<次回予告>





キャロから意気揚々と帰ってきて峠を抜けたところで、やって来たのはトトの村。
先の戦争における最大の犠牲を被った場所のひとつであり、一時は焦土しか残っていなかったが、今では立派に復興されていた。

今一行がいるのはその地下。
かつて盾と剣の紋章が封じられてた場所と聞いて、言ってみたいとシグールが言い出したのだ。

人目につかぬよう造られた祠の扉を開けると奥に向かって空虚な穴が広がっており、薄暗い道が続いていた。
石壁を繰り抜いて作った棚の上には蝋燭が据えられており、自動的に灯りが奥へ奥へと誘導するかのように点いていく。
オベルの遺跡の照明もこんな感じだったと思い返しながらどんな仕組みなのか興味がそそられる。

誘導も何も一本しか道がないので一行は迷う事なく進み、やがて二手に分かれるところに出た。
ここまで奥に来ると肌寒い。
湿った壁は、触れるとひんやりと冷たかった。

「えーと、こっちの奥に盾があってそっちが剣だったっけ、ジョウイ」
「あ、うん。たしかそうだった……」
あの時中へ入った自分達の目の前に突然現れたのがレックナートだった。
今思えばもう少し分かりやすい説明をしてくれたってよかったものを。

あれからもう二十年経つのかと思うと感慨も一入なジョウイだった。
実際には百年経っていると言われても全く違和感がないくらい色々な事があった気がする。


物珍しそうに辺りを眺めていたテッドは、ふと分岐店の中央部分の壁につなぎ目のようなものがあるのに気付いた。
近づいて目を凝らしてみれば、小さな破片のような物が嵌めこまれているようで、よく見れば僅かに色も違う気がする。
「……なんだこれ」
一人ごちてその部分に触れた時、がこりと凹んだ。
「ぉ?」
「テッド?」
「……悪い」
「え」

瞬間、がらがらと音を立てて床が崩れた。


「なっ」
「え、」
「うわっ」
「テッドの考えなし――!!」
「だから悪いってー!!」
「悪いで済んだら軍隊も警察もいらないよー!」



ばしゃんと盛大な音を立てて水飛沫があがる。
落下地点が固い地面でなくてよかったかもしれないなどと現実逃避めいた事を考えながら、全員から非難の目を向けられたテッドは。無言で濡れた髪を掻きあげた。
……軽く触っただけなのに。

そこは巨大な地底湖だった。
その中心部分に落とされたらしく、見れば岸はまだまだ遠い。
仰ぎ見ると上はどこまでも暗く自分達が落ちてきたはずの穴すら見えなかった。
「早く岸に上がろう」
あんまり長く水に浸かってると凍えるよとクロスが言う。
確かに水は氷のようとまではいかなくとも冷たく、浸かっている首下はすでに冷え切っていた。
落ちた時にショックで心臓止まらなくてよかったとしみじみ思う。

「泳ぐには遠いな」
「ルック、風で運べる?」
「……ん」
クロスの肩に捕まるような形で浮いていたルックが頷いて詠唱を始め―――違和感に止めた。
そこで全員が、水が流れているのに気付く。

ゆっくりと、けれど徐々に速度を増しながら水は流れ始めていた。
六人を中心とした渦の形に。

「なんだこれっ!?」
足元から水が抜けていくような感じに、さすがに血相を変えてテッドが叫ぶ。
浮いていようにも水流が邪魔をして顔を水面に出すだけで精一杯だ。
「テッド!」
「どうした!?」
「まずい、皆がし」
最後まで言い切らずにクロスの頭が不自然に水中に消えた。

他の面々はともかくクロスは群島の生まれで水には強い。
明らかに不自然な沈み方に近寄ろうと手を伸ばし、足を引っ張り込まれるような感覚と共にテッドも水中に沈んだ。

水の中ではぐるぐると凄まじい勢いで渦が巻いていた。
それに巻き込まれながらも上がろうとするが、体は水底に向かって引き摺り込まれていく。


水泡で遮られる視界の中で、湖の底に暗い孔を見た気がした。
 

 

 





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次のWパロティへの繋ぎです。