さて、食料はこれでいいとして。
「問題は建物か……」
「……ロクムのじっちゃんに頼めばいいんじゃね?」
「あのじっちゃんは石職人だろ。だいたい、この間ぎっくり腰やってもう引退するとか宣言してなかったか」
首を捻るキッシュに、手をひらひらと振ってスティラが笑った。
「あのじっちゃんがそれくらいで引退するわけないって。まぁ、説得は俺に任せてよ」
「お前の「任せて」はあてにならん……」
親指を立てて言ったスティラに、キッシュはやれやれと首を横に振った。
ジラにある工房のドアを開けると同時にスティラは叫んだ。
「じっちゃん、俺達の拠点直してー!」
「そんな説明でわかるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「…………」
叫びと同時に木槌が飛んできてスティラの額に命中した。金槌じゃないだけよしとしよう。
クリティカルヒットで床に沈んだスティラをまたいで中に入ったキッシュは、工房のど真ん中で椅子に座っている老人に片手をあげる。
「なんだ、元気そうじゃんロクムのじっちゃん」
「こっちは病み上がりだ。大声を出させるな、腰に響く」
「ただのぎっくり腰じゃんか……それに大声出したのはじっちゃんの勝手……」
「あんまりぐだぐだ言うようなら出てってもらうぞ」
「すみませんでした話を聞いて下さい」
復活したスティラの言葉にロクムがじろりと睨みつければ、静かになった。
「ふん……やけに殊勝じゃねぇか。で、どうしたよ」
「俺達の拠点があんまりにもボロいんで、直してほしいんだけど」
「さっきと説明が変わっとらん!」
今度はキッシュ目掛けてノミが飛んできた。避けたけど。
これまでの経緯を
簡単に説明すると、ロクムは喉に詰まったような声を出した。
「……つまり、お前らが拠点とする建物がぼろいからこの俺に直してほしい、と」
「俺らが言ったのと変わんないじゃんー」
「最初の説明があれじゃわかるもんもわかりはせんわ!」
腕を組んで怒鳴ったロクムは、キッシュとスティラを交互に見る。
「しかし、また随分と厄介なことに首を突っ込んだな、おまえら」
「まぁな」
「しかも俺の本職が石職人だとわかって持ってくるか……」
「拠点の素材が石だからさ、じっちゃんならうまくできるかなって」
顔の横で手を合わせて笑うスティラに、ロクムはしばらく唸った後、尋ねた。
「ちなみにどれくらい酷いんだ?」
「昔村はずれに作ってた俺達の秘密基地よりひどい」
「……一度様子は見てやるか」
スティラの回答を聞いて、ロクムがのそりと立ちあがった。
出かけようと杖を取り出すロクムに、工房の奥から悲鳴に近い叫び声が届く。
「ちょ、親父!? 仕事まだ沢山溜まってるのに何言ってんだよ!?」
「俺はもう引退したっつったろうが!」
「そんな無茶苦茶な!」
「行くぞお前ら」
「……息子さんが頭抱えてるけど」
「あいつもいい加減一人立ちせにゃならんのだ。でなきゃあがる腕もあがらん」
「…………」
息子さんには悪いが、ここはキッシュ達もロクムの手を借りたいので、黙って一緒に出て行く事にした。
そして
拠点の有様を見たロクムは、しばらく言葉もないようだった。
「……お前ら、よくこんなとこに腰を据えようと思ったな」
「他にどこにもないもんで……」
呆れを隠さないロクムに、苦笑いを返すしかない。
「けどさすがに要所だっただけあって、石自体はいいもん使ってんな」
ゆっくりと建物を見た後ロクムはよし、と杖で地面を打った。
「ここまでぼろけりゃいっそやりがいもあるってもんだ。直してやろうじゃねぇか!」
「やりー!!」
「その代わり人手はよこせよ。……まぁ、ついでだしあのバカ息子も連れてきて手伝わせるか」
「大丈夫、そのへんはすっげぇ頼りになる人がいるから」
頭に浮かぶのは熊のような体格のアレストだ。彼ならこの石ひとつ持ち上げるのは軽いに違いない。
「当面はこのへんを集中的に修繕するか……。とりあえずは雨風を防げるようにしてくがいいよな」
「おう!」
建物はなんとかなりそうだと、キッシュとスティラはハイタッチを交わした。
これで拠点の中での野宿生活とはおさらばだ。
***
キッシュ達が昔作った秘密基地は、廃材と木の葉っぱで作ったすーげぇ子供子供してる秘密基地でした。
でも雨風は防げた。だから本拠地よりかは上。
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