<傍目八目>





そう、既に誰も気にしていなかったと言える。
「すみませんが今日は二人部屋二つしか空いてないんで……」
「いいですよ、じゃあ二つお願いします」
へこへこと頭を下げる宿の主人にそう言って、クロスは一同を振り返る。
「二部屋だから、三人三人だね」
ベッド二つってことは必然的に三人中二人が同じベッドになるわけで。

「じゃあ今回はベッド割り振りもあるから籤で。一番から三番までが一部屋、四番から六番がもう片方、一番三番が同じベッド、四番六番が同じベッド」
ずいっとテッドが差し出した籤箱から、各自が無言で籤を引く。
最後に自分の分の籤を引いて、テッドは各自を見回した。
ちなみに、ベッド使用権については双方の合意があれば変わるのもよし床寝が出るのもよし。
以前に一度クロス・テッド・ジョウイという恐怖の図体でかいトリオが出来た事があり、この時は結局クロスと二人で寝るか床で寝るかの二択を迫られ床で寝た。ジョウイが。

「あ、僕一番」
「……僕六番」
「俺は五番」
「二番っ、やったセノ同じ部屋だね」
嬉しそうなジョウイの背後で、ふふふと笑う人影一つ。
「残念だったねジョウイ」
「……は?」
後ろからかけられた声に、嬉しそうなジョウイは振り向き、そこに立っていた彼が持つ籤を見て凍った。
「僕三番v セノと一緒にベッド権獲得v」
「〜〜〜〜〜っ!?」

「あー、ルック僕は四番だから一緒だね」
「……あ、そ」
「じゃあ僕とルックとテッドは東側の部屋もらうから、セノたちは西側でいいかな?」
鍵を渡してじゃあねーと手を振って荷物片手に去ろうとするクロス達に笑顔で手を振るセノとシグールの後ろで、項垂れていた影があったが誰も気にしない。

おそらく、シグールはジョウイとベッド交換をしないはずだ。
という事は、ジョウイは悶々として一晩過ごすわけで。
当然、明日は睡眠不足なわけで……。
(明日もここかな……)
元々自由気ままな旅だしどうでもいいか、と思い直したテッドもクロスについていこうとした時、宿の女将から声がかかった。
「ちょいとまった、お嬢ちゃんを男共と同じ部屋に突っ込むなんてあんたどういう頭してるんだいっ」

「「……は?」」

しばし硬直した客六人のうち、一番背の高い青年がぽんっと手を打った。
「あ、そうだった」
「は? え?」
「そんな美人さんを男共と同じ部屋に一晩だなんて危なくてしょうがない、安心おしよ、今晩はあたしの家の方においで」
ルックの肩に手を置いて、親身になって言ってくれた女将さんをしばし見ていた一行は、あぁと心の中でようやく納得した。

((そういえばルック女装してたんだ))

あまりにも似合い――もとい自然だったので、今まで誰も気にしなかったもとい忘れていたという罠。
行く先々でそういえば誰も突っ込まなかったが、あれは一体なんだと思っていたんだろう。
いや、慣れとは恐ろしい。

「は? い、いや僕は――」
「それにしてもねえ、男五人で女の子一人で旅なんて、なにか事情があるのかい? あたしでよければ力になるよ?」
「いや、それは――」
「その子は僕の妹なんですよ」
親切な女将さんに言葉を畳みかけられ、半ばパニックになっていたルックの反対側の肩に手を置いて、クロスが微笑む。
「ああ、そうなのかい」
「ええ、それでそっちの背の高い茶髪の彼が友人で、その隣の黒髪の子たちも兄弟で」
「ああ、そうなのかい、なるほどねえ……若い子達だけで旅なんて、大変だねえ」
頷いた女将に、クロスは笑って返す。
「いえいえ、これも立派な人生経験だって、親が」
「そうかいそうかい、それでお嬢さんはどうするんだい? お兄さんと一緒がいいかい?」
「そうですね、結構人見知りする子なので」

そうかいそうかい、と納得したかのように頷いて、女将はルックの肩を優しく叩いた。
「お兄さんと一緒なら安心だね」
沈黙と共に視線を逸らしたルックの肩を、クロスが優しく抱き寄せる。
それが兄に甘える内気な妹のように見えたのか、女将が二人を見比べて言った。
「それにしても別嬪さんだねえ、お兄さんも」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
「じゃあゆっくりしといてくれ」
「はい、ありがとうございます」
クロスが礼をして、六人は無言で階段を上がる。

「……妹」
「え、姉ってのはムリが」
「僕が、あんたの、妹」
「……ルック、あんまりその辺は根に持たない方が……」
苦笑したテッドに後ろからやんわり言われて、ルックはその双眼に怒りを満たして振り返った。
「いつか……いつかあの背後で笑ってた二人に女装させてやるっ……!」
「「は?」」
「二人とも気付いてなかったわけ!? セノの後ろで爆笑してたあの二人っ!」

クロスとテッドは顔を合わせる。
セノを除いた二人って、つまり、あの。

「……ま、まあ今まで何もなかっただけ幸運と思って……」
「そ、そうだよルック、ね?」

不機嫌なルックを宥めるのに、同室二名はかなり苦労したそうだ。

 



***
一回はやっておかないと(笑
意外に似てそうですルックと4主。そういわれれば、って感じで。
(同様:坊ちゃんと2主)


傍目八目:物事は第三者のほうがよく見えているということ。