<一蓮托生>





テッドが去ってからしばらく経ち。
児童書コーナーで己の昔の所業を突きつけられて悶絶していた三人はぱたりと同時に本を閉じた。
まさかこんな形で軍主(敵ボス)になった事を後悔する羽目になろうとは。
どんよりとした空気を纏う三人に、児童書を見にやって来た子供達は顔を引き攣られて遠ざかっていく。

ぼそりと呟いたのはクロスだった。
「……テッドだけずるいよね」
口元は笑っているが、醸し出す空気と目がそれを否定している。
ルックは今にも本を投げ捨てたそうな表情で言う。
「あれのは?」
「テッドはねー……ひたすら戦いから逃げてたらしいから」
そもそも本に残るような事したら追手がかかってくるからとかなんとか以前聞いた気がする。
どこからの追手かは聞いた事がなかったが。
「じゃああんたの時は?宿星だったんでしょ」
「……なるほど」
顔を見合わせ一つ頷き、三人はダッシュで伝記コーナーへ。

廊下は走っちゃいけません。





場所は変わって伝記コーナー。
部屋に入ると撃沈されたジョウイと本を手に肩を震わせているシグールがいた。
おそらく彼もまた同志。

いきなり入ってきた三人にシグールは顔をあげ、その勢いに軽く一歩引く。
「どしたの?」
「ちょっと過去の遺産を掘り起こしに」
ざっと背表紙に目を走らせ、クロスは目当ての物を見つけて本棚引っこ抜いた。

ぱらぱらとページを捲り、やがてクロスはにやりと笑った。
ありがとうターニャ。
君の偉業は忘れない。

道理でテッドはこれだけ持ってこなかったはずだ。
シグールとルックは開かれたページを覗き、同様の笑みを浮かべる。

――一人だけ逃げようったってそうはいかないよテッド。





その夜。
学園で本を漁り、何冊かは貸し出し許可を得たテッドは上機嫌で宿屋へと戻ってきた。
部屋ではルックはテッドと同じく借り出してきたらしい分厚い本に没頭しており、セノとシグールはそれぞれ伝記らしきものに目を通している。
クロスは裁縫。ジョウイの姿がないが、おそらくシグールの報復から立ち直っていないのだろうと判断して、テッドも本を読もうと椅子を引き寄せ本の表紙を開いた。

「テッドさん、少し聞きたいんですけど」
その時セノが申し訳なさそうに声をかけてきた。
ここなんて読むんですかと差し出された本を受け取って、テッドは声に出して読み始め。

「『彼は顔をあげ、ゆっくりと口元を吊り上げた。ばさりとマントが取り除かれる。現れたのは青年だった。彼はクロスを見ると、不敵に笑――――』」

ぴたりと声が止まる。
数文字先を追っていた視線が一気に速度を増し、そのページの最後までを黙読し、絶句した。
これは、まさか。

テッドの先を受け継いだのは、いつの間にか背後に忍び寄っていたクロスだった。
「『――――って言った。手伝ってやろうか、と。 戸惑うクロスから視線を船の主に向け、彼は言い放つ。』
「クロス、これは、まさか」
「懐かしいねえ、君と僕との運命の顔合わせシーン」
笑顔で言われて今度こそテッドは凍りついた。

ひょいとその手から本を奪い、ルックは予め調べておいたページを開いて朗々と語る。
それは冒頭にある主要人物紹介のページ。
「『その者右手に強大なる力を宿す紋章を持ち、類稀なる弓の腕とともにクロスの片腕として活躍した。名はテッドと言う。』」
「凄いですよねー」
「大活躍っていうのかね」
頭上で交わされる会話に、テッドは頭を抱えたくなった。

なんでそんなもんが残ってるんだ。
つか伝記の作者ターニャじゃねえか。
あいつ俺が船に乗る事になった経緯知らないはずじゃ。
誰だよ話したの、つーかクロス以外いねえよ。

それにしても、セノまで乗ってきているとは。
昼間の自分の行動を思い返し、顔を引き攣らせる。
「……お前ら、怒ってる?」
恐る恐る訊ねたテッドに、四人はただ笑って再び伝記を読み始めた。



 



***
一人だけ助かるのは一万年早いのです。
(百年では足りない)


一蓮托生:運命を共にすること。