さて、ここを拠点に決めたはいいが、今のままでは野営地と変わらない。
なにせ風も雨も防げない……森の中にある瓦礫の山という認識は持ちたくないので考えないでおく。
ともかく、ミズレの人達を呼び寄せるにしてもこれは酷い。
更に言うなら、食糧も調達しないといけない。
「多少はフォリアに頼めばから融通してもらえるとしても、それに頼りきりはよくないしねー。あっちもいい顔はしないだろうし。ていうか足りないし」
フォリアがハルヴァに持たせてきた融資のリストを見ながらスティラが言う。
それは持ってきたハルヴァも分かっているのか、「仕方がないだろ」と溜息を吐いた。
「それだけ捻出できただけありがたいと思ってくれよ。大変だったんだからな」
チノミを襲ったミズレへの融資というだけで、随分と反感も買ったのだろう。思い出したくないのかハルヴァはそれ以上語らなかった。
キッシュ達としても聞きたくないので、目下の問題に戻るとする。
「とりあえず補修と食糧の確保だな」
「食糧は頼み込むしかないかなー」
「土地だけはあるから喜びそうだけど……」
収穫時期の前だからかかりきりで手伝ってもらうわけには行かないが、基本的なアドバイスはもらえるはずだ。
***
イグラに報告をしてから、当分の間リロを離れる許可をもらう。
おおよその予想はしていたのだろう、驚かれるでもなく反対されるでもなく、やれる限り頑張ってみなさい、と激励とともにバックアップの言葉をもらった。
「カロナ、お前も一緒に行ってあげなさい」
「イグラ様……けど」
躊躇うカロナはイグラの体調を心配しているが、心配するなとイグラは笑って自身の膝を叩く。
「独り立ちにはちょうどいい機会かもしれないが、さすがにまだ骨が折れるだろう。それに」
一旦言葉を区切ってイグラは苦笑を浮かべる。
その視線の先には、キッシュとスティラにひっついて頬を膨らませているビスコとフィンがいた。
「今度はぜってーオレ達も一緒に行くんだからな!」
「あたしだけ置いてきぼりとかやだー!!」
村に一歩踏み入れたら最後、待ち構えていましたとばかりに引っ付いて離れない二人を剥がすのも諦めていたが、このテンションで砦までついてこられるとさすがに動きにくい。
「ビスコとフィンは、大人の手が必要だろう」
「それもそうですね……」
頬に手を当てて困ったように微笑むカロナから、少し安心した気配を感じてキッシュは少し申し訳なくなった。
一気に色々と巻き込まれて心配かけ通しだったんだろうな、と当分地道に活動することを心に決める。
どの道やることは瓦礫の撤去と畑仕事しかないのだが。
「ビスコとカロナ母さんまでくるなら、クグロもくるかもな」
「野菜があるからなぁ……」
一緒にいけると決まったらあっさりと離れた二人がカロナと一緒に旅支度をする間に、クグロに声をかけに村の外に広がる畑へと向かう。
美味しそうな野菜が太陽の光を受けて艶々と光る中、その中心でざっくざっくと土を耕している初老の男性の姿を見つけ、畑の外からキッシュとスティラは大声で呼んだ。
「「クーグロー!!」」
「なんじゃい二人とも、戻ってきたのか」
ざく、と鍬が地面に突き立てられる。
首にかけていたタオルで額に浮かんだ汗を拭った男は呆れた面持ちで二人に視線を向けた。
「カロナが心配しとったぞ。冒険もいいがほどほどに――」
「「新しい畑作りたくねぇ?」」
「どこにある!」
「……この食いつきっぷり。さすがだ」
感心半分呆れ半分で、クグロに拠点と決めた砦について説明する。
「……というわけで、力を貸してほしいんだけど」
畑から出て、草の上に円陣を組む形に座り、説明役を押しつけられたスティラがかくかくしかじか話し終えたところで、クグロは難しい顔で腕を組んだ。
「またずいぶんと大事になってきおったな……」
「気付いたらこんなことになったというか」
「まぁキッシュがその気になったらスティラでは止められんだろうからな。期待はしとらん」
「……むしろミンスがいなかっただけまだ穏便だと思ってください」
「……そうじゃの」
「で、畑のことなんだけど」
すぱっと話を切って尋ねたキッシュに、クグロは眉を上げる。
「さすがに収穫期終わるまでは手伝えとか言わないんで、アドバイスくれ」
「ふむ……ま、それくらいなら構わんだろ。それにどっちみち、わしは砦にはずっとおるわけにもいかんしな」
「野菜か」
「……まぁ、それもあるが。お前らがおらんくなって、わしまでここを出たら、誰がこの村を守るんじゃ」
「あ」
「そうだった……おじさんもいないもんな」
普段モンスターや盗賊から村を守ってくれる中心はミンスの父親だが、彼は今里に帰っている。
キッシュやスティラもいなくなってクグロまでいなくなるとリロの防衛がかなり手薄になってしまうのを失念していた。
「カロナ母さんとビスコも一緒にくるっていうから……ちゃんと毎日洗濯しろよ?」
「村長のところで寝泊りしたらいいかも?」
「クグロに村長の世話ができるわけないだろー」
「……おい、待て。カロナとビスコも一緒に行くのか?」
「うん」
「ずっとか」
「ひと段落するまではそうなるかな」
そういえば言ってなかった、と確信犯の笑みで言う二人にクグロは地面に手をついて項垂れた。
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