進む?」
「もちろん」
やや狭くはなるが、と二人で列を作って進む事にした。
体格の問題から先頭にジェラとスティラ、中にハルヴァとビスコ、後列にキッシュとフィンが続いたのだが。
「おお、もさもさレッドだ!」
「イエローもいるねー」
「なんで! 本拠地の地下の! 迷路に! モンスターがいるんだよ!!」
叫びながらスティラが放った一撃が、雷をまとってもさもさブルーを直撃する。
ハルヴァがもさもさグリーンをぶん殴り、そこにフィンのピコハンがとどめを刺した。
迷路を進みだしてから、出るは出るはのモンスター。
地上に全然いないと思ったらこんなところに。というかどこから入ったお前達。
「まぁ、遺跡ってそういうものだしー?」
「そうなのか?」
「割合とねー」
考えてみたら、リロの近くの遺跡に初めて入った時はモンスターがいた。
たまたまだと思っていたら、共通事項らしい。
今後もこの手のものに入る時は心しておこうと誓いながら進んでいく。
幸いというか、出てくるモンスターはそれほど強くなかったので、このメンバーでもなんとかなった。
途中から道が迷路状になってきたが、ここはジェラの能力で切り抜ける。
行きだけに限定されるので帰り用にちゃんと目印はつけていかなければならないが、ジェラのおかげで道に迷ったりすることはない。
うねるような道を進み、下へと続く階段を発見できた。
今度は頭を低くしなくても普通に通れる高さだったので、一列になって下りていく。
すると今度はだだっぴろい空間に出た。
……あの建物の下にこんな空間があるとか以下略。
「すげー!」
「つるっつるね」
興奮気味な子供sはほっといてキッシュは部屋の向こうの方にぽつんと見えるに顔を向けた。
たぶんあれが次に進むための出口だろう。
「次はあそこだよな」
「普通に突き進むだけでよさそうかなー?」
「簡単じゃん。なんだこれ、模様?」
真っ白な壁とは違い、床にはところどころに赤っぽい色で模様がある。向きは違うが模様自体はすべて同じようだ。
ひょい、と気軽にスティラが近くにあった床の模様が踏んだ途端、体が横にスライドした。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
みるみる声とともに遠ざかっていくスティラに、フィンが手を叩く。
「スティラはやーい。おもしろそーう」
「とか言ってる場合か!?」
「いや、まぁ大丈夫じゃねぇかなと……お、止まった」
横だの縦だの散々振り回されてから、適当なところでスティラの動きが止まった。
床に四つんばいになっているが、頭上で手がひらひらと振られているので特に問題はなさそうだ。
そもそもスティラの能力は命に関わる危険を検知・自動回避するものなので、うかうか引っかかっている時点で命に関わるような罠ではないという事だろう。
……あの速度で縦横移動するのは御免こうむるが。
そこで、スティラが移動した床を見ていたハルヴァが何かに気付いたらしい。
「あいつが方向転換したところと、床の模様が一致してるな……」
「ふむ」
少し考えて、キッシュはポケットからおやつの飴を取り出して、スティラが踏んだものとは別の模様の上に置いてみた。
飴はすごい勢いで床をすべり、そして見えるか見えないかの位置で止まる。
「ほー」
「どうなってんだ?」
「この床の模様を踏むと、自動で移動させられるんだな」
「ああ、途中の模様は方向転換なのか」
「この速度で移動してると、途中で降りるのは難しそうねー」
「……つーか、その先にまた模様があったら目も当てられないよな」
しかし飴みたいなものでも反応してくれるようだから、適当な持ちもので進路を見極めれば簡単にクリアできそうだ。
ただ。
「……あれ、どうするかなぁ」
「置いてくか?」
さらりと言ったハルヴァは冗談のつもりだったのか、はたまたスティラの扱いを心得てきたのか。
その進言に心惹かれた事は否定しない。
聞こえていなかったらしいスティラは暢気にしていたが、合流するためにあちこち流されるのは非常に面倒だった。
何回か本当に置いていってしまおうかと考えるくらいには。
途中で出口に辿り着いてしまったので本当にどうしようかと悩んだ。
「次は置いていく」
「スミマセンデシタ」
合流した時のキッシュの目を見たからか、一度出口に辿り着いた時に円陣を組んでなにやら話しているのを見たからか、スティラは素直に謝ってきた。
今度の階段は途中までは白い石でできていたが、途中から木の根に変わって随分と歩きにくくなる。
ところどころ白い石が隙間から見えるので、どうやら元々は石の階段だったのが木に侵食されたらしい。
本拠地の様相を考えると納得だが、この場合むしろ無事だったさっきの階を不思議に思うべきか。
……恐るべし植物の力。
ところこどころつっかかりそうになりながらも下りた先は、また迷路だった。
しかし先ほどのような整然としたものではなく、木の根が入り組み侵食したせいでぱっと見どこが道かも分からなくなっている。
「……キッシュ、ここらでそろそろ引き返すとか」
「おおー! なんかよくわからんけどかっけー!」
「はやくー!」
「やっぱ遺跡は滾るねー!」
「……あいつらを止められると思うかスティラ」
「思いません」
目をきらっきらさせている子供の突進力は今まで身をもって知っている。
しかもジェラも、トレジャーハンター……というよりは単純に遺跡攻略を楽しんでいるだけだが目が輝いている。
「ハルヴァは戻ろうとか言いそうなのにな」
「あれを見て止められる気がしない」
首を振るハルヴァは少し疲れが溜まっているようだ。
「結構しんどそうだな。戦闘疲れか。スティラより体力ないとか、かなりだぞ」
「そういうわけじゃ……」
「ちらっとこっち見て言わないでほしいんだけどね」
「……ちょっと、ああいうテンションに慣れてないだけだ」
キナンは全体的に大人しい子供が多いから、と付け足すハルヴァに、キッシュとスティラは顔を見合わせた。
「……シャルロの時に少し思ったけど」
「言うなスティラ。これが俺達の日常だ」
そろそろ先を歩く三人とも距離が開いてきたし、恐ろしい可能性を振り払いキッシュ達は距離を詰めるために速度を速めた。
ハルヴァではないが、キッシュ達も戦闘の疲労はそこそこ溜まってきている。
だが、幸いそれほど戦闘ダメージは受けていないのでこのままもう少し先まで進んでも大丈夫だろうと高をくくっていたのだが。
「ハルヴァがまた寝たよー」
「た た き お こ せ !」
ジェラの報告に全力で叫んで目の前のマジシャンの相手をする。
この階のモンスターは、最初の階に出てきたモンスターとはケタ違いに厄介だった。
受けるダメージも大きいが、それより厄介なのが状態異常を引き起こす攻撃を連発してくるのだ。
今戦っているのはやたらと睡眠を誘発してくるやつで、現在ハルヴァとビスコが眠り状態、キッシュもさっき一度寝て眠気覚ましで起こしてもらったところだ。
フィンもマヒ状態だが、マヒを治すアイテムはもう切れている。
「ジリ貧通り越してやばいー!」
「お前、次寝たらたぶん死ぬからな」
「それ叩き起こされる時に入るダメージでだよね!? それ思い切り味方攻撃だよね!?」
「だったら意地で寝るな!」
――などという戦闘を何度続けただろうか。
戻るに戻れず突き進むしかないというテンションで突き進んだ結果、次の階への入口を発見した。
「……これでまた同じようなモンスターがうじゃうじゃしてたら俺達死ぬな」
「とはいえ、戻れないよな」
「「…………」」
どうかモンスターがせめて普通の攻撃しかしてこないところでありますように、と全員で祈って、ほとんど木の根が絡まっているだけの階段とも呼べない代物を伝って下りていった。
――随分と長い間、下りていた気がした。
その場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのを肌で感じる。
地下特有の息苦しさがなくなり、かわりに体中を巡るような風が吹き抜けた気がした。
複雑に絡み合った木の幹や枝同士の隙間から光が漏れ入っているのか、空間全体が光を放っているようにも見える。
空間の内側にはきめ細かな苔が生え、足元も足を踏み出す度に苔の絨毯にやんわりと足裏が押し返された。
「すげー……」
キッシュの次に入ってきたスティラが頭上を見上げて呟く。
つられるように見れば、たしかにすごかった。先が見えない。
どれくらい降りてきたのかと唖然とする。
先の見えない天からは、複雑に絡んだ枝が地面へと降りていた。
それらはちょうど空間の中央部分で解け、また絡み合い、まるで何かの卵を守るかのように球状に広がっている。
大きさはキッシュが両手を広げてなお半周に届かないほどで、キッシュはその中に何かがあるのだとすぐに勘付いた。
おそらくこの空間を形作る上で中心となっているもの、明らかに異質な巨木を構成しているものがこの中にある。
「ちょっとあそこん中入ってくる」
「は?」
「お前らはここで待ってろよー」
「あー! キッシュだけずりーんだ!!」
「あたしだって行きたいのにー!」
「はいはい君達はちょっと待ってようね」
危険があるかもしれないと察してハルヴァがフィンとビスコをとどめてくれているのをいい事に、キッシュは球体へと近づいた。
苔の絨毯が木の根の床に変わり、染み出ている地下水が足元をぬらす。
球の下の方の枝を掴んでぐっと引く。
たわみはするが切れる心配はなさそうな事を確認して、手と腕に力を込めて体を引き上げ、枝に足を引っかけた。
左腕を球の内側に入れて枝を抱えるようにして、右手と右足で枝を押し開くと、なんとかキッシュの頭が通りそうな空間を作りだす事に成功する。
「おいキッシュ!」
スティラが下で呼ぶのに対して手を軽く振ってみせて、キッシュはできた隙間に頭を突っ込んだ。
そこから今度は両手を使って更に隙間を広げて肩を通せれば、後はずるずると体をずらして球体へと入り込む事に成功した。
緑の匂いが更に強くなる。
球体の中心は、まるでさっきの空間のミニチュアであるかのように、中心にまた枝の台座があった。
しかし今度は中央にあるのは木の枝でできた球体ではなく、淡い光をまとった球だった。
光で空間を満たしながらゆっくり回転している透明な球の中の中心。ほのかに青を帯びた部分に、赤く見たこともない紋が浮かんでいる。
キッシュが紋章球に向かって足を踏み出すと、空間を満たす青白い光が強くなった。
同時に耳鳴りに近い高い音が空間を支配して、キッシュは思わず耳をふさぐ。
『汝、何を欲す』
耳を閉じた手をすり抜けて、声が聞こえた。
『答えよ。汝、何を欲す』
声はあちこちに反響して聞こえていたが、自然とそれが目の前の球から発せられているのだとなぜかすんなりと受け入れられた。
少し低めの、男とも女とも判別が付けがたい声は、繰り返し同じ問いをキッシュへと向けてくる。
手を外しても耳鳴りは止んでいた。
光も今は再び淡いものへと戻っていて、ただ問いが繰り返されるたびに、連動するように光の色が濃くなる。
この紋が話しかけてきているのか、とよく分からない状況に多少戸惑いつつも、いつまでも止まない問いに、キッシュは少し考えて口を開いた。
今ほしいものといえば。
「あー……土地?」
『…………』
「ここくれ。なんでもくれんだろ?」
『……力は、欲しくないか』
「はぁ?」
何を言い出すのか、とキッシュは眉を寄せた。
『汝は、力を望むか』
しばし考えて、再度、今度は言葉として答える。
「今んとこは得体の知れないモンにすがるほどは求めてねーよ。自分でなんとかできることしかやんねーのが俺の主義だ」
一蹴したキッシュに、声は一瞬の沈黙の後、大気を震わせた。
耳鳴りとはまた別の轟音にキッシュは耳を塞いで顔をしかめるが、声はまったく意に介した気配はなかった。
『そこまで断言した生き物は汝が初めてだ』
先ほどよりも少し抑揚のついた声音は、どうやら興味を持たれてしまったようで、これ以上厄介ごとは嫌なんだが……とキッシュは頭を掻く。
「そりゃどーも」
『この土地はくれてやろう。元々は人間が作ったものだ、好きに使うがよい。ただし、この空間を侵すことは許さぬ』
「わかった」
『まぁ、時折訪れることくらいは許してやろうぞ』
「……そりゃどうも」
願いは聞き入れられた……だけではなく、どうも気に入られてしまったらしい。
喜ばしいんだか喜ばしくないんだかという感想を抱いてキッシュは球体から出ようと踵を返す。
入ってきた時と同じく枝に手をかけようとすると、周りを覆っていた枝が勝手に動いてキッシュが一人簡単に通り抜けられるだけの隙間が開いた。
また無理矢理に通り抜けられるのを嫌ったのか親切心なのかわからないが、ありがたい事はありがたい。
足をかけて飛び降りるキッシュの背中に声が届く。
『いずれ汝は力を欲する時がくるだろう』
「…………」
『その時はここへ来るが良い。汝にその覚悟ができた時、我は汝の力となろう』
「……そんな時なんてこねーよ」
そう呟いたのは、半ば願望のようなものだった。
***
というわけでキッシュは当分真の紋章は宿しません。
初陣の時か、中盤か、それとも最終決戦かはたまた宿さないか←
まだ壊れて数十年なのにやけに木の成長がいいのは紋章のせいでした。
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