<残虐非道>
「……あ」
「どうした、クロス」
はたりとクロスが足を止めたのは、トランの国境間際。ちょいむこうにはデュナン国がある、なーんにもない砂漠地帯だ。
普通の旅行だったら通らないような場所なのだが、来た道を帰るのもなんだったのでついでに一周してしまえというとある人物の意見による。
「向こうの方になんか発見」
「……は?」
目を眇めるテッドだったが、何も見えなかったらしくどういう視力してんだお前と呟く。
「あー……ほんとだ、なんかこっちに向かってる……?」
「……お前もかい」
呆れてテッドは弓矢を手に取る。
「どうしたのテッド?」
「こんな砂漠地帯、なんかいるとしたらモンスターかはたまた不審者か犯罪者か」
「僕たちは不審者か」
「馬鹿言え、俺達はモンスターだ」
ジョウイのツッコミにそう返すと、テッドはこいこいとシグールを手招きして、ひょいと肩車をして持ち上げる。
クロスはにっこり笑顔でジョウイの肩に手を置いた。
「……わかりましたよ……」
敗北の溜息と共にクロスを担ぎ上げたジョウイの肩の上に思いきり仁王立ちになるクロス。
それを見てシグールも立ち上がり、テッドとジョウイが青ざめる。
「……で、クロスにシグールそこの異常的視力の持ち主二名、何が見える?」
「ん〜とね……人」
「鎧着て」
「剣もって」
「足並みそろえて」
「「ザッザッザッ」」
「それは軍と言うんだよこのおおたわけ!!」
叫びツッコミをしたテッドの横顔がそこはかとなく疲れているように見える、に三千点。
ジョウイとルックは視線でそう会話した。
「軍って……トランの?」
「わけないだろ」
確かに、こんな辺鄙な所にトラン軍がいるわけがない。
だからといって、デュナンの軍でもあるまいし。
「あー……」
クロスが苦笑して、ジョウイの肩の上から飛び降りる。
「ルックにお客さんみたいだね」
「……ハルモニアってわけ、こんな所に」
「ん〜二百人くらいかなぁ。どーする?」
向こうはまだこちらに気付いていないのだろう、それを理解した上でシグールが問う。
このまま逃げてしまっても何の問題もたぶん、ない。
紋章の気配をたどったところで、そこまで正確に掴めるものではないのだから。
だが、「そんな気分じゃない」というのはこの六人中六人全員に共通していた。
「切り込んでもよし殴ってもよし喰ってもよし……」
どれも気分じゃないけどなとぼやいた参謀に、笑顔で立候補する斬り込み隊長一名。
「そろそろ頃合だと思うんだ、ね?」
左手を軽く掲げて彼が言う、言わんとしている事はよく分かった。
テッドは肩を竦めて、はいどうぞと投げやりに返事をする。
「何を……?」
ひらひらと左手を振って、クロスは笑う。
「ま、見てて」
近づいてきたのが、もう誰の目にも明らかだった。
土煙を立てて、砂漠の中、彼らは一糸乱れず行進する。
「射程圏に最後尾到達」
シグールの言葉に、クロスが一行の前に歩み出た。
突然現れた人影に、軍は戸惑い停止する。
その人影は、左手を高く掲げ、右手で支え。
閃光が、走った。
「……まさに」
大きく穿たれた穴。
唖然としてそれを見る四人に、テッドは苦笑する。
そういえば、クロスの紋章解放を見るのは初めてだろう。
「艦隊を落とす攻撃だ」
「……艦隊……ね……」
蒼白になったルックが続けて、よかったこれだけはされなくてと少し前の自分の行動を思い返し呟く。
「すっごいねー……」
罰の紋章の破壊力は凄まじい。久しぶりに見てテッドも戦慄が走った。
「はい、一掃したよ」
「だろーな……」
「じゃあ行こうか」
クロスの言葉に五人が頷く。
「あ、でもうこれでトランも終わりなんだよな」
「んじゃあ次はデュナンでも行く?」
ね? と北の方を指差して言ったシグールに、それだとハルモニアに近づくんだけどなあなんてツッコミを入れる事のできた人物は一人しかいなかったが、彼はなにやらしばし考えて頷いた。
「よし、じゃあデュナンで」
六人の旅はまだまだ続く。
そろそろ本来の目的は星の彼方に飛ばされていそうだ。
***
トラン終了且紋章解放。
……罰の紋章の解放は、ゲーム未プレイの私でもデモムービー見て感動しました。
残虐非道:行いが人の道から外れていると思われるほどの行い。