「ねぇキッシュ、紋章石ってどんなものなの?」
廃材の山に腰掛けて武器の手入れをしていたら、通りがかったシャルロが尋ねてきた。
何度か戦闘を重ねているうちに、キッシュ達の武器についているそれらについて気になっていたらしい。
「お父さんに聞いてみたんだけど、あんまりよくわからなくって」
「俺もよくわかんねぇんだけど」
なんというか、あるのが当たり前みたいな存在なので、改めて「何なの?」と聞かれるとどう説明していいものか困った。

武器を強化するもの、という程度しか言いようがない。
「というわけでスティラ説明よろしく」
「お前がするんじゃないのかよ!」
ちくしょう、と悪態を吐きながらもごそごそと腰の袋からいくらかの紋章石を用意するあたり本当に使い勝手がよろしい。

「ほらお前そこそこ本読んでんじゃん」
「改めて聞かれると困るだって」
当たり前に使ってるからなー、とキッシュの感想と同じ言葉を吐いて、ら小さな紋章石の原石をシャルロの掌にころころと出した。
ひとつの大きさは爪程度のもので、武器にはめ込む紋章石を研磨した時に出た破片だったり、そのあたりで拾ったくず石だったりと、基本的に使い道はあまりない物を、粉末にしたりしてなにかしらの補助に使おうという庶民の涙ぐましい努力のためのものだ。

ちらばったその中から、色が違う五つをシャルロの眼前に並べる。
「これが紋章石な。色が違うのは属性で、火、水、風、雷、土の五行が基本なの」
「うん、紋章と一緒だね」
「北大陸だとそういうのがあるんだっけ。基礎は同じっぽいな」
石は透明度が高かったり色が濃いほど質がよく、また塊が大きい方が効果も大きくなる。その分値段も張るのだが。

「これってどうやって見つけるの?」
「鉱脈があって、そっから採れる。町とかで売ってるのとか、モンスターを倒すと、体にくっついてたり、体内で作られてるものもあったりする」
「たまに黒とか透明のも見つかるらしいけど、レアすぎて見たことねーや」
「持ってる人も見たことないよな。昔は見つかっても全部国が抱えてたらしいし。仮にあってもすげぇ値段になりそう」
そもそも、そういうレアなものは加工の方法も特殊らしいから、どの道使えないのだが。

ふむふむ、と律儀に相槌を打ちながら聞いていたシャルロが、納得したように頷いた。
「紋章にもいろいろ種類があるから、紋章石にももっといろいろな種類があるのかもしれないね!」
「かもな。スティラ、そのへんちゃんと聞いて勉強しとけよ」
「俺っすか!?」
次の教材である自身の弓矢を取り出しながらスティラが叫ぶがしれっとかわす。
弓の持ち手の少し上の部分には、黄色の紋章石が埋め込んである。
さっき袋から出した石よりも大きく、中央は小ぶりの饅頭くらいの大きさで、その周囲にさくらんぼくらいの大きさの石が数個配置されている。
ちなみにキッシュの剣は緑色の石で、同じような形ではめ込まれている。これは設計士が同じだったためなのだが。

「道具でも武器でも防具でも、こんな感じで仕込んである。数があるのは、大きいのが壊れた時のための補助と……まぁ、小さいなら数で補おうっていう、そんな感じで」
「質より量?」
「大きさより量って言ってー」
「一応、けっこういい石なんだぜ。俺達庶民が手に入れられるものとしてはさ」
これを見つけたのは、例の遺跡の中だった。
拳より大きな塊を見たのは初めてで、キッシュもスティラもミンスも最初紋章石だと認識するのに時間がかかった。
気付いてからは大騒ぎだったが。

あの時はイグラに褒められたっけなぁ、としみじみと思い出す。
他の属性の石もあって、それはイグラやビスコ、フィンといった村の人達の武器に使われたり、風車や暖炉といった村の道具の要に大事に使われた。
「スティラは雷で、キッシュは風?」
「そのとおり」

「この石の周りに入ってる模様、綺麗だね」
シャルロが弓に掘られた文様をじっと見つめた。
銀色で引かれた線は、石のはめ込まれている部分を基点にそれぞれの石をつなぐように描かれ、弓全体へと伸びている。
「それが回路。これが紋章石の効果を道具全体に行き渡らせるんだ」
「回路?」
「専門的なことはわかんないんだけどさ、そういうのを設計する人がいて、その回路が石の力を引き出すらしい」
そのあたりは本当に限られた人しか知らないから、本を読んでもよくわからないのだという。
しかし、設計士がいなければ、石があっても投げてぶつけるくらいしか役に立たないのは事実だ。

「相性とかもあるの?」
「あるある。基本一人につき相性がいいのは一属性だね。たまに二属性合う人もいるらしいけど」
これは練習用の武器を使って、その性能をどれだけ引き出せるかで判断する。
相性がよければ石の性能は十全に引き出せるし、悪いものだと半分も引き出せない。
ただの武器として使う事はできるので、それはそれで問題があるわけではないのだが、石の効果があるとないとでは、武器の耐久性や、モンスターを相手取る時に倒すまでの時間が違う。

一通りの説明を聞き終えて、掌に転がしたままだった石を光に透かしてみたりしながら、シャルロが疑問を口にした。
「僕とかも使えるのかなぁ」
「たぶん?」
「別に使えるんじゃね? 後で俺達の少し使ってみるか?」
この大陸以外の人が使えるのかどうか分からないが、あまりそういうのは関係ないように思うし、シャルロの父親は西大陸の出身者だ。
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶシャルロにほんわかとしつつ、気になる事があったので逆に質問をしてみた。

「逆にさ、紋章はどうやって使うんだ?」
「んー……僕も詳しいことはよく。紋章師の人に宿してもらって使うんだけど」
シャルロがつけていた手袋を外して見せてくれる。手の甲に滴のような模様があった。
「これは水の紋章なんだけど、これを宿しておいて、言葉を唱えれば効果が発動するんだ。宿せる個数とか威力とかは、人によって違うかな」
本当にすごい人だと詠唱もしないですごく大きな術を使ったりもできるし、とシャルロは続ける。
「お父さんなら、紋章球も持ってるかも」
「ほほう」
今度みせてもらおう、と心に留めながら、石を袋にしまいなおすスティラを手伝う。

異文化交流の面白さを感じながら、考えるのはやはり宿せるかどうかということで。
「ヒーアスみたいなのだろ。面白そうだよな、雷そのものをぶっぱなすとかさ」
「詳しい人こねーかな」
そうそうこないか、と笑いながら軽口を叩き。


「詳しい人」が直にやってくることを、まだ誰も知らない。





***
序盤のうちに教室開いておこうというわけで。
詳しい人はそのうち。……そのうち。

相性がよければ100%、悪いのは40%、普通のは50%〜70%くらい。
敵にも属性があるからそこで効果がばつぐんだったりいまいちだったり。

……ヒーアスはきっと適正雷なんだろうな。
そして防具に仕込んであったんだろうな(L時代)